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第61話 手向け

本話は前話「そばかす」と合わせて同日公開となります。

 三日後。


 城下の教会で、戦死した騎士の葬儀が執り行われた。


 白布で覆われた棺に、一本の白い花が手向けられた。

 背後ですすり泣く声が王子の耳に響いた。

 一度だけ棺を見下ろすと、王子はその場を離れた。



「……殿下、こちらに居られましたか」

「お前も来ていたのか」

 声をかけたのはセヴェルであった。

 花壇の縁に座り込んだ王子の様子を覗っている。


「我が家が送った騎士でしたので父と参列しました」

「そうか」

 それきり王子は黙り込んだ。

 いつにない様子の王子に、セヴェルも黙っていたが

 やがて耐えきれなくなり口を開いた。

「……寒いでしょう」

「そりゃあ……寒いか寒くないかで言えば寒いが」

「何をごちゃごちゃと」

 木枯らしが吹く中、王子は一人身を縮めている。

「中に戻りましょうよ、寒いです」

「俺は耐えられるね」

「僕は寒い」

「華奢な坊っちゃんめ、鍛えてないからだ」

 王子の言い草に腹を立てたセヴェルが王子の腕を引っ張った。

「ああっ冷え切ってるじゃないですか!」

「風邪でも引いたらどうするつもりです!」

 セヴェルの細腕に引っ張られ、王子の腰が浮いた。

 歯を食いしばって踏ん張るセヴェル。

 王子が吹き出した。

「なんだよ、俺の体調の心配でもしてるのか」

「こんなところで一人で居たら心配もします」

「ディゼトラルはどうしたんですか」

 側近の名を出され、王子はふとその姿を頭に思い浮かべた。

 そう言えば姿を見ていない。いるはずだが。

 はて、と王子が首をかしげたその時、

 後ろ頭にぽこりと軽い衝撃が走った。


「エリオス発見、セヴェル坊っちゃん付きだ」

 王子の足元に蹴り玉が落ち、セヴェルの元まで転がっていった。


 振り返らずとも分かる。


「お前どこ行ってたんだ」

「蹴り玉取りに行ってた」

 ゼトがセヴェルの足元を指す。

「……遊ぶ気か?」

「まだ葬儀中ですよ」

 珍しくも王子とセヴェルの声が重なった。

 ゼトが煩わしそうに耳を掻く。

「もう皆墓所行ってるよ」

「会場は辛気臭い、外は寒い」

「なら動いて温まろうぜ」

 よく見るとゼトの上半身は小刻みに震えている。

 寒がりなゼト。

 わざわざ蹴り玉を探して会いに来た。

「…………」


「不謹慎でしょう」

 まだ文句を言い募るセヴェル。

 コイツもゼト同様華奢だ。

 腕を擦っている。

 王子を見るに見かねて声をかけに来た。

「…………」


 王子が立ち上がり、蹴り玉を両手に持った。


 ポン。王子の蹴った玉がゼトへ飛んだ。

「おっその調子じゃん」

 そしてゼトが蹴った玉が円を描き、セヴェルの腕の中に収まった。

「えっ……ちょっと」

 手の中にあるものを凝視し、セヴェルがうろたえている。

「僕蹴り玉遊びなんてしたこと……」

「大丈夫だよ、下手でも教えてやるから」

「そうだ、難易度が上がっていい。俺は困難な方を好む」

 二人の言い草にセヴェルが歯ぎしりした。

 足元に玉を落とし、王子に向かって勢いよく蹴った。

「……下手だとは言ってないでしょう」

「やったことないって言っただけで!」

 玉は王子の頭上を飛び越え花壇の中に。

「あっ」

「力みすぎだって」


 花壇の中から玉を取り戻し、ゼトが自身の足元に玉を置いた。

「坊っちゃん見とけ」

「玉蹴りはこうやんだ」


 ゼトの蹴った玉がふわりと秋晴れの空を舞う。

 王子の瞳に、茶色い玉がやけに鮮明に映った。


「…………」

 

 魂は天に昇ると聞いたことがある。

 本当のところは知らないが。


 王子は胸元で玉を受け止め、足元に落とした。

「行くぞ、セヴェル」

 

 王子の蹴った玉が空高く登り、王子は天を仰いだ。

 

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