第19話 ドラゴン娘、世界情勢を知る
無事に地上へ帰還すれば、 前回のダンジョンと同様、ダンジョンが地面深くへと沈んで消滅した。
その変化に警戒していた自衛隊は慌ただしく動き、俺の対応をしていた幹部自衛官が隔壁の内側に降りて近寄ってきた。
「シルドラさん、お疲れさまで――!?」
言い切る前に、彼は足を止めるどころか数歩下がりつつ自分の口と鼻を片手で覆って眉をひそめた。
「あの、どうしました?」
近づこうとすると手で近づくなと制止された。
ある程度の距離を取られたところで、彼は鼻をつまみながら言った。
「非常に言いにくいのですけど……その……近づけないくらいに、とても臭いです」
くさい……臭い!?
「具体的には、どんなニオイ?」
「下水の臭いに混じって、血の臭いがします。どちらか一方なら我々は耐えられるように訓練されていますが、同時となると流石に……」
……そういえば、服も体も洗っていなかったな。というか、一度帰還した時には既に汚れていたし……その状態でもしっかり対応してくれていたんだ。
「なんか、ごめん」
「いえ大丈夫です。とりあえず、ホースで水を掛けることになりますが、洗い流しますか?」
「是非!」
除染車に案内された俺は、それはもう沢山の水をぶっかけられて綺麗になった。
その後はおっぱいに目が眩んでいた若い自衛官の運転で、今まで一度も泊まったことのない高級ホテルへと送ってくれた。宿泊部屋は当然のようにスイートルームで、宿泊費及びサービス料金は全て防衛省が負担するとのこと。国家公務員様様だ。
客室内の浴室で改めて体を徹底して洗ってからのんべんだらりと過ごす。夕方になりインルームディナーを頼んで客室内で食べていると、チャイムが鳴ってドアがノックされ、聞き覚えのある声がした。
「こんばんは、防衛省の佐藤です」
……出たくねぇ。
贅沢出来る状況故にそう思いつつも、渋々と移動してドアを開ける。佐藤一郎が、営業スマイルを顔に貼り付けてビジネスバッグを手に持って立っていた。
「ああ、出てくれてありがとうざいます。こんな時間にすいませんが、お伝えしなければいけないことがありまして……。中に入れていただいても?」
「……どうぞ」
そんな言い方をされれば招き入れないわけにはいかず、渋々……本当に渋々といった感じに入れてやった。
「へぇ、ここがスイートルーム……初めて入りましたよ、こんな高級な部屋」
「それより、伝えなければならないことって?」
「そうでした。いい知らせと悪い知らせがありますが、どちらから聞きたいですか?」
「じゃあ悪い方で」
上げて落とされるより、落とされてから上げた方が気分がいいからな。
「明日には国民へ向けて公表はされるのですが……政府が把握した限りでは、大半の国家が事実上崩壊しました」
「は?」
「大半の国家が事実上崩壊しました」
「あ、うん。聞こえてる。なんで??」
「どうやら神様の言いつけを守らなかった国が多かったようで、大量のダンジョンが出現し、大量のモンスターが即座に地上へ出て大暴れしたそうです。人は大勢死に、建物は破壊しつくされました。結果、情報通信網の大半が寸断され、海外への民間航空機や船舶での移動が困難となっています」
情報通信の寸断は基地局が壊されたってところか。飛行機や船での移動が困難っていうのは、恐らく、ワイバーンとかドラゴンとかの空を飛ぶ系のモンスターが出てるんだろうな。
「大量のダンジョンって、どれくらい出たんです?」
「場所によって密度は違うそうですが、都市部ではおよそ百メートルに一つの割合だそうです」
「うわぁ」
まだモンスター娘が少ないのにその数とか対処不能じゃん。言いつけを破ったから神様が意図的にダンジョン生成を速めて潰したってところなんだろうな。
「で、生き残った国は?」
「……弱小国が幾つかと、主要国ではアメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、エジプト、メキシコが生存。ただし、アメリカとロシアとドイツは壊滅的な被害を受けているとのこと」
「中国は?」
「壊滅しています。ダンジョンがフジツボみたいに乱立していて、国内で核弾頭を幾つも使用した形跡が見られました」
「うわぁ」
めんどくさい敵国が滅んで喜びたかったけど、笑えねぇ。
「因みに台湾は、中国沿岸部に出現した大量のダンジョンの影響で壊滅しました。朝鮮半島も同様、巻き添えで壊滅です」
「おぉう……日本、大丈夫?」
「九州と中国地方が隣国と近いのでそちらからモンスターが流れて来ないか警戒していますが、国内については各地に展開した自衛隊と有志のモンスター娘たちの活躍で比較的落ち着いています」
「それは良かった」
「ですね。次にいい知らせですが……こちら、シルドラさんの新しいスマホが届きましたのでお渡しします」
ビジネスバッグから最新型のスマホを出してきた。保護シートと保護ケース付きで、充電コードもある。
「ありがとうございます」
受け取ってすぐに動作確認。問題ないっぽいのでアイテムボックスに放り込んでおく。
「それと幾つかのアイテムの研究結果が出ました。こちら資料になりますが、今は機密情報なので渡すことは出来ません」
ビジネスバッグから出された資料の束を読んでみる。
……専門用語が多くて全然分からん。
「これ、つまりどういう内容なわけです?」
「そうですね……私も全て理解したわけではありませんが、担当者曰く『物理法則を無視した魔法のような効果を持つ物質で、分からないことが分かった』だそうです」
つまり、気にしたら負けということか。
「加工は出来そう?」
「既に色々と実験して、薬草が『回復ポーション』になる方法を確立しています。というか、普通に煮出したら出来たそうです」
「そんなんでいいんだ」
「いいようです」
「他には?」
「お知らせは以上です。また用がありましたらスマホに連絡するかこちらに伺いますので、それまではゆっくりしてください。では」
資料を片付けた佐藤さんは、一礼すると客室から出て行った。




