第22話 ともだち
「おい、ゼト」
ガッ。王子の肘がゼトに当たる。
「…………」
隣を歩くゼトは無言だ。
「なにか言え」
ガッ。王子の肘が、またゼトに当たる。
「……やめろ……いや、やめてください」
ゼトが王子のちょっかいを手で制す。
「お前謹慎してたって?」
「はい」
先日の喧嘩で、二人は顔の複数個所に青痣を作っていた。
数日たった今は、少し薄れてきたがまだ触れると痛い。
大喧嘩したその日、王子は「明日も来い」とゼトに言った。
だがその次の日、ゼトは来なかった。
騎士団長に聞けば、王子に暴力を振るった罰で謹慎させている、だとか。
「はいってなんだ、お前もっと口悪かっただろう」
「……王子に舐めた口を叩くなと」
「騎士団長が?」
「お父様が」
「お父様ももうやめろよ」
「あのあとお父様にクソほど怒鳴られまして」
「王子をなんだと思ってんだ、ですって」
「王子が許してくださったからお前はお咎めを受けなかった、だが反省しろ、ですって」
「数日家の手伝いをさせられていました」
そういうゼトの顔はふてくされている。
「ふうん」
王子も宰相に怒られていた。
「ご自身のお顔を見られたか?人様に見せられた顔じゃありませんよ」
「ったくいつまで経っても落ち着かない、殿下に王太子のご自覚はあられるのか?」
「王族は容姿も資産!分かりましたね?」
ここで余計な口を挟めば、説教はさらに長くなる。
「……はい」
王子は従順に頷いた。
だが説教は、結局長かった。
王子は長く続く説教の中、「ゼトに会ったら何を言おう」
そればかり考えていた。
数日、罰として宿題の山に追われていた。
そしてその間、ゼトも来なかった。
「……俺と同じか」
「王子も?」
「俺はこの数日、宿題に追われていた」
「よそに顔を出せないから、自室にこもっていろ、と」
「……俺は、おふくろに……使用人の手伝いをしろと薪割りをさせられてた」
「あと……窓拭きとか……洗濯とか……」
「俺はその薪割り、やったことがないな」
「つらい」
「そんなにか?」
「腕が持っていかれる」
「あと使用人に馬鹿にされる、そのへっぴり腰で手伝い?坊っちゃん本気ですかあ?って」
「……俺はそれが一番嫌だな」
「窓拭きは?俺はそれもしたことがない」
「俺もはじめてだった」
「これも腕が持っていかれる仕事だった」
「洗濯は?」
「腕を持ってかれた」
「お前ずっと腕を持ってかれてるな……」
「ああ、おふくろは俺の両腕をもごうとしているんだと思って恐ろしくなった」
ゼトは自然と敬語を使わなくなっていた。
気づいて王子は口角が上がった。
しかし指摘はしなかった。
「ゼト、勝負の続きだ」
「ああ、そうだったな」
「だが、この間と違い、護衛が増やされている」
ゼトが周囲を見渡した。
だが、ゼトには違いが分からない。
王宮内の回廊は使用人が行き来しているのみで、
いつものように静まり返っている。
「……俺には分からねえ」
「増やされているんだ、いつも見ないやつがいる」
「だから勝負は延期だ」
「もっと自由になったとき、再戦だ」
「……じゃあ今日はどうすんだ」
「お前家の手伝いで疲れてるって言ったな」
「ああ」
「俺は相手に不利な状況での勝負は好まない」
「今日はカードで遊ぼう」
「お茶にケーキもつける」
「俺はお前とおしゃべりがしたい」
廊下の向こうでは、護衛騎士たちが一定の距離を保ったまま付いて来ている。
王子はそれをちらりと見たあと、ゼトの腕を掴んだ。
そしてゼトが悲鳴を上げた。
「腕持ってかれてるって言っただろ!」




