表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/35

第23 話 そりが合わぬ


 ――――殿下のご様子はどうだ?


 宰相が騎士団の訓練場へ足を運んだ。


 最近では珍しくもない。

 王子が頻繁に通うせいで、自然とこちらへ足が向くのだ。

 宰相に声をかけられた騎士団長が顔を引き攣らせた。


「……ようこそ宰相閣下」

「顔色が悪いな、騎士団長」

「私が見てはまずいものでもあったか」

「はは……あのとおりでして……」


 騎士団長の視線の先に子どもが二人。

 王子と騎士団長の子だ。

 何ごとかわめき合っており、ついには互いの肩を叩き始めた。


「……取っ組み合いをしだしたが……」

「最近目を離すとこうなのです」

「……我が息子を連れてきたのは失敗だったかもしれません」

「……殿下の良き友になれば幸いと思ったのですが」


 騎士団長が連れてきた息子は、ゼトという。

 王子と同じ年の頃で、騎士団長の申し出に宰相も快く快諾したのだが。


 騎士団長が子らに向かった。

 両方に、げんこつが落とされた。

 子らは同時に地に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。

「…………」


 戻ってきた騎士団長は憮然としていた。

 子らはまだ倒れている。


「申し訳ありませぬ宰相閣下」

「加減はしておるな?」

「もちろん」

 子らは地に伏したままぴくりとも動かぬ。


「手を焼いているようだな」

「やんちゃ盛りの子供2人の相手はなかなかに骨が折れますな」

「貴殿がそういうのなら他の者であればなおさらだろう」


 子らがようやっと起き上がった。

 こちらを指さして何事か騒ぎ出している。


「……殿下とゼトの仲はどうだ」

「う~ん、今のところ、相性はよくありません」

「ゼトをここに通わせるのをやめたほうが良いのでは、と考え始めたところです」


 子らは、少し目を離した隙に姿を消していた。

 探すと今度は木剣で打ち合っている。

「…………」

「……正直なところはどうだ」


 騎士団長は首を捻り、長く沈黙し、そして、宰相を見た。


「言え」


「……私の、個人的な意見です」

「私も昔はあやつらのような利かん坊であったため、よく親を困らせたものです」

「友とよくくだらぬ言い争いや殴り合いをしたり、親の剣を盗んでいたずらをしたり」

「王子殿下は……王太子であるがゆえに制約も多い」

「なかなか……私も分かってやれぬ、あの方にしか理解できぬ苦しみもお持ちなのではないかと考えることもあり……」

「今はこう喧嘩ばかりでも……」

 

 騎士団長が、訓練場の隅へ視線を向けた。

 

 「殿下が普通の子供として過ごせているのなら、このままでよいのでは……などと」

 

「…………」

「ははは、私も自身で何を言っているのか……聞き流してくだされ」

「私は知らぬ子供時代だな」

「我が一族は貴族とは言え子爵の出でしたから……お恥ずかしい限りで」


「殿下を利かん坊とな」

「いや言葉の綾というものでして!」


 宰相が鼻で笑った。

「いや構わん」

「殿下は利かん坊だ」

「ゼトはそのままでよい……何、また喧嘩をし出したら今日のように貴殿が止めれば良い」

「貴殿がそう育ったのだろう」


「宰相閣下……」

「はい」

「私は帰る」

「あの、閣下」


 呼び止めた騎士団長は、言いづらそうに頭を掻いた。

「その……王女殿下のご様子はいかがでしょうかね……」

「私はあまり存じぬのですが、とても繊細な方だとお聞きします」

「後見人の公爵閣下はどのように接してらっしゃるのか、同じ後見人として少し、気になりましてな」


 宰相が目を伏せた。

「……侍女に聞いたが、よくしてくださっているようだ。

 王女殿下も公爵閣下がいらっしゃる日をいつも心待ちにして勉学に励んでおられるとか」

「おお、それは良き傾向ですな」

「……それ以上は分からぬが」

「王女殿下には避けられていてな」


 騎士団長が、頬を掻いた。

「……王女殿下は、宰相閣下が心配されていることをご存じないだけでしょう」

「貴殿は甘いのだな」

「……王子殿下の苦しみを王女殿下も抱いていらっしゃるとすれば、お二人はその苦しみも共有できるのでは、と……思うのですが……」

「いや私自身、王女殿下とお話したことがない故に……見当違いなことを申しているかもしれませんが……」

「王女殿下もお悩みはお持ちなのだろう」

「我らには察せぬ類のものをな」

「だが……ご兄妹を引き合わせようなどと思うな」


 宰相が、低く吐き捨てた。

 

「……そりが合わぬのだ」

「……会わせたところで、だ」

「……」


 背後で、また子らの怒鳴り声が上がった。


「やめないかお前たち!」


 騎士団長が駆け出していく。

 宰相は深く息を吐き、訓練場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ