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第14話 何しに来たんだ


 「……殿下は友人作りに失敗している?」


 珍しく、王宮の使用人控室に公爵の姿があった。

 若い侍女らが頬を染め、顔を見合わせている。

 侍女長はソファに座る公爵の対面に座る。


「王女殿下は一人遊びがお好きな方なので、あまり外部との交流を好みません」

「それではよろしくない、と一度同年代の令嬢を王宮に招いてみたのですが」

「結果は、失敗でした。そりが合わず、殿下がますます閉じこもる要因となってしまいました」


 公爵は、王女の交友関係の狭さを気にしているようだった。

 王女との定期面会を終えたあと、少しいいか、と呼ばれそうして今に至る。


 公爵が組んでいた足を組み替えた。

「ふむ、殿下はその令嬢とどういったお話しをされていた?」

「その令嬢が話しかけるばかりで、殿下はあまりお答えはされていないご様子でした」

「……令嬢が殿下の絵描き帳に勝手に触れた時、殿下が拒否反応を示されまして」

「交流会は、そこで終了しました」


「……殿下はその令嬢にあまり関心を示されなかったと」

「はい」


 宰相と話す時も注意を払うが、目の前のこの男と話すときは、それ以上に警戒を払っていた。

 舐るような瞳。

 ひと言一句口にするたび、動作、表情、まばたき、すべてを観察されている。

 そんな気分にさせられるからだ。


「閣下が後見人になられる3カ月前のことでございます」

「その後その令嬢は呼んでいないんだな?」

「はい」

 公爵が首をわずかに傾けた。

「……私は、少し違う見方をしている」

「殿下は人を見定めるのに、ゆっくり時間をかけられるお方だと、思っているのだが」

「侍女長殿は、殿下をどう捉えていたのか、聞いておきたい」

「殿下を、ですか」

 侍女長は答えに窮した。

 王女は物静かな幼子だ。あまり自己主張もせず、望みも言わぬ。しかしひとたび気分を害せば閉じこもる。

 そういう気質の幼子であると。

 そう、理解していた。

 この男が来るまでは。

「……殿下はご自分の世界に入り込まれる方で、あまり他者がそこに立ち入るのを好まれないのだ、と思っておりました」

「なるほど、あなたはそう考える」

 公爵が目を細めた。

「しかし令嬢の件は諦めが早いのではないか」


 ……公爵は、説教に来たのだろうか。


「そりが合わぬ、とは何を見て判断した」

「殿下があまりお話されないのもそうですが、令嬢の行動に不快感を示されていたので」

「絵描き帳に無断で触れた件、令嬢に謝罪はさせたのか」

「その場で」

「それ以降はなし、と」

 侍女長は言葉に詰まった。

「……こちらも最善を……」

 反論しかけて、留まった。

 相手は公爵。分が悪い。


 使用人控室に、重苦しい空気が立ち込めはじめていた。

 先ほどまで公爵を美術品かのように眺めていた侍女らも、雲行きの怪しさを察知して逃げていった。


「殿下が子女交流会に参加されたことはあるか」

「いいえ、ですので今後の殿下の交流の進め方については閣下にご判断いただければと」

「分かった」


「……それと、もう1つ聞いておきたいことがあった」

 また、値踏みするような視線が、侍女長を縛りつけた。


「私が来る前は殿下付きの侍女が頻繁に変わっていたそうだが……理由は?」

「……侍女の行動に不快感を持たれた殿下に、侍女が無き者と扱われ、業務に差し障りが出たためです」


「なるほど」

「理由はわからない、と」

 フッ。公爵が笑った。

「……聞きたいことは以上、時間を取らせて済まなかった」


 公爵が去り、侍女長が大きく息を吐いた。

 側にいた侍女の一人が、どうぞ、と侍女長に冷たい水を差し出してきた。

 ゴクリ。一口飲み込むと、喉がスッと楽になる。


 そしてまたため息がこぼれた。


 圧、探り、嫌味、棘。

 普段王女に見せる甘やかな表情などどこにもない。


 公爵の意図は掴めなかった。



 侍女長は立ち上がり、窓を開けた。


 何しに来たんだ。

 こっちだって大変なんだ、公爵め!

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