08. エリオスへの第一歩
母船の中にいると街中にいるような感じで、ここが宇宙船の中だと忘れてしまいそうになる。
ただ、宇宙空間では時間の感覚が薄れる。機内は昼夜のサイクルが光の明暗で示され、眠りにつく者もいれば、ずっとモニターを眺めている者もいる。
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「はい、どうもー!こっちは地球からおよそ300光年の彼方、エリオス行きの宇宙船の中からお届けしてます、賢人です!」
「編集担当の聡太です。いやー重力がゆるくて、カメラがぐらぐらします!」
「それな。だいぶ慣れたけどな。
ところで、みんな、見てくれよこの食事!」
カメラが捉えたのは、銀色のトレイに並んだパックご飯、ゼリー状の副菜、温かいスープ。
「ぶっちゃけ味はそこそこ。
でもね、地球で食ってたオレの飯に比べたら、断然いい。
あとこれ、ちゃんとカロリー計算されてて、個別にAIが調整してくれてるっぽい。
オレ、脂質少なめにされてた。痩せろってか!」
「僕のは、炭水化物多めだった。
どういう基準なんだろう……」
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船内には、他国からのインフルエンサーも多く搭乗している。
賢人と聡太は持ち前の社交性と機材力を武器に、何本かのコラボ動画を船内で撮影して回った。
イタリアの美食チャンネル、韓国の化粧品レビュー系インフルエンサー、ブラジルのダンス系YouTuberなど、多彩な顔ぶれがそろう。
内容は、自己紹介、エリオスへの期待、地球に残してきたものへの想い――。
みんな職業配信者なので、カメラには慣れているが、地球の話になると言葉がつまり、涙する者もいた。
「不思議だよな」
と、聡太はぼそりとつぶやいた。
「地球が終わるかもしれないっていうのに、今この船の中は……わりと平和だ」
賢人は、しばらく何も言わなかった。
「……たぶんみんな、本当は怖いんだよ。
でも、それを表に出すと、壊れるからさ。
だからカメラを向けてくれた方がいい。何かに集中してたいんだ」
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そして、48時間後。
船内の照明がゆっくりと明転し、優しい音声が流れる。
「目的地エリオスへの降下準備に入ります。安全のため、シートベルトをお締めください」
窓の外に、青く輝く惑星が見えた。
雲の形も、大気の色も、海の色も、どこか“地球に似ていた”。
「……これが、エリオス」
賢人がつぶやいた。
着陸時の揺れはなく、いつの間にか機内アナウンスが「降下完了」を告げていた。
出入口のあるホールは、すでに荷物を手に集まった人たちでごった返していた。
巨大なドアが音もなく開くと、「おー」とどよめきがおきる。
賢人と聡太も、人の流れに乗って外へと一歩踏み出す。
地面は土色。空は青い。遠くには山肌が露わな山脈が見える。風も吹いている。気温は20度前後。
違う星に来たはずなのに、何もかもが“懐かしい”。
「地球と変わらなくね?」
「いや、むしろ……地球“すぎ”じゃね?」
足元の土を、そっとすくってみる。
確かに、違う。でも、それは“似すぎていて違和感がある”という、不思議な感覚だった。
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滑走路に整列する案内ドローンに導かれ、それぞれ指定された自動運転の乗り物に乗る。
いくつかは道路を走り、いくつかは上空を飛び、より遠くの居住区に運ばれる。
賢人と聡太は、バス型の乗り物に案内された。
アジア人と欧米人など人種はさまざまで、どのように振り分けられているのか謎だ。
走るバスから見える街並みは、無駄なものが一切なく、マンションタイプの居住施設がいくつも整然と配置されていた。
「すげぇ……全部、AIが制御してるって言ってたけど……これ、未来都市だろ」
5分ほど走って、一つの建物の前でバスが停まる。
見上げると30階はありそうな高層マンションがそびえ立つ。
建物内にある透明のカプセルで上昇し、ドローンに案内された賢人の部屋は、白を基調にした一人部屋。
シンプルなベッド、作業デスク、そして音声で応答する壁面スクリーン。
窓の外には、整備された緑地帯が広がっていた。
「賢人様、おかえりなさい。
今日の睡眠予測を基に室温を21.5度に設定しています。
体調管理のため、水分補給を推奨します」
「……うわ、完璧すぎてちょっと怖い」
隣室に案内された聡太も、同様の部屋に感心しつつ、撮影用の端末をセッティングし始めた。
「なかなか悪くないな、ここ」
各室に完備された家電はすべてAI制御。食事も水も完璧に供給され、医療用ナノロボットまで埋め込まれているらしい。
しかし――。
地球と同じく、賢人の部屋でくつろぐ聡太が言う。
「……誰も歓迎してくれなかったな」
「ほんとに生き物いるのか?この星」
「着いたらまず、現地の知的生命体のセレモニーとかあってさ、謎の言語で“アナタタチ、ヨクキマシタ”みたいな歓迎されると思ってたんだけどなあ」
歓声も、旗も、拍手もない。
淡々と整備され、整然と割り当てられた生活。
期待していた“感動の到着”は、どこにもなかった。
「さて。次の配信は『エリオスに来てみた!初日のリアル全部見せます』で決まりだな」
なんとも言えない違和感を拭い去るために、聡太がおちゃらけて言う。
賢人は苦笑しつつもうなずいた。
それが、“新世界”の第一夜だった。




