第12話 ドラゴン娘、毒を食べる
「あっ、キノコ」
ダンジョン内をぬっちゃぬっちゃ歩いていると、壁と地面の角にそれはあった。十五センチくらいの大きさで、円錐形の傘をした、紫に緑の斑点模様の見るからに毒っぽいキノコだ。
『毒キノコ』……食べると体を蝕む毒に冒される。味は食べてのお楽しみ。
味は食べてのお楽しみ?
「気になるな」
毒消し草はあるし試しに……――あれ? なんで俺、食べる前提で考えてるの??
首を傾げて自分の思考に疑問を抱けば、「食べろー、美味しいよー」と神様の囁きが脳内で聞こえた――気がした。
「……とりあえず食べてみよう」
極小の【ファイアブレス】で軽く焙って『焼き毒キノコ』にしてから手に取り、ぱくり。
おぉ、思った以上に美味い。椎茸みたいだ。けど、即『弱毒』の状態異常に掛かった。
――う……ちょっと体調が悪くなってきたぞ。イタタタタタ、内臓が痛い。これ想像してたよりキツイかも!
「でも、もっと食べたい。食べないと!」
気合で痛みに耐えながらキノコを探せば、新たなモンスターと遭遇した。
全長一メートル半くらいの大きな蛙だ。イボイボした紫の体表で腹部が赤く、ぬるっとしてそうな粘液で体が覆われている。名前は『ポイズンフロッグ』。
「低身長なモンスター娘は丸呑みされそう。で、どんな攻撃うおっ!」
距離がある状態で、ポイズンフロッグが口から紫色の『弱毒』の毒液を塊として吐いて飛ばしてきた。横に回避すれば、後方の地面に着弾した瞬間に塊が弾け、毒液が周囲に飛び散った。
「お前は普通に毒液なんだ――と」
ぴょんと跳んで近づいた蛙が、今度は舌をビヨーンと伸ばしてきた。狙いが精確で速度もあるけど、避けられないほどではない。回避しつつこっちから近づく。
蛙ならそういう攻撃もしてくるよな。
【ファイアブレス】!
火を吹いて燃やすが、ポイズンフロッグの体表がぬるっとした粘液に包まれているせいか耐えられ、火から逃れるようにぴょんと跳んで離れた。
そして、顔から地面の腐葉土に突っ込んで毒液と泥水を被り始めた。
……火は効きが悪いか。
だったら【テイルスイング】!
オーラを纏った尻尾攻撃を当てて吹っ飛ばす。
――っ、滑る!
尻尾が当たった時にぬるっと滑ったのを感じ、吹っ飛んだ蛙はのっそりと起き上がった。
「火も打撃もダメなら……これだ」
ストレージから大剣である魔剣ペインソードを出して接近。狙って吐き出された毒液を最低限の動きで回避しつつ間合いに入り、魔剣を振るう。鉄の塊の質量と鋭い刃、ドラゴン娘の膂力によってポイズンフロッグの頭部はズバッと真っ二つ。そのまま崩れ落ちて動かなくなった。
溶けてポイズンフロッグからドロップしたのは、綺麗に剥がれた皮が一枚。
『ポイズンフロッグの皮』……この皮を加工して防具に組み込めば、毒への耐性を高められる。また、防水素材である。
「へぇ、毒耐性付けられるんだ。でも見た目がキモいし使いたくないな」
新しい物だから、防衛省の人に渡す為にストレージへ収納。
さてキノコは……おっ、発見。
毒の苦痛から出る冷や汗を腕で拭いながら近くの角を曲がったら、すぐ近くに毒キノコと新たなキノコが生えていた。虹色の縞模様の傘をした、マッシュルームみたいな拳くらいの大きさのキノコだ。
『幻キノコ』……食べると暫くの間、幻を見る。味は食べてのお楽しみ。
「おぉ、幻覚系の毒キノコだ」
で、味は?
軽く【ファイアブレス】で焙って『焼き幻キノコ』にしてから手に取り、ぱくり。
……ナニコレ? 噛むたびに味と香りが変わるぞ。美味しいけど。
おっ、景色が変わった。
地面のぐずぐずの腐葉土は、フローラルな香りが漂う彩ある花びらの川になった。壁と天井からは沢山の花が生え、ちらちらと花弁を落とし始めている。
凄いな。やったことないけど、まるで薬物でキマってるみたいだ。
「やぁ、ペンシルドラゴン」
この声、神様――って、ちっちゃ!
聞き覚えのある声がして振り返れば、十五センチくらいの猫神チエが浮いていた。しかもちょっと透けてる。
「神様……なんでいるの?」
「君が私の誘導に従って毒を摂取し、幻覚系の毒に蝕まれて幻を見ているからだよ。言っておくけど、今の私は本物じゃない。本物が君の進化条件を満たさせる為に仕込んだ幻影だ」
やっぱりあの声、気のせいじゃなかったのか。仕込まれたのはキスされた時だな。
「さてさて、幻覚を見ている時間はそんなに長くないから手短に言うよ。君はこのまま毒を摂取し続け、モンスターを倒してレベルと上げるといい。そうすれば進化条件を満たして進化する」
「ふむ」
「じゃあ今から他のキノコに案内するから、それを食べてそこにあるキノコ採ったら付いて来て」
「あいよ」
手に持っているキノコを食べ、傍にある毒キノコを採る。神様の幻影がスーッと動き出したので、それを追い掛けた。




