第22話 ドラゴン娘、分断される
首が落ちたゾンビはその場に倒れ、すぐに溶け始めた。
くそっ、こんなの見せたくなかったけど……!
このままこの自衛官をモンスターのままにするのは忍びなく、魔剣をアイテムボックスに一旦入れてから死体を持ち上げ、まずは首周りを探ってドッグタグを引き抜いてアイテムボックスに仕舞った。これで彼の死は正式に認定され、殉職となるだろう。あとは動く死体なんぞにさせない為に、俺は覚悟を決めてがぶりと食べ始めた。
流石に食べてゾンビ化はしないよー、って神様の声が聞こえた気がしたからだ。
ワフがさっきから黙っているのでそっちに顔を向ければ、青ざめた顔でぽかんと口を開けて立ち尽くしていた。
うんまぁ、予想通りドン引きしてるな。俺だって他人だったら同じ反応する。
けど、既に腐ってる人間の肉、意外とイケるし聞いてみるか。
「……食べる?」
「いや、いいっす」
手を横に振って即座に拒否された。ので、さっさと全部食べ終えた。これで自衛官がモンスターとして復活することはないだろう。
「よし、行こうか」
「その血、拭いた方が良くないです? 猟奇殺人したみたいになってますよ」
「……タオルが無い」
「さいですか」
今度、濡れタオルを幾つかアイテムボックスに入れておこう。
仕舞っていた魔剣を出して移動再会――と思ったら、部屋から出て数メートル歩いた通路の先で、ゾンビが一体倒れていた。近くには大量の空薬莢と弾倉が転がっていて、さっきの自衛官が戦って倒せなかったのだと分かる。
「ワフ、私が倒すから――」
「オラァッ!」
ええええええええ!
また、ワフが勝手に動いた。
大きく跳躍して空薬莢の上を飛び越えた彼女は、そのままゾンビの頭を力強く踏みつけた。グチャッと潰れて血と一緒に脳やら目玉やらが散らばった。
「フッ……どや!」
どや、じゃねぇよ。ワフにも倒してもらうつもりだったけど、やりたいんなら一声先に掛けろ。不意に同時攻撃することになったら危ないだろ。
……まぁ、びびったりせずに倒せることが分かったし、いいか。
「行こう」
「あれ? そこは褒めてくれないんですか?」
褒められたかったのか。
「……慢心はダメだ。勝って兜の緒を締めよ、と言うだろう。けど、今の一撃は見事だった。イイセンスだ」
「イイセンス……それ、昔流行った潜入アクションゲームの有名なセリフですよね?」
「バレたか」
「これでもそこそこゲームやってたので」
なるほど。だから戦いそのものに忌避感がなかったのか。だとしても行動が迂闊過ぎるのはなんとかした方がいいと思う。
移動を再開して進めば、通路上でゾンビが何体も倒れていた。ゾンビの間を縫うように急いで進めば、倒さずに通過できそうだ。だがもし罠が配置されていたり別のモンスターが潜んでいたら危険だ。
「ワフ、ここは慎重に一体一体――」
「倒して行くんですね!」
そうだけどっ! 勝手に動くな馬鹿!
跳躍して手前からゾンビの頭を潰して行くワフ。ちょっと怒りたくはなったがこのまま放っておいても全部倒せそうなので様子を見る。
「なにっ!?」
動かず待機していたら、俺より前の地面と天井が音も出さずに高速で動き、ピタリと上下にくっついて塞がった。
「やっぱりダブルミーニングか!」
壁になった地面と天井を魔剣で斬るが、分厚いせいで崩すのに時間が掛かりそうだ。ファイアブレスで土を溶かして穴を開けることも考えたが、上手くいった場合はワフが焼死しかねないので却下だ。
斬れども斬れども、地面と天井がくっついた壁が続く。
……おかしい。壁になる直前に見えた厚さは既に超えている筈なのに……まさか、ワフが先に進んでいるから壁の厚みがその分だけ増している?
それとも……。
手を止めて振り返ってみる。後ろには今まで進んだ曲がりくねった道が続いているが、本来であれば僅かな上り坂になる筈が下り坂に変わっていた。
「完全に分断されたか。しかも戻れない」
これはマズイ、非常にマズイ……。
ワフはまだ新人だ。ゲームをやっていたからダンジョンがどういうものかは理解しているだろうが、このダンジョンは後退が不可能。もし強敵に出会ったら強行突破しか道がない。その場合、更なる危機に陥る可能性がある。
「生きていてくれよ……!」
のんびりしてはいられず、罠を踏み抜くつもりで俺は飛んで進んだ。道中のゾンビは無視。『ウルフゾンビ』も無視。『バードゾンビ』の群れは射程を絞りつつ加減無しの【ファイアブレス】で消し炭にした。幾つかの部屋を通過したが、全て無視。
そのうち数字の『2』と階段が見えたので勢いそのままに飛んで下りた。
二階は灰色の石造りに変わり、少し薄暗くて空気が冷えている。早速モンスターが壁からスーッと現れた。
宙に浮き、体が透けていて、足が尻尾みたいになって生気を感じない恐い顔の人間……『ゴースト』だ。
効かないだろうと思いつつ魔剣で斬り掛かれば、やはり通り抜けて空を切った。
「むぅ!?」
ゴーストの体を通り抜けた時、体の芯からヒヤリとしてスタミナと気力的なものが僅かに吸い取られた。
通路の奥からは次々とゴーストが壁から現れ、通り抜ければ相応の代償を払うことになる。
これがダメなら、出来るだけ避けながら行くしかないか……【ファイアブレス】!
いつの間にか塞がっている後方の壁まで戻り、大きく息を吸って今度は本当に加減無しで火を吐けば、通路全体を火炎が埋め尽くした。レベルが一気に上がり『Lv.23』になった。
充分に燃やしたと判断して止めれば、通路は赤く熱を持った状態になっていて、ゴーストはいなくなっていた。ただ、やりすぎたせいかドロップアイテムも見当たらない。
気にせず飛んで移動し、何事も無く三階へ降りた。




