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第27話 はじめての後見人会議

25話まで毎日更新予定です。

 宰相。

 公爵。

 教師陣。

 そして私、ヴィスラド。


 ――嫌な顔ぶれだ。

 

 長机に並ぶ書類を見た瞬間、騎士団長は帰りたくなった。


 ――――今日は、後見人が決まってから初の全体会議であった。

 

「両殿下の生誕祭も終え、落ち着いた頃でしょう」

「後見人のお二人はお子らに心を砕いてくださっていると私には見えます」

「現に、良い変化が見られております」

「ただ、王族の教育は国家案件でもある。このへんで認識を共有しておくべきと存じます」

 宰相が進行役だ。


「異論ありません、進めてください」

 公爵は簡潔だ。

「私も異論ありませんとも」

 騎士団長も、同意した。


 会議は、思ったよりはつつがなく進められている。

 勉強の進み具合、心身の状況、最近の関心事。

 いつも騎士団長が宰相と話していることと同じだ。

 しかし気になるのは。


「王女殿下は、最近座学への意欲が目覚ましいです。絵本の読めない字を読みたい、手紙を書きたい、とおっしゃられております」

 教師が言った。

 しかしそれに宰相が首を傾げた。

「手紙?王女殿下がか?」

 誰に。を言外に含んでいる。

「はい、どなた宛かは聞いておらぬのですが」

 宰相が言い募った。

「王女殿下だぞ?」

 王女とて、手紙くらい書くだろうに。

 

 そして公爵が片手を挙げた。

「私です」

 全員の視線が公爵に集まった。

「殿下は私と手紙のやり取りをされています」

「今はまだ、私が殿下にお送りするだけですが」

「殿下はいつか、私にお返事を書いてくださると」

「……勉強の一環になるだろうと勧めました。殿下も快く受け入れてくださったので、

 殿下の負担にならぬ程度に続けるつもりです」


「……閣下の負担になるのでは?」

「いいえ、そう何行も書くわけではありませんから」


 場が静まり返った。

 おそらく考えていることは皆同じ。

 やはりお前なのか、と。


「王子殿下の勉強の進み具合はどうだ」

 一瞬、場が静けさに支配された。

 チラリ。騎士団長は横目で教師陣を窺った。

 教師同士、眉を顰め小声で話し合っている。

 そして首を横に振り合っている。

 

 騎士団長もわかっている。

 王子は最近まで座学の時間、寝ていた。

 だから進みが遅い。

 しかしそれを、どう言い繕う?


 公爵も教師陣を横目で見ている。

 

 公爵と目があった。

 そして公爵は目を細めた。

 騎士団長は膝の上で拳を握った。


 ――――王子殿下は、武の方面の意欲が目覚ましいのだが!


 宰相は言う。

「まあ……王子殿下は最近まで鍛錬に集中しておられたと聞く」

「そのせいで勉学に影響をきたしているのはいただけないがな」

「対策は講じておるな?」

 

 騎士団長が手を挙げた。

「ええ、授業中眠りこけておられたのは疲れておるからです。

 最近は改善したとは言え、お疲れなのは事実。ですので特訓と座学の時間を逆にしようという話に……」


 宰相が歯を剥いた。

 威嚇か?


 公爵が眉をひそめ、足を組んだ。

「眠りこけておられた……?」

 あっまずい!

 騎士団長が口を覆った。

 後ろの教師陣が、一斉に騎士団長を見た。


「眠りこけておられたとは?」

 公爵が追求してきた。

「いやはや……なんというかそれは言葉の綾で……。今は改善しておられます。少し前の話です」


「話が見えません」

「……つまり、王子殿下は授業中に眠っておられた、と?」

 

 圧が増した。


 圧。事実の指摘がこうまで痛い。

 これだから公爵相手は骨が折れる。


 騎士団長は観念して頷いた。

「……はい」


 宰相が口を開いた。

「対策は講じるそうです閣下」

「殿下はまだ幼子故、このように不安定な時期もあります」

「しかし対策できる範囲です」

「王女殿下が最近学問に意欲的なのも、あなたというきっかけありき」

「であれば王子殿下もそのきっかけを作ればよいだけ」


「ふうん」


 公爵が横目で騎士団長を見た。

 騎士団長が目をそらす。

 若造の目が、蛇のように這い寄る。

「なるほど、ひとまず納得しました。しばらく様子を見ましょう」

 嵐は去った。


 こんなにも精神をすり減らす会議を定期で行わないといけないのか?

 騎士団長は戦場のほうが楽だと思った。


 

「それと……王女殿下の生誕祭の件ですが」

 ある教師が手を挙げた。

「公爵閣下に伺いたいのですが、……王女殿下が貴族子女らとの交流を拒まれたと、聞いております」

「その真偽はいかがかと……」

 ためらいがちな声音に、公爵が教師を向く。

「真です」

「多くの子女に囲まれ混乱されてしまったようです」


 王女の内向きな性格は、王族として危ぶまれていた。

 そればかりか、公爵の背に隠れてばかりいた王女の話は風聞紙を賑わせたという。

 

 「……あの場で、殿下の傍を離れるべきではなかったと反省しております」

 前髪を耳にかける公爵。

 だがその仕草の最中、その目は宰相を捉えていた。

「……王女殿下の内気さは前々から課題となっていた事、場慣れして頂くしかないでしょう」

 宰相がため息をついた。

 

 騎士団長は王女をよく知らぬ。

 だが、王女の話題となると皆目が曇ることだけは分かっていた。

 それは、眼の前の公爵の存在も影響しているのだろうが。


 宰相の言葉のあと、公爵が手を挙げた。

「そこで一つ、私から提案がございます」

「近々わが領地に、王女殿下をご招待しようと思っているのですが」

「許可をいただけますか」

「殿下の生誕祭から、少しお疲れのようなのです」

「勉学から離れる時間を差し上げたいと思うのですが」


「……公爵領に」

「はい」

 

 騎士団長は宰相を見た。

 教師陣が顔を見合わせた。

 公爵も、何食わぬ顔で宰相を見つめる。

「ええ、ですから、あの方への働きかけを少し変えようと思いまして」

「王都とは違う別の空気に触れていただき、あの方の御心にも、変化があればと」

 宰相の目がギラリと光った。

「御身の安全は抜かりなく。側仕えと護衛をそれぞれ何人か同行させます」

「わが領地は、王都の次に治安は保証されていると、宰相閣下はご存知かと思いますので」


「…………検討させていただきましょう」


 また、空気が重くなったと。

 公爵以外の皆が思ったろう。

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