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第17話 シエルはさびしくない

 「ルシ、まだかな?」


 王女は窓辺に頬杖をつき、小さく呟いた。


 公爵はいつも、週に一度王女に会いに来る。

 王女にとって、その日は特別だった。

 

 ――――だがその日、公爵は来なかった。


 昼過ぎに、使者が公爵は諸事情で来られないことを伝えに来た時、

 「そうなんだ」

 そう言ったきり、王女は誰とも口を利かなかった。

 泣きわめくことはしないが、食事もとらず、遊ぶこともせず、ただうつむいて泣くのを我慢していた。


 そしてその様子は侍女らを戸惑わせた。

 

 泣きわめいても、公爵は来ない。

 皆、そうだったのだから。



 ――――――――――――――――――――

 


 公爵は早馬で王宮に向かっていた。


 昨日、王女の約束を破ったのだ。


 きっと王女は待っていた。

 今日は約束の日ではないが、だが公爵は一刻も早く王女に会わねばならなかった。


「……王女殿下」


 自室にいた王女は公爵の訪れに俯いた顔を一瞬跳ねるように上げ、だがまた背を向けた。

 侍女らの視線が痛い。


「……王女殿下、昨日は、約束を破ってしまい、申し訳ありませんでした」

「……領地で、問題が起きてしまい……」


 王女の反応はない。

 公爵は努めて優しく語りかける。


「ですが、昨日全て終わらせて参りました」


 王女はまだ俯いている。

 先ほどから、絵本のページを開いたり、閉じたりしている。


「……申し訳ありません……」

「いくらでも……お詫びいたします……」


 沈黙が公爵を蝕む。

 王女の反応は、未だない。

 一日。一日頭を下げ続けることも、覚悟する。


「……今日は、1日ご一緒できます」

「……本当は昨日、お会いしたかったです」


「シエルはちがうもん」


 王女が口を開いた。

 まだこちらに背を向けている。


「……私はあなたにお会いできず、寂しかったです」

「シエルは、さびしくない」

 

 王女がまた口を開いた。

 王女は許していない。

 だが、余地は残されている。


「……今日は、お詫びの品をお持ちしました、受け取っていただけますか」


 急いで用意させたぬいぐるみだ。

 王女の好みに合うか分からない。

 だが持ってこないよりはマシだった。


 ぬいぐるみを王女に差し出す。


 王女がチラリとこちらを見た。

 そしてまた、背を向けた。


 だが、ほどなくして今度は身体ごとこちらに向いた。

「……うさぎさんだ」


 お気に召したようだ。

 ようやく呼吸を許された気がした。


「……お許し、いただけますか王女殿下」


 王女はもう、背を向けていない。

 俯いたままだが、しっかりとぬいぐるみを抱きしめている。


「…………………………」


 王女の顔の目元は、赤く膨らんでいる。

 これは公爵の罪のあとだ。


「もう、約束破らない?」

「はい、破りません」

「ちゃんと、来る?」

「はい、かならず」


 王女が小指を差し出した。

 王女の好きな、指切りだ。

 もはや2人の間では定番の儀式と化していた。

 子供の形をしているが、重い契約だ。

 公爵も、王女に倣って小指を差し出す。

 指を絡めれば、契約は完了だ。


「あのね」

「はい」


「待ってたよ」

「シエルも、ルシのこと待ってたよ」


 ――――ああ。

 王女の瞳から大粒の涙がこぼれた。

 公爵は思わず、その頬へ手を伸ばしていた。

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