第24話 王女の生誕祭
王女は、この日五つになった。
王女の生誕祭は、王子のそれより遥かに静かであった。
貴族らの談笑も、大広間に流れる音楽も、どこか慎ましかった。
「王女殿下のおなりです」
その声とともに現れた小さな影に、視線が集まる。
王女は、公爵の後ろに隠れていた。
王子と一ヶ月違いの生誕祭。
王太子は人の輪の中心に立ち、王女は公爵の陰に隠れる。
来賓から見ても、その違いは一目瞭然であった。
真っ先に声をかけてきたのは、やはり王子であった。
伴った宰相が大きな箱を持っている。
「シエル」
「この間は俺の誕生日を祝ってくれてありがとう」
「……お前からの品が、一番嬉しかった」
王子が身に付けている装飾を指さした。
蒼い宝石がはめ込まれた剣を模した銀の装飾具。
王女からの贈り物であった。
「……だから、俺からも贈り物だ」
宰相が、王女に箱の中身を見せた。
王冠をかぶった人形と、
ティアラを被った人形がそこに鎮座していた。
公爵の背に隠れていた王女が、身を乗り出した。
「気に入ってくれたか?」
王女が、やっと王子の顔を見上げ頷いた。
「ありがとう、お兄さま」
王子が満足げに、微笑む。
「良かった。遊んでくれ」
そして王女は再び、公爵の側へ戻った。その顔は、晴れぬまま。
公爵はそれを見逃さなかった。
公爵はこの日、考えていたことがある。
王子の生誕祭でも、王女は公爵の陰に隠れていた。様々な貴族が声をかけてきたが、
王女自身は返す言葉も少なく、王女の内向きな気質を際立たせていた。
王女は、公爵がいる限りそこから動かない。
今日の日は、この幼子が主役。
王族なのだ、誇りを持てばいい。
少し、背中を押す。
「殿下、あなたのお好きそうなケーキがありますよ」
「……うん」
王女の視線は落ちたまま。
「あちらに、あなたへの贈り物があんなに」
公爵が山積みになった箱の山を指し示す。
「大きなくまさんがありますね」
「うん」
王女の怯えた目が、まんまるに戻った。
「……どうぞ、見て来られては?」
「きっと嬉しいものがたくさんありますよ」
王女が公爵の上着を離した。
「行ってくる」
そして贈り物の山へ。
防壁を失った王女に近づくのは誰か。
見てみよう。
公爵は静かにその場を離れた。
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大きなくまの前に座り込んだ王女は、両手でくまに触れ、撫でた。
「わあ、ふわふわ」
「それ、気に入られましたか?」
「!」
王女が振り向くと、そこに王女より少し背の高い金髪の幼子がいた。
赤いドレスをまとい、金髪を二つ結びにしていた。
「お誕生日、おめでとうございます」
金髪の幼子が、口角を上げた。
王女が立ち上がる。
「……ありがとう」
王女の目が、亜麻色を探す。
「それ、私のプレゼントなんです」
金髪の幼子が、王女の後ろのクマを指した。
「そうなんだ……ありがとう」
「殿下は五つになられたんですね」
「わたしは八つです」
「……そうなんだ」
金髪の幼子が、一歩王女に近づいた。
王女が後ずさり、クマにぶつかった。
「王女殿下より、お姉さんです」
「私、ローメル侯爵家のパメラといいます」
「シエルは……シエル・アルテア・アステルディア……」
「……お友達になりませんか、私たち」
「……えっと……」
「王女殿下は、どんな方かなって、ずっと気になってたんです」
王女が横に一歩ずれた。
「実際にお会いした王女殿下は、とても可愛らしい方でした」
「私、一目でお友達になりたいと思ったんです」
「お母様も、仲良くしなさいって」
王女はまた一歩、横にずれる。
視線はずっと、亜麻色を探す。
「あ……シエル……」
そして金髪の幼子が手を差し出したのを皮切りに、
複数の幼子たちが、押し寄せてきた。
それは三つ編みの幼子であった。
「ぜひ私も殿下とお友だちに」
それは黒髪の幼子であった。
「うちは公爵家と近い家柄なんです」
それは髪の長い幼子であった。
「殿下、みんなで遊びましょうよ」
それは。
それは。
口を閉ざし、そして。
「シエル……お友だち……いらない」
遠くで見ていた公爵は、額を抑えた。
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「殿下とお近づきになりたいのは分かるが、一人ずつになさい」
公爵が子供らの群れに近づき、そして気付いた王女がすぐさまその背に隠れた。
「殿下が誰と話せばいいか迷うでしょう」
王女が公爵の後ろで頷いた。
子どもの中の一人が言った。
「……殿下いつも公爵様の後ろに隠れてる」
「甘えん坊だ」
子らが、静まり返る。
背中の王女が公爵の上着を握った。
公爵が片手を口元にやった。 そして、子らを見下ろす。
「……殿下はお前達の人となりを見ておられるだけだ」
「発言には気をつけなさい」
公爵が微笑むと、子らは顔を引きつらせた。
子らは、蜘蛛の子を散らすように離れていった。
王女がパチパチ、手を叩く。
あまりの無邪気さに、公爵が肩を落とした。
「……仲良くなれそうな子は、いませんでしたか?」
「うーん……いないや」
「…………私が甘かったです」
王女が首を傾げた。
そして同じように、公爵も首を傾けた。




