第14話 ドラゴン娘、なんでも食べてみる
「さて、消える前に助言をしよう」
神様は深呼吸して一拍置き、真面目な顔で言った。
「なんでも食え」
「……え? それだけ?」
「それだけ。もし具体的に教えてほしいなら、相応の星の数の聖杯に願ってね。じゃあ頑張ってねー」
神様は笑顔で手を振って消えた。
「なんでも食え、ねぇ」
目に留まったのは大広間の地面を覆う、毒液だらけのぐずぐずの腐葉土。手ですくってくんくん嗅いでみると、人間の時より優れた嗅覚が鼻と胃袋を刺激し、吐き気を催した。
おえっ。これも食えってこと? …………いざ逝かん!
ぱくっと一口。
「――うっ」
土とドブと形容しがたいクソな味が広がり、案の定、オロロロロ……っと嘔吐した。
きっっっつ。でも食べないと――ううう、がまんだ。我慢っ!
吐瀉物が付着した腐葉土を口に入れ、生理的な強い吐き気は奥歯を噛み締めて押さえ、ゴクリと飲み込んだ。
冷や汗が噴き出し自然と目から涙が溢れてしまう。胃から口の外へと出てくるドブの臭いを少しでも緩和する為、薬草をストレージから出してもしゃもしゃと食べた。
うー、薬草の香りでも誤魔化せない……。
次に目に留まったのは灰色の壁。魔剣でちょっと斬って破片を作って食べてみる。ドラゴン娘だからガリガリゴリゴリ普通に噛み砕ける。
ああ、コンクリートの香りと味がする。ドブよりマシで全然食べれる。
壁を食べまくってお腹をある程度膨らませたので、幾つか落ちている『ポイズンフロッグの皮』をストレージに仕舞ってから移動を再開。通路を少し歩いたらすぐに小部屋に着いた。
この小部屋は数段高い位置にあってコンクリートの床が露出していて、奥にいつもの宝箱がぽつんと設置されている。
「さて、今回はどっちかな?」
ある程度近づき、大剣である魔剣の先端で小突いてみる。するとガタガタ揺れて蓋が開き、牙と長い舌が出てきた。
「やっぱりミミックか」
絡め捕ろうと伸ばしてきた舌を魔剣で斬り、流れるようにもう一振りでミミックを両断して倒す。ドロップアイテムが出た。
「……下着も出るんだ」
それは大人なデザインの、レース生地の黒いブラジャーとショーツの上下セット。
『エレガントインナー』……インナー防具。モンスターに少しの威圧効果があるが、人型のオスには少しの魅了効果を同時に発揮する。また、モンスターからのドロップ率が少し上がる。
「ドロップ率上昇か。着ない理由はないな」
一度防具を脱いでインナーを着替える。少し胸がきつかったが、すぐにサイズが補正されてぴったりになった。
「よし。動きも阻害しないし、いい感じ」
動いても問題ないので防具を再び着て、この場を後にすれば早速ポイズンスネークと遭遇。魔剣を構えたが、相手は俺を見るなり頭を百八十度方向転換して逃げ出し始めた。
これはいいな。雑魚狩りが楽に経験値を稼げる。
ポイズンスネークを追い掛け、後ろから首を刎ね飛ばして倒した。ドロップアイテムが出た。
『ポイズンスネークの皮』……この皮を加工して防具に組み込めば、毒への耐性を高められる。あと、肌触りが良い。
「蛇皮か。高く売れ……ないだろうな。色が毒々しいし」
ストレージに仕舞ってまた移動。
おっ、階段。
曲がり角を曲がってすぐ、『2』と壁に描かれた下り階段があった。周囲にモンスターはいないので階段を覗き込む。
……塞がれてる。
降りた先は、折れた木々で埋め尽くされていた。
モンスターがやったとは考えにくいし、先にダンジョンに潜った推定ラミアがやった……か?
分からないが、それを確かめる為に慎重に降りていく。
「ん?」
階段を下りきる手前の壁に血でメッセージが記されているのが見えた。近づいて読んでみる。
『これを読んでくれている誰かさんへ』
『ごめんなさい』
『ラミアの姿がはずかしいからと、不登校のぼくでもラノベの主人公みたいに活やくできると思っていたのがまちがっていました』
『毒たいせいは習得したけど、この先はジゴクです』
『ぼくはもどれそうにないので、せめてあいつが地上に出ないようにここを閉じます』
『あと、できれば親に「不出来な子でごめん」って代わりに伝えてほしいです』
『石野白斗』
「遺言書けるなら敵とか地形の情報ぐらい残そうよ」
まぁ自衛隊に死んだことは伝えておくけど。
折れた木々を魔剣で斬り刻んで破壊して進み二階に到着。一階とは全く違う環境で、辺りは湿地帯そのもの。地面はぬかるんだこげ茶色の泥で、壁は湿地帯に生えていそうな木々が隙間なく並び、天井は枝葉が絡み合っている。
ただ、階段の近くの木々は折られたり引っこ抜かれた形跡があった。
「で、君がラミア……石野白斗だね?」
近くに『ラミア』が立っていた。負傷している様子がなく上半身はジャージを着ている。けれど明らかに様子がおかしく、言葉にならない声を発して動物のように威嚇するだけ。人としての理性が感じられない。
……ああ、そうか。ダンジョンで死ぬと、ダンジョンに取り込まれてモンスターになるのか。
死んで溶けて再生を繰り返し、ダンジョン内に永遠に囚われ続けるのだろう。魂がどうなっているのかは分からないが、それは尊厳破壊のようなもの。
ただ倒すだけではダメ。となると――
「――おっと」
ラミアが攻撃を仕掛けてきた。下半身の蛇の尾にオーラを纏って振るう【テイルスイング】だ。スピードもそこらのモンスターとは段違いだが、対応できないほどではない。見切った俺は魔剣で受け流すように弾き、翼をはためかせて飛んで接近。もう一度振るわれた【テイルスイング】を回避し、魔剣で一刀両断。
倒してすぐ魔剣をストレージへ仕舞い、死体を掴んだ俺は地面や壁から遠ざけるように飛ぶ。
「いただきます」
そう言って俺は空中で食べ始めた。
ラミアが溜め込んでいたレベル分だろうか、一気にレベルアップして『Lv.13』になった。




