第10話 ドラゴン娘、新たな名前を得る
佐藤さんと握手を交わして翌日。
病室で朝食のパンを爆食い中に佐藤さんがやって来た。
「おはようございます。食事をしながらで構いませんので、まとめて持って来た書類にサインをお願いします」
出された書類は『ダンジョン探索者』という名称の特別職国家公務員への任用と、防衛省から会社への退職代行、性別の変更申請、モンスター娘としての名前登録、その他諸々。
佐藤さんは書類の中で、モンスター娘としての名前登録、の紙をまず俺の前に置いた。
「まずはこちらからお願いします。今日国会で承認されて緊急施行される、“モンスター娘に関する法律”の中で、モンスター娘は、モンスター娘としての名前を登録する必要があります。ですので、文字数は《《八文字》》で、《《カタカナ》》でお願いします」
「あっはい。……八文字でカタカナって、競走馬の馬名みたいですね」
「お気づきになりましたか。まさにその通りです。急いで法律を作るのに、既存の制度から使える部分を切り貼りするしかなかったものですから。なんだか動物扱いしているようで申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。むしろ厨二――いい意味で特別っぽいですから」
「ありがとうございます。ところで今、厨二病って言いかけました?」
「言い間違えただけです」
「……そうですか」
うん、そう。
断じて、厨二病っぽくていい、とは言っていない。
それより名前を考えないと。なににしよう?
……リューコは、単純すぎるな。
……今食べてる物は、ないな。パンだし。
視線が手に持っているペンに移る。
……ペン……ペンドラゴン? アーサー王の称号をそのまま名乗るのは流石にちょっと。
ここは捻って……ペンシルドラゴン? おっ、丁度八文字じゃん。これでいこう!
書類に『ペンシルドラゴン』と書いた。
「書けました」
「確認します……フフッ、いい名前ですね。問題もありません。ではこれで登録しておきますね」
「はい」
名前もペンシルドラゴンに決まり、残りの書類も指示に従って仕上げた。
「お疲れさまでした。これでペンシルドラゴンさんは、正式に探索者として活動できます」
「はい。それで私は、まずなにをすればいいんです?」
「そうですね……まず、ダンジョンで手に入るアイテムや武器防具が気になるので、ストレージという亜空間? に仕舞っている物を出してくれますか?」
「分かりました」
幾つもあるゴブリンの武器とか薬草類、余っているこんがり肉、防具と大剣のペインソードを出して、どういうものか説明。
佐藤さんは懐から出したインスタントカメラでパシャパシャ撮り、メモ帳に名前と効果を書き込んでいく。
「凄い物ですね……まさにゲームといった効果や性能。特に薬草と毒消し草は、医療に革命が起きますよ。差し支えなければ、武器と防具以外の物は一つずつで構いませんので、こちらに預けてもらってもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ。ゴブリンの武器はいらないんで全部あげます」
「承知しました。売却ということで預からせてもらいます」
よし、これでストレージの中がスッキリした。
「で、次は?」
「早速ですが、ダンジョン探索に出てもらいます。全国に幾つか出現していますが、我々としては人口の多い東京のダンジョンへ行っていただけると助かります」
「分かった。注意することは?」
「現地でバリケードを張っている部隊によれば、毒を吐く大きな蛇が出て来ているそうです」
「毒か」
毒消し草と薬草は幾つかある。潜ること自体は出来るだろうけど……最奥まで辿り着けるかは、ダンジョン内で毒消し系のアイテムが取れるか次第になるな。
「とりあえず行ってみます」
「お願いします。現状ではあなたが頼りですから、無理だけはしないでください」
「はい。じゃあ食べ終わって着替えたら向かいますね」
「では、わたしも書類の提出に行くとしましょう。ペンシルドラゴンさん、ご武運を」
佐藤さんが病室から出て行き、残りのパンを平らげてからストレージに仕舞っていた『格闘家の服』や『軽業のブーツ』を着る。
看護師を呼んで今から退院して出掛ける旨を伝え、外に出ると自衛官と車が一台待機していた。
「お待ちしてました。今から目的のダンジョンまで送ります」
「あー……飛んで行こうかと思ってたんですけど、もう許可って下りてます?」
「少々お待ちを」
自衛官は車内に戻り、スマホで誰かに電話してから戻って来た。
「お待たせしました。初めての飛行なので、一度基地にお越しいただいて簡単な講習を受けてからにしてほしいそうです」
「分かりました。ではお願いします」
車に乗り込んで自衛隊基地へ移動。
そこでヘリパイロットから必要最低限の飛行に関する講習を受け、万が一の為に咽頭マイクを借りて装着し、ヘリポートの真ん中に立って初めての本格的な屋外飛行に入る。
管制官から離陸許可が下りたので、翼をはためかせて跳躍し、そのまま飛行態勢に入った。
「よし飛べた! ……いい景色だ」
ダンジョンの出現なんて嘘のような、快晴の空を飛んで東京へ向かう。




