第21話 ドラゴン娘、イヌ娘に振り回される
高速道路をサービスエリアで休憩し、およそ一時間半掛けて到着したのは都市近郊の住宅街。その一角は戦車まで持ち出している自衛隊によって完全に封鎖されていて、俺たちの乗る車両は鈴木さんが通行証を見せることでなんなく通過した。
車を止め、鈴木さんに案内されて仮説指揮所の前まで案内された。
「では、私はこれで」
役目を終えると彼はさっさと離れ、仮説指揮所の中に入るとこの前会った幹部自衛官が一人で待っていた。
「お待ちしておりました。シルドラさん、ワフさん」
「どうも」
「どもー!」
「では早速、現状の説明をしますので座ってください」
促されたのでパイプ椅子に座る。
「現在、我々は新たに出現したダンジョンの警戒に当たっていますが、モンスターが出てくる気配はありません。ダンジョンの名前は『帰らずの道』、星の数は九つです。昨日、別のモンスター娘が来て教えてくださいましたが、そのモンスター娘……スライム娘のスラスラさんは戻ってきていません。また、それより前に部下を一名ダンジョンへ偵察に出したのですが、未帰還の状態です。恐らく、名前の通り一度潜ると戻れないダンジョンだと考えられます。現状ではあなたが頼りです。どうか先に潜ったスラスラさんと部下を、よろしくお願いします」
説明を終えると同時、幹部自衛官は頭を下げた。
うっ、こんなことされたら断れない!
でも……ワフならまだ新人として辞退はできるはず。
「ワフ、かなり危険そうだから、パーティープレイはまた別の機会でいい?」
「なに言ってるんですか、行くしかないっしょ」
「……」
そこは察して断ってくれよ……。
「分かった。行こう」
諦めて一緒に移動し、バリケードに囲まれたダンジョン前に到着。入り口の頭上にダンジョン名と星の数が浮かんだ。
『カエラズの道』
『☆☆☆☆☆☆☆☆☆』
カエラズ……? これ、家に帰るじゃなくて土に還る方の意味だったりしない? それともダブルミーニング? だとしたらこのダンジョンはかなり危険だ。
「ワフ、嫌な予感がする。やっぱり君は――」
「ワフちゃん、いっきまーす!」
おいぃぃぃっ!?
俺の話も聞かずにワフはさっさと入口へ突撃し、数段飛ばしで階段を駆け下りて行った。
「はぁ、どうなっても知らんぞ」
溜息を吐き、翼をはためかせてダンジョンへ突入した。
ダンジョン内は薄茶色の土造りで階段が左螺旋状になっている。横幅も天井も少し狭く、一人なら長物もなんとか振り回せるが、味方がいる状況では扱いに気を使う必要がある。
長い螺旋階段を降りて一階に入ったところで、ワフが待っていたので傍に着地。
「ワフ、勝手に一人で突っ走るな。初見のダンジョンでそれは自殺行為だ」
「えー、いいじゃないですか別に。モンスター娘って滅茶苦茶強いんでしょ? ニュースでやってましたよ」
「確かに強いが、ダンジョンによってはあっさり死ぬ。実際、ドラゴン娘の自分ですら死に掛けたことがある」
「……マジ?」
「マジ」
「……分かりました。今度から気を付けます」
ほんとか? 耳と尻尾が不服そうだが?
「……ところで聞き忘れていたけど、ワフは今、何歳?」
「二十三ですけど。シルドラは?」
「三十五だ」
「ならあと二年で十七歳名乗れますね」
シルドラさんじゅうななさいってか? 余計なお世話だ。
「とにかく、慎重に進もう」
「はい」
魔剣を出して歩き出す。一階は階段と同じ幅と高さの曲がりくねった一本道で、今のところ丁字路や十字路が見当たらない。しかも僅かな下り坂になっていて、平衡感覚に少し違和感がある。
「敵、出ませんね」
「うん、不気味だ」
「楽でいいじゃないですか」
「そういう場所ほどヤバイなにかがあると思った方がいい」
「心配性ですねー」
慎重といってほしいな。一昔前は病的に慎重な勇者の物語が流行ったんだぞ。
それよりも、ワフがいるせいで壁とかが食べられない。流石に出会って早々に変な物を食べる姿は見せたくないし見られたくない。恥ずかしいし。
「あっ、部屋だ」
「いや待てよ」
何事もなく部屋が見えた途端、ワフが走りだしそうになったので肩を掴んで止めた。
「部屋そのものが罠だったらどうするんだ?」
「その時はその時でなんとかなるっしょ」
場合によっては手遅れなんだが……まぁいいか。
肩から手を離せばワフは部屋に入り、なにかを見つけたのかそっちへ移動した。
いや知らせろよ!
慌てて部屋に入ってワフがいる方に向けば、そこにはフル装備の自衛官が一人、壁にもたれて両足を投げ出しながら座り込んでいた。アサルトライフルを抱きかかえながら俯いているので顔は見えない。首元を中心に左肩周りに血が滲み、応急処置した形跡がある。
「ワフ、触るなよ」
声を掛ければワフは伸ばしていた手を引っ込めた。
自衛官に近づき、ワフの代わりに魔剣の腹で肩をトントン叩いてみる。
「……あああああああ」
声にもならない呻き声を上げた自衛官は、抱えているアサルトライフルを地面に落としながら立ち上がった。土気色の顔で、目は白濁していて既に生気は無い。
ああ……くそっ!
頭に浮かんだのはモンスターの『ゾンビ』だ。
これ俺が報告しなきゃいけないのか……嫌だなぁ。
それと……助けられなくてごめん。
ゾンビが手を伸ばして噛みつこうと接近したので、魔剣で首をバッサリと斬り落とした。




