第5話 絵本の中の王子さま
王女の私室には、時折人が訪れる。
「王女殿下、いかがお過ごしですかな?先ほど王子殿下にご挨拶させていただいたんですが、
いや活発でらっしゃる。それに比べ王女殿下は奥ゆかしくあられますな、
このように部屋に閉じこもっておられてはいけません、もっと外に出ねば。わが息子は王女殿下と歳が近いのですが……」
うるさい声の大人だった。
「まあ王女殿下お久しぶりでございます、私のこと覚えておいでですか?
ベルツ家侯爵夫人です、宰相閣下からあなたの専任教師を仰せつかりましてね、
ご挨拶に参りましたの、あなたが立派な淑女になられるよう……」
うるさい声の大人だった。
「…………」
なぜか王女の脳裏に、絵本の王子さまの姿をした男が浮かんだ。
1週間前に、王女はその男にお絵かきがしたいと望んだ。
その望みを男は叶えてくれた。
そして男は、王女の隣でずっと絵を眺めていた。
王女は居心地が悪かった。
本当は一人で静かにお絵描きしたかったのだ。
何を描いているのか見られるのも嫌だった。
「なんでいるの」
「お邪魔でしょうか」
王女は邪魔だとは言えなかった。
ぐっと口を噤んだ王女に、男は。
「……殿下はお優しい方ですね、では今日はお暇いたします」
「また会いに参ります」
そう言って、男は去った。
――それから一週間。
男は一度も姿を見せていない。
「ふうん」
「王子さまは……絵本の中に帰ったのかな」
王女の呟きに、側にいた侍女が反応した。
「王子様……ですか?」
「……うん」
「王子殿下でしたら、座学を終えられたところではないでしょうか」
「お会い……されますか?」
王女は眉をひそめた。
「そっちじゃない」
思いの外、責めるような声となった。
王女の叱責に、侍女が身をこわばらせた。
「申し訳ありません……王女殿下!お許しください……!」
「……いいよ」
いつからか、王女が気分を害すと使用人たちの空気が変わるようになった。
王女は侍女に背を向けて絵本を見だした。
王女の側仕えの侍女は、この一ヶ月で三人代わっていた。
ペラリとめくったページに王子さまがいた。
姫に跪いている。
その王子さまを、王女が摘んだ。
「…………」
王女は急に腹が立って、絵本を投げ捨てた。
侍女がまた身をこわばらせた。
うるさい大人が二人も来て、今日の王女は気分を害していた。
王女は扉をチラリと見た。
そして頭を振った。
今日は王女にとって嫌な日だった。
座学を終えると、おやつの時間だ。
天気がいいので外にティーセットを用意したと侍女が言う。
王女は私室でお茶が飲みたかった。
移動するのが疲れるからだ。
それに。
私室にいれば。
お茶のために、教室から出て回廊を進む。
王族や客人が休憩に使う中庭には、すでにティーセットが用意されていた。
「今日は良いお天気ですね」
側仕えの侍女が王女に声をかけた。
「うん」
——今日は良いお天気ですね。
……あの男が最後に現れた庭だ。
「ごきげんよう王女殿下」
呼ばれてハッと前を向き、そこにいる人を見て、王女は目を丸くした。
「今あなたに会いに行こうとしていたんです」
その両手に包装された箱を抱えている。
「今日はあなたにプレゼントをお持ちしたんです」
「私にあなたのお時間を頂けませんか」
絵本の中から抜け出してきたように、その男はまた王女の前に立っていた。




