第32話 ドラゴン娘、オカマと飛ぶ
「会いたかったわシルドラちゃん!」
「……そうですか」
感動の再会と言わんばかりに起き上がったラッキーちゃんに力強く抱き着かれるが、おっさんに抱かれても嬉しくない。あと汗臭いし加齢臭がする。
「あっ、ごめんなさい。数時間ぶりの再会だったから、つい」
「ん? 数時間?」
「? なにその反応……ちょっと待って。シルドラちゃんはいつからダンジョンにいるの?」
「数分前から」
「ほんとに!? あたしはもう何時間もこのダンジョンを彷徨って逃げ続けてるのだけど」
「……つまり、このダンジョンは時間の流れが違う?」
「その可能性が高いわね」
いったいなんの為にそんな設定をダンジョンに?
……ああそうか、間に合わせない為か! あのクソ犬め!
「シルドラちゃん、なにを考えてるのか知らないけど、表情が恐いわよ。Be coolよ」
「あっはい。ところで、他の人たちは?」
ラッキーちゃんは首を横に振った。
「一緒にいたみんなは……もう死んだわ。他は分からない。下のフロアへ行く勇気はなかったの。なんの情報も無くてごめんなさい」
「いえ。とりあえず一緒に行動しましょう」
「ええ、お願い」
「――っと、その前にこれどうぞ」
数時間も逃げ続けていたのだから空腹と喉の渇きが酷いはず。そう思ってアイテムボックスから、数日前にお店で大量に買った弁当とペットボトル入りの水を一つずつ出して渡す。
「ありがとう。ちょっとだけ休憩させてもらうわね」
そういうわけで、地面に座って食事タイムに入ったラッキーちゃんを守るべく、俺はちょくちょくやってくるスライムベビーを燃やしたり魔剣で真っ二つにして倒し続けた。
ラッキーちゃんが食事を終え、綺麗に蓋までされた弁当を置いて手を合わせてから立ち上がった。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「それはなにより。じゃあ移動しようか」
「その前に、シルドラちゃんはお着換えよ」
「お着換え……? なぜ?」
「なぜって、そりゃあ本領を発揮してもらう為よ。今の服装はお洒落だけど戦闘向きじゃない。普段してる格好の方が動きやすいでしょ?」
「まぁ、アレでも防具ですし」
「なら尚更ね。ほら敵が来る前にちゃっちゃと着替える」
拒否する理由もないので指示に従い、素早くその場で着替えることにした。ラッキーちゃんは見張りを兼ねて背を向けてくれていた。
さて、これどうしよう……。
着替えは終わったが、装身具『試練の十字架』を身に着けるかどうか悩む。
「シルドラちゃん、動きがないようだけど……着替えは終わったの?」
「まぁ……最後のこれを装備するかどうかで、ちょっと」
「振り返るわよ。いいわね?」
「はい」
「あらお洒落な十字架。これもダンジョン産の装備品?」
「はい。ただこれ……効果がちょっと、一人用と言うか、救出には全く向かなくて……」
「ふーん、どういう効果なの?」
「えーっと、簡潔に言うと、レベルが上がりやすくなる代わりにダンジョンの難易度が上がって、モンスターとの遭遇率が跳ね上がる」
「…………なるほど」
ラッキーちゃんの顔が険しくなり、考えるポーズを取った。その姿は年相応のおっさんで、オカマでさえなければ魅力的に見えた。
結論が出たのか、ラッキーちゃんは考えるポーズを止めて言った。
「うん、着けちゃいなさい」
「え、いいの?」
「構わないわ。あなたが私を守ってくれるんでしょ?」
「はい」
「なら問題ない。どうせ、もう生き残ってる人なんていないと思うから」
「……」
いないと思う、か。
わざわざ自分の危険を増やす意味が分からないけど、そう言うなら着けよう。
試練の十字架を装備して胸の谷間に収納。
「よし、行こう」
「ええ、行きましょう」
ラッキーちゃんを守りながらダンジョン攻略を本格的にスタートし、さっきと違って矢鱈と遭遇するようになったスライムベビーを蹴散らしていく。落ちるドロップ品は『薬草』、『毒消し草』、それと『スライムボール』。
スライムボールは野球ボールくらいの大きさのぷにぷにしたゼリー玉で、投げるとねばねばした液体が飛び散る消耗品。結構な頻度で落ちるのでラッキーちゃんに幾つか持ってもらった。
ただスライムベビー相手には不要で、出番も無く階段を発見して二階へ。
二階は一階と変わらない構造のフロアだが、徘徊しているモンスター……スライムがちょっと違った。
「シャボンスライム?」
「それがこいつらの名前なの? そのまんまね」
『シャボンスライム』……直径一メートルほどで、シャボン玉のように薄い膜の姿でフヨフヨ浮いているスライム。内側にある赤いコアが浮いていて、原理や動力は不明だが空中を自在に移動している。速度は人間が小走りする程度。
数体が飛んでいて、ぶうかるとお互いにぽよんと弾かれている。
触るのは……なにが起こるか分からないし、初手は遠距離攻撃で様子見がいいな。なら――
「ラッキーちゃん、ボール当ててみて」
「やってみるわ」
彼は見事なスリークォーターの投球フォームを披露し、スライムボールを投げた。高速で真っ直ぐ飛んだスライボールが当たったシャボンスライムは、衝撃で吹っ飛ばされながらもボールを割らずに内側に取り込みながら体勢を立て直した。中ではスライムボールがじゅわ~っと溶け、すぐに消えた。
うわぁ……触らなくて良かった。
攻撃したことでシャボンスライムたちは一斉にこちらを向いて飛んできた。
【ファイアブレス】! ――うわっ!
火を吐いて燃やしてみれば、シャボンスライムたちが一斉にボンッと爆発した。
こいつら、可燃性ガスかよっ!
威力もそこそこで、距離が開いてなければダメージを食らっていた。あと、当然のようにドロップアイテムは無い。
「ラッキーちゃん、大丈夫?」
「ええ、でもここは危険ね。早めに次の階へ行くことを提案するわ」
「同感。ということでちょっと失礼」
「えっ、ちょっ――まさか!」
そのまさかだ。
魔剣をアイテムボックスに仕舞って背中からラッキーちゃんを抱きかかえた俺は、翼をはためかせて飛んで移動を始めた。
「あ、ああああああああああああっ!」
ラッキーちゃんは高所恐怖症なのか、ジェットコースターを乗ったかのように絶叫している。ちょっと面白い。
「はやいこわいヤヴァイってあああああああああっ!? ちょっ、待って待って待って! 前、まえ、マエえええええええええ!!!」
少し先ではシャボンスライムの群れが行く手を阻むが、スイスイーっと回避しながら通り抜ける。その間もラッキーちゃんは叫ぶに叫ぶ。うるさい。
「舌噛むから黙った方がいいですよ。それとその声でシャボンスライムに気付かれます」
「っ……!?」
俺の指摘にラッキーちゃんは体を強張らせながらも黙った。
早々に階段を発見し、三階へ。




