第30話 ドラゴン娘、デビューする
「さて、シルドラちゃんは芸能界やマスメディアについて、どこまで知ってる?」
「実体は全く知りませんけど、どっちもクソだってネットで見聞きしてます」
「うふふ、そう思っているなら、いきなり仕事の話から入って問題ないわね。シルドラちゃんは愛想笑いとか出来る?」
「いえ全く」
「でしょうね。第一印象からそんな気がしてたわ。あなたは変に演技をするより、ありのままでいた方がいいわね」
「はい」
なら、とりあえず仏頂面で黙っておこう。
「それでなんだけど、スタジオに着いたらまずスタッフや偉い人たちに威圧しておきなさい。あいつら手を出しても大丈夫と分かったら、平気で接待させようとするから」
それって――
「性的に?」
「ええ、同業として恥ずべき実情だわ」
摘発とかは……まぁ無理だわな。
「で、威圧ってどんなことをすればいいです?」
「そうね……尻尾で地面をビターンと叩きつけるのとかどうかしら?」
「ああ、いいかも」
如何にも不機嫌ですってアピールだし、床にヒビでも入れればびびってくれるだろ。最悪、佐藤さんを通じて防衛省の方から苦情を入れさせよう。
「ただ、演技とは別に役作りは必要よ」
「役作り?」
「カバーストーリー……雑誌の方じゃなくて、作り話の方の意味で、つまり、あなたの個人情報を探られないようにする為の、架空の過去があった方がいいってこと」
架空の過去……?
「……それって、アイドルとか芸能人が年齢でサバ読んでたり、出身が宇宙人とか魔界とかの設定ってやつです?」
「まぁそんなところね。モンスター娘は見た目がいいんだし、適当に十七歳の生娘ですって言ってもいいわ」
シルドラさんじゅうななさい……マジで言う羽目になりそう。
「架空の過去を作るとして、どれくらいの設定にすれば?」
「年齢と、元はどういう人間でどんな生活をしていたのか、くらいでいいわ。言動の不一致にならないようには気を付けてね」
「分かりました」
となると……十七歳で、家族はモンスターの襲来で死にました。ダンジョン探索に集中したいのですが、政府からの依頼で芸能界に関わることになりました。
これでいくか。これなら自分のことを深くは聞きずらいし、動機が分かりやすい。バックに国が関わってるから下手なこともされない。
という設定をラッキーちゃんに聞いてもらうと、こう返ってきた。
「悪くないわね。あとは私が対応してあげるから、余計なことをしたり言ったりしたりしないでね」
「はい」
話も終わって暫く経ち、でかいテレビ局のビルに到着。
ラッキーちゃんは顔パスで駐車場に入り、車から降りて屋内へ移動。すれ違うスタッフさんたちに挨拶していき、まず通されたのは楽屋。
おぉ、本物の楽屋だ!
「まずはここで髪を整えたり化粧をしたり、撮影用の衣装に着替えてもらうわ」
ちょっぴり感動していると、ラッキーちゃんが説明してくれる。一緒に入ってきたその手の専門家らしい女性たちがニコニコ笑顔で口を開いた。
「はーいじゃあ、まずは髪を整えましょうか」
「その次にメイクね」
「最後に衣装に着替えるから、スリーサイズ計りますねー」
促されるままにあれやこれやされ、じっくり時間を掛けて完璧なヘアスタイルとメイク、流行の衣装を着せられた。まるで人形のような扱いで、化粧台に座って鏡に映る自分が自分じゃないみたいで、ちょっと落ち着かない。
撮影まで少し時間があるのでこの場で待機となり、提供された高そうな一口チョコを食べつつペットボトルの紅茶を飲んで休憩。ラッキーちゃんは段取りの確認の為に先にスタジオへ行った。
そうしていると楽屋のドアが開き、見知らぬ美少女と敏腕マネージャーっぽい雰囲気のスーツの女性が入ってきた。
「ルルさん、ここでいいの?」
「はい、ここで構いませんよ。――おや?」
「……わーお」
俺の顔を見て呆然とした美少女は、ものすっごく嬉しそうな笑顔で近づき、隣に席に座ると言った。
「これって運命なんじゃないかと私思うんだ。ねぇ、あなたもそう思わない?」
「いや全然」
なに言ってんだこいつ。というか、別のアイドルだかモデルだかがこの部屋に来るって聞いてないんだけど?
「フウワさん、彼女が困っているでしょう。落ち着きなさい」
「はーい。今日はよろしくね」
「はぁ……」
今日は? あとでラッキーちゃんに聞いてみよう。
隣で彼女が撮影向けに整えられていくのを見守っていると、なんとも言えない不思議そうな表情のラッキーちゃんが戻ってきた。
「シルドラちゃん、ちょっといい?」
「あっはい」
呼ばれて付いて行くと、誰もいない通路の隅にきた。
「ごめんなさいね、ちょっと予定外のことが起こったみたいで、今からあの子と一緒に撮影とインタビューを受けることになったわ」
「まぁ構いませんけど、こういうことってよくあるんですか?」
「なくはないわ。けどおかしいのよ。そんな予定は誰も組んでいないし、そもそも彼女たちを見た覚えもないっていうの。でも思い出そうとしたら記憶にあるのよ」
なんだそりゃ?
「ま、気にしても仕方ないわ。もうそろそろ時間だし、行きましょう」
というわけで、考える暇もなく撮影スタジオに移動し、さっきの美少女……フウワと一緒に撮影が始まった。素人なりにポーズを取って様々な衣装に着替えて沢山撮られた。水着どころかメイド服やバニースーツまで着せられた。困惑である。ラッキーちゃんも本気で困惑していた。
撮影が終われば、別の場所でインタビューの時間。
事前にどういう質問かの台本を渡され、当たり障りのない答えを言って終了。
お疲れさまでした、とお互いに頭を下げて終わりといったところで、隣に座るフウワが伸びをしながら言った。
「あー楽しかった。まさかこんなところで、こんなに早く再開できるとは思わなかったよ、ねぇシルドラ」
「フウワ?」
なにを言ってるんだ、こいつは?
「あーそっか。こんな姿に加え、認識阻害をされてるから気付けないか」
立ち上がったフウワは軽い動作とは裏腹に、人間離れした跳躍でルルとかいう敏腕マネージャーの隣に移動した。
「女神様、もういいよ」
「分かったわ」
敏腕マネージャーが指パッチンした瞬間、二人の姿が変わった。見覚えがあるどころか殺すべき宿敵――ワフとルシエールだった。




