第29話 ドラゴン娘、オカマと出会う
ダンジョン『カエラズの道』での顛末を佐藤一郎に報告し、ドッグタグを自衛隊に返却。そのあとはホテルに戻って心身共に療養すること早数日が経った。
食堂にてテーブルいっぱいに料理を並べて食事中、誰かが横に立った。
「相席、よろしいですか?」
聞き覚えのある声に振り向けば、スーツ姿の佐藤一郎が営業スマイルで立っていた。
「ん、どうぞ」
「失礼します。あっ、これいただいても?」
「どうぞ」
対面に座った彼はクロワッサンを手に取ると、小さくちぎりながら食べつつ言った。
「前回のダンジョン探索、お疲れさまでした。お陰で殉職した自衛官の遺族にはしっかりと死亡報告ができましたし、パーティー編成についてのルール作りやモンスター娘に関する法律の改正も進みました」
どれもニュースでやっていた。ネット上では政府の動きが異常に速いことに対して、好意と批判、そしてそれほどの脅威が潜在していることに不安の声があった。
「……ワフについては、公表するんですか?」
「いえ、機密扱いとなりました。模倣犯が出ないとも限りませんし、世界に見切りを付けられて聖杯に破滅を望まれたら敵いませんからね」
妥当な判断だ。ワフみたいな奴は一人いれば充分だ。
「で、わざわざ訪ねに来た理由は?」
本題に入ると、佐藤さんは勝手にコーンスープを飲んで喉を潤わせてから言った。
「……最近、報道規制を多用したせいでマスコミ関係からの突き上げが激しいんですよ。でですね、今話題のモンスター娘を取材したり、広告として使いたいって要望が来ているんですよ」
まぁ来るだろうな。モンスター娘ってまだまだ謎が多いし、基本的に美人ばかりって最近分かってきたし。
「それで……対価として、許可しちゃいました。シルドラさんの芸能デビューを」
「……はい?」
いやなんでもう許可しちゃってるの!? 本人の意思は!?
驚きのあまり食事の手が止まってしまう。
佐藤さんも本意ではないのか、申し訳なさそうな表情で続けた。
「すいません、上からの指示なんです。流石に私ではどうすることもできませんでした」
「上……? 上って、防衛省のお偉いさん?」
「行政のトップ、とだけ言っておきます」
内閣じゃねぇか! そりゃ確かにどうしようもできないわ。というか、特別職国家公務員の身であるとはいえ、国民の一人を勝手に芸能界に売り込むなよ。
「ん? ちょっと待った。公務員が副業していいの?」
「問題ありません。モンスター娘に限り、先日の法改正でそのようになりました」
「マジか……」
流石は政府とマスコミ、汚い。ウケのいい法改正の裏で本命の法改正をこっそり進めるとは……。
「そういうわけで、よろしくお願いします」
よろしくしたくないです。
「それで、私はいつどこでなにをすればいいんです?」
「ラウンジで待機しているちょっと変わった男性について行ってください。中学の頃から付き合いのある私の友人で、シルドラさんのサポートをお願いしたら快諾してくれました。容姿はスキンヘッドの中年で、派手な服を着ています。名前は大吉幸楽。もしくはラッキーちゃん」
「ちゃん?」
「ちゃんです。言い方はアレですが……彼、いわゆるオカマですから」
「ああー」
それならちゃん付けも納得だ。
「あんまり長く待たせるのも悪いので、早めに会いに行ってください。では、ごちそうさま」
佐藤さんが席を立って去っていく。それを見届けた俺はちょっとペースを速めて朝食を終え、ラウンジへ。
情報通り、スキンヘッドのおっさんがいて、優雅にカップとソーサーを持って一服していた。ド派手な色彩を合わせた衣服を着ているが、色合いが調和していてしっかりと着こなしている。
近づけば彼は俺に気付き、ニコッと笑顔を見せてカップを置きながら立ち上がって可愛らしい動作でぴょこぴょこ近づいてきた。
「あなたがシルドラちゃん?」
「あっはい。ペンシルドラゴンです」
マジもんのオカマだ……初めて会った。
「初めまして、あたしはラッキーちゃん。はいこれ、名刺よ」
「これはご丁寧に」
丁寧な姿勢で名刺を差し出してきたので、こっちも同じように丁寧に受け取って確認。
777芸能事務所
代表取締役 兼 芸能・アイドルマネージャー
ラッキーちゃん(大吉幸楽)
社長かよ! というか、本名がカッコなんだ。
「イチローから聞いてると思うけど、今回、あなたの芸能デビューをサポートすることになったわ。早速で悪いけど、車で移動しながら話をしましょう」
「はい」
駐車場へ移動し、いざ車に乗ろうとしたところで足が止まる。
「あの、車ってこれ?」
「ええ、あたしの愛車よ。こういうのって、ちょっとした時に乗せてあげると喜んでくれるのよ。アイドルでも芸能人でもプロデューサーでもね」
「はぁ……」
随分とまぁ打算的だこと。
目の前にあるのは真っ赤な超高級スポーツカー。ドアが羽のように開いて、なんとも座り心地が良さそうなしっとりフカフカなシートが、乗れよ、と主張している。
傷つけないように翼とか尻尾の向きや動きに気を使いながら乗り込み、シートベルトを装着。
「じゃあ行くわよ」
エンジンが始動し、素晴らしい加速で車が走り出した。




