第11話 クソ騎士団長
幼子の脚が空を切り、大木に当たった。
ゴッ。鈍い音がなった。
その瞬間、幼子が飛び跳ねた。
「いっっってえ!!!」
そして大木が動いた。
地面に転がり脚を擦る幼子に大木が寄る。
「……何か当たりましたかな?」
大木が歯を見せて笑っていた。
「お前なんでそんなに硬いんだ!鉄かと思った!」
「ハハハ、お褒めいただき光栄です」
「褒めてるわけじゃない!!」
大木の名はヴィスラド・バルトルト伯爵。
黒いマントを羽織り、大剣を帯びた男は、皆から騎士団長と呼ばれている。
転がされた王子の後見人になった男であった。
「殿下、無闇矢鱈に暴力を振るってはならぬと言ったでしょう」
「お前は強いじゃないか!何の問題もない!」
「ええ強いですとも、殿下の蹴りなど、赤子と変わりません」
王子が起き上がり拳を振った。
だがその拳は二回りも大きな手に受け止められてしまった。
「軽い拳ですなあ」
紅玉のような双眸が、きつく騎士団長を睨み上げた。
王子が残ったもう片方の腕を振り上げた。
しかし騎士団長が、その腕を手首から掴み上げる。
「これで殿下は両腕を封じられましたぞ、捕虜の身ですな!」
「ううううう」
両腕を持ち上げられ、宙に浮く王子。
ブラブラ、両足が所在なさげに揺れていた。
王子は両目をギュッと閉じた。
「恥じておられるのか?」
「降ろせ、俺は王太子だぞ!」
王子が騎士団長の胴を蹴った。
ビクともしない。
「王太子ときた……ズルいですよ殿下、こういう時にそれを使うのは」
「降ろせって!!」
騎士団長が手を離すと、王子はそのまま地面へ尻から落ちた。
「もっと丁寧に降ろせ!雑すぎる!」
「バカ!!!」
目の前にいる大きな男を見あげる。
王子の2倍もある背丈。
太い腕、太い脚。鍛え上げられた身体。
王子の小柄な身体をその影が覆う。
「降ろせと言ったり雑だと言ったり殿下は注文が多い」
「丁寧に降ろせ!」
「俺はまだ子供だから……強くないだけだ」
「……もっと……訓練すれば……強くなれる」
王子はそっぽを向いて口をとがらせる。
「分かっておられるではないですか」
「今私に挑んでも勝てませんぞ」
「分からないだろ!」
王子が地面を叩く。
「では勝つまで挑戦してみますか?」
騎士団長はまた白い歯を見せて笑った。
大きな体躯に合わず、笑うと人懐こい顔をしている。
「……お、おう……」
「挑戦、お待ちしております」
「やってやろうじゃないか」
今日はこれで戦い納めだ。騎士団長は後ろを向いた隙に、王子が飛び、蹴りを入れた。
足は駄目だ、硬すぎる。
ならば腕だ。
「隙あり騎士団長!」
そして振り向いた太い腕が王子をひと払い。
払われた勢いで、王子の身体が地面に転がった。
「卑怯な手ばかり使う……」
騎士団長が首を傾げた。
「知恵と言え!」
今日はやめなさい。そう言い残し、今度こそ、騎士団長は帰っていく。
言われずとも、王子も挑む気力を無くしていた。
しかし帰り際、少し立ち止まって騎士団長が言った。
「殿下は地面がお好きなんですな」
クソが騎士団長!
覚えていろ!




