第24話 ドラゴン娘、強敵に喜ぶ
飛んだまま五階に下りれば、そこは暗い中に続く曲がりくねった細い一本道だった。天井は高く壁は遠く離れた位置にあり、幅が一メートルもない道の左右は真っ暗闇の奈落となっている。
焦らせて落とす系のギミックっぽいな。
「ん!?」
背後からさっきよりも強烈な気配を感じて振り返れば、入り口に明らかなボスエネミーっぽいモンスターが現れていた。
そいつは鎧を着せた骨だけの馬……『スケルトンホース』を二頭立てでチャリオットに繋いでいる。
そのチャリオットは厳つくトゲトゲに装飾されていて、首から上が無い豪華な意匠の西洋甲冑……レアモンスター『デュラハンロード』が堂々と座っていた。
デュラハンロードは座ったまま片手を前に出して合図を出すと、馬が力強くチャリオットを牽引して走り出した。道なんて関係なく、宙を走っている。
……ああ、強敵から逃げろ系のフロアか。
普通のモンスター娘なら逃げ一択なんだろうけど……生憎、こっちはドラゴン娘で空を飛べる。逃走は容易だ。とはいえ急かされるのは嫌だし、どうせこの先には妨害するギミックが満載だろう。
だったら、今ここで――
「別に倒してしまっても構わんか」
誰に伝えるでもなく言葉にする。口元が歪んでニヤリと笑っているのを自覚する。この闘争は抑えられないし抑える気もない。ワフとスラスラには悪いが、ちょっとここらで気分転換だ。
魔剣を構え、正面からチャリオットに突っ込む。デュラハンロードは立ち上がるとアイテムボックスのように空間から武器を取り出して構えた。大きな鍔があって、長くて突くことに特化した円錐形の馬上槍……いわゆるランスだ。
間合いに入った瞬間にランスの突きが精確に俺の顔を捉えた。魔剣で逸らしながら斬ろうとするが、ランスが思いの外に重くて振るえず、お互いに通り過ぎた。
振り返ればチャリオットは壁の中を通り抜けて背面を見せず、遠く離れた場所から正面を向いた状態で接近し始めた。加速が終わったのかさっきよりかなり速い。
……やばっ!
デュラハンロードが構えている武器がいつの間にか変わっていた。ランスから巨大なボウガン……バリスタに。それはまるで現代のセミオートライフルのように連続で矢を発射された。回避行動を取るが狙いがかなり正確で、しかも動きを予測してわざと外れたところに撃ってくるので避けにくい。
矢が飛んでこなくなった頃には既にチャリオットはかなり接近していて、デュラハンロードは斧槍……ハルバードを構えていた。
攻撃態勢が取れていない俺は、魔剣でハルバードを弾きながら避けるのが精いっぱいだった。
チャリオットは再び壁の中へと隠れ、反撃の隙を与えない。
くそっ、どうする……燃やすか?
だが、ブレス中に矢を射られたら、当たる前に燃やせるか、或いは躱せるか?
……あっ、盾あるじゃん。
手に入れたばかりのラウンドシールドを取り出して構えつつ、息を大きく吸って待機。
――来た! 【ファイアブレス】!
遠くから出たチャリオットが近づきながらバリスタが発射され、大きな矢が幾本も飛んでくる。駄目元で横へ少し回避しつつ燃やして撃ち落とす為に火を吐けば、最初の数本は回避成功し、数本は燃えたまま届いてラウンドシールドに当たって防ぎ、残りは燃え尽きたようで飛んでこなかった。
反撃を警戒しながらも充分にブレスを吐き続け……止める。一本道は溶けて崩れ落ち、チャリオットは跡形もなく消えている。
だが依然としてデュラハンロードの気配はしていて、離れた位置の天井からデュラハンロードが降り出てくると宙に浮いた。
まぁ、そりゃあの程度で死なないわな。
デュラハンロードは空間から大剣を取り出して構えた。
……来る!
恐らく本気になっただろうと予想して集中していると、デュラハンロードは一瞬で姿を消しては現す瞬間移動を繰り返して左右に動き、攻撃タイミングを計らせないようにしてきた。
右、左、右、左、右、左――後ろっ!
視界から消えて気配が背後に現れ、反射的に翼を使って急反転しながら魔剣を振るえば、デュラハンロードが大剣で防いだ。ドラゴン娘の膂力に回転力を加えた攻撃を。
「ハハッ」
笑いが零れた。ゴブリンみたいな路傍の石ころでなく、足元にすら手が届かない崇高な神様でもない、丁度良い強敵に巡り合えた喜びが抑えられない。
そのまま数太刀打ち合いつつ【ファイアブレス】で怯ませて一撃を入れ、よろめいたところに【テイルスイング】で吹っ飛ばせば、甲冑が凹んだデュラハンロードは暗い空間に溶け込むように消えた。気配も感じられない。
逃げた? いや、不意打ち狙いだな。ならば――【ドランクブレス】!
奴に酔いが効くとは思えないが、本命は大量に吐き出した白い煙だ。動きがあれば必ず煙の動きが変化するので、それで見極めるつもりだ。
……そこっ!
右側から煙が変に揺れ動いたので魔剣を振るえば、大剣とぶつかった時の金属音と衝撃が発生し、デュラハンロードが姿を見せた。だが、奴はすぐに後退して姿を消した。
何度か同じことを繰り返すが、隙を見せてくれない。
これでは持久戦だな。アンデッドにスタミナの概念なんて無いだろうし、こっちが不利か。もしくはそれが狙い――か。
攻撃を防いで無理に反撃してみるが、空振りに終わる。むしろ隙を晒したせいで更なる攻撃を防ぐはめになった。
なにか手は…………あるな、聖水。そういえば五分経ったっけ?
攻撃を防ぎつつ隙を見て胸の谷間に仕舞っていた聖なる瓶を出して確認。
むぅ、まだか。
中には若干黄色い液体が入ったままで、聖水には変わっていない。早く変われと思って見つめながら、片手で魔剣を振るってデュラハンロードの攻撃を防ぎ、反撃に【テイルスイング】をして振り払う。
時間稼ぎの為に入り口付近を飛び回って逃げながらの戦闘に変えて何秒か。聖なる瓶に変化が起き、内部の水が微かに光りを放つ透明で綺麗な水……『聖水』に変わった。
……楽しかったよデュラハンロード。上手くいけば、多分、次の攻撃でお前は倒れる。上手くいかなかったら実力不足と手札不足ってことで、逃げさせてもらうよ。
「じゃあ、終わりにしよう」
行動パターンは大体理解した。ので、タイミングぴったりに真横に現れたデュラハンロードの大剣を最低限の動きで回避しつつ、瓶の蓋を口で開けて振り掛けた。
聖水が当たるとデュラハンロードから煙が噴き出し、体を震わせて硬直した。その大きな隙を見逃さず、聖なる瓶をアイテムボックスに仕舞ってから両手で魔剣を構え、回転を加えた全力の一撃を叩き込んだ。
それによって甲冑が砕けながらデュラハンロードは吹っ飛び、壁に激突するとバラバラになって奈落へと落ちていった。レベルが上がり『Lv.29』になった。
凹んだ壁にはドロップアイテムが残されていた。




