第44話 交流会の成果
後見人会議が、また開かれていた。
顔ぶれはいつもと変わらぬ。
宰相、騎士団長、公爵、少数の教師だ。
「王子殿下は交流会でも、持ち前の明るさを遺憾なく発揮されていたようです」
「終わりの時間まで王子の周りに人が絶えなかったと」
今年十になった王子は、幼少期の苛烈な気質は鳴りを潜めていた。
だが、生来の明るい気質はそのまま。
教師の報告に、騎士団長は何度も頷いている。
そして騎士団長は拳を握って立ち上がった。
「殿下は場へ入られた瞬間に空気を変えてしまわれるお方です」
「最初は緊張していた子女らも、殿下のお人柄に絆されたのか、
いつの間にか笑っておりました」
騎士団長の顔は子どものように綻んでいた。
「殿下の周りには自然と人が集まってしまうのでしょう」
「エリオス殿下は太陽のようなお子でいらっしゃいますから!」
「さすが王太子、我が国の将来は明るい!」
騎士団長は上機嫌だ。
言い過ぎだろう。後で釘を刺さねば。宰相はそう思った。
「王子殿下については問題なかろう、よくやっておられる」
「しかし」
先程までの朗らかな雰囲気は何処へやら。
教師が次の言葉を発することを躊躇するように視線を彷徨わせた。
公爵は平然とティーカップを傾けている。
宰相に視線を送られた教師が、意を決した。
「……王女殿下は、先日交流会にはじめて参加されたのですが」
「終始ぬいぐるみを抱いたまま、子女らと接しておられたとか」
「言葉数も少なく、話しかけに行った子らも戸惑っていたそうで」
「一度話しかけた子女が、二度殿下に話しかけられることはなかったと」
教師の報告も歯切れが悪い。
王女の内向きな気質は、以前より問題視されていた。
八つになった今なお、改善の兆しは見えない。
重い空気を払うように切り出したのは宰相であった。
「……何か、対策は考えておられますか。公爵閣下」
宰相の言葉は穏やかだ。
ティーカップを置いた公爵が少し考えるように目を伏せた。
「……まだ初回でしょう」
公爵は笑んでいた。
そこから腹の内は見えない。
「シエル殿下は思慮深い方です」
「どうなさるべきか、ご自身でも考えておられることでしょう」
「殿下には時間が必要です」
一拍置いて、公爵は続けた。
「あの方へ無理に働きかけるのは尚早かと」
宰相は言い募った。
「時間とおっしゃるが」
「閣下が後見を務められて数年」
「王女殿下がどなたかに心を許されたことがありましたか?」
わずかな間。
「……お一人以外に」
部屋の空気が、確かに張り詰めた。
教師らは目を伏せる。
騎士団長は両手を合わせて祈った。
公爵は静かに宰相を見返した。
「……問いを問いで返すようですが、宰相閣下」
声音は穏やかだった。
「シエル殿下が交流会へ参加されるようになったのは、いつからでしょうか」
「王子殿下も、同じ年の頃からだったのではありませんか?」
「私から見れば、皆さんは結果を急ぎすぎに見えます」
互いの腹を探る、静かな牽制。
互いに譲らぬまま、会話は途切れた。
会議終わり、明かりの消えた薄暗い室内に宰相が一人。
長机にティーカップが残されている。
扉が控えめに叩かれ、侍女が姿を現した。
「お呼びですか、宰相閣下」
「……公爵閣下のご様子はどうだ」
「王女殿下との関係性はお変わりなく。――ただ最近」
侍女の言葉に宰相が侍女を見やった。
「殿下に触れることをためらっておられるような、節がございます」
「……気の所為ではなく?」
「常ですと王女殿下は疲れると閣下に抱き上げを要求されるのですが」
「閣下が気づかぬ素振りをしていることが……何度か」
宰相が鼻で笑った。
「なるほど。若造め、今更節度を考え始めたか」
宰相は重い帷に手を掛け、開け放った。
差し込んだ光が視界を埋め、宰相は目を細めた。
「……こちらも頃合いか」
「そろそろ王女にも自覚してもらわねばならぬな」
宰相は窓の外を見やった。
「いつまでも、幼子ではおれぬことを」




