08 片道の旅立ち
翌朝。
トレイを手にした研究員や職員たちが談笑しながら席に着き、湯気を立てるスープやパンの香りが漂う。
まるで大学の食堂のような、明るく賑やかなひとときだった。
その中央のテーブルに、賢人、聡太、ティム、ジャック、アラン、タイラーの6人が座っていた。
周囲の賑やかな雰囲気とは対照的に、彼らの表情には笑みはなく、会話も途切れがちだった。
心はすでに次の作戦へと向かっていたからだ。
そこへ、駆け込むようにハッサンが姿を現した。
「……奴ら、気づいたぞ!」
食堂が一瞬、静まり返る。
ハッサンは肩で息をしながら6人のテーブルまで来ると続けた。
「……奴ら、気づいたんだ。
潜水艇がエリオスに戻るとき、レーダーでしっかり追尾されていた。
進路も速度も把握されている。ーー今こっちに向かってきている」
場の空気が一気に凍りつく。
クルーズ船の連中が核弾頭の消失に気づいただけではなく、自分たちの動きそのものが“痕跡”として残ってしまっていたのだ。
場の空気が一気に緊張へと変わる。
少し離れた席に座っていたスティーブが立ち上がり、険しい表情で言った。
「準備はほぼ整っている。……今なら出発できる」
その時だった。食堂の扉が開き、数人の若者が姿を現した。
Room-Zの仲間たち――そして拓実もいた。
「間に合った……!」
拓実はまっすぐ賢人と聡太の前に立つと、強く言った。
「いよいよ、あの時、あの場所に戻れるんだよね。
我慢できなくて来ちゃった。
ママには学校のサマーキャンプって嘘ついて。
ちょっと怪しんでたけど……でも、最後に顔見たかったから」
聡太が息を呑み、賢人は拳を握りしめる。
戻るというのは、あの日、衝突の瞬間。
そこに身を投じるということ。
拓実の純粋な目には祈りと希望、そしてわずかな不安の色が混じっていた。
他のRoom-Zの仲間たちも口々に声をかける。
「お前たちならできる」
「俺たちも、ここで支える」
「みんなで、あの時に戻ろう」
その一つ一つの言葉が、4人の胸の奥に確かな重みとなって刻まれていった。
しかし、感傷に浸っている時間はない。
危機は、もうすぐそこまで迫っているのだから。
ーーーーー
広大なドックには、すでに定員数千人規模の巨大宇宙船が静かに待機していた。
かつて移住者たちを過去の地球から運んできた船だが、今度はその逆――小惑星へ向けた“片道の旅”を担う。
出発メンバーは、スティーブ、賢人、聡太、そしてリーダー格のティム。
最低限の生活物資と、専用のボックスに格納された核弾頭が慎重に積み込まれる。
だが、往復する必要のない旅であり、荷は驚くほど少なかった。
タラップを上がる直前、スティーブが振り返り、残る仲間たちを見渡した。
「ワームホールを抜けるのに、およそ24時間かかる。
その間――ここを奴らから守ってくれ」
桜井も西野も、表情は固いが頷いた。
「安心して行け。ここは必ず俺たちが守る」
ジャックが短く言い切る。
4人は最後に残るメンバーと互いの肩を叩き合い、タラップを上って行く。
振り返り、手を挙げる4人の前で、別れの余韻もなく静かにハッチが閉まった。
見送る者たちが安全エリアまで下がると、巨大船体がわずかに震える。
次の瞬間、発射ブースターが白い閃光を噴き出し、轟音とともにゆっくりと上昇を始めた。
その光景を、残された仲間が港の縁から見上げる。
手を振る者、ただ祈るように両手を組む者――思いは一つだった。
「……やりきってくれ」
桜井の声は、宇宙船の振動に掻き消されながらも、仲間の心に届いたはずだ。
やがて、巨大な船体は雲間に消えていった。
残された者たちは、その光の軌跡を見失わぬよう、誰一人として目を逸らさなかった。
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