06 静寂に揺らぐ決意
翌朝。
作戦成功の余韻がまだ漂っていた。
食堂に集まったメンバーは、湯気の立つコーヒーを手に、珍しく肩の力を抜いて談笑していた。
「昨日はよく眠れたな」
「俺なんか、久々に夢まで見ちまった」
そんな声が飛び交い、張り詰めていた空気はようやく解けはじめていた。
――だが、その安堵は突然破られる。
「大変だ!」
食堂の扉が勢いよく開き、ハッサンが駆け込んできた。
額には汗、手には傍受用の端末を握りしめている。
「クルーズ船の連中が……気づいた!」
場の空気が一瞬で凍りつく。
ハッサンは息を整えながら、早口で続けた。
「昨夜到着したクレーン船で、潜水艦の引き上げ作業を徹夜でやっていた。
……そして今朝、海面に姿を現した潜水艦のハッチが開いているのを確認したらしい」
静まり返った食堂に、彼らが傍受した声が再生された。
『……ハッチが開いてるぞ?……内部を捜索しろ!』
『固定ベルトが……外れてる!核弾頭が、ない……!』
次の瞬間、重苦しい怒声が響いた。
『やられた……! あの突然の嵐……怪しいと思ってたんだ。相手は相当な技術を持っている!
なんとしても見つけ出せ! 核を奪ったやつらを……生かしては帰すな!』
場にいた全員の背筋に冷たいものが走った。
さっきまでの笑顔は跡形もなく消え、誰もが息を呑んだまま互いを見つめ合う。
彼らは、確実に「敵の視界」に入ってしまったのだ。
静まり返る室内で、西野が重く口を開いた。
「――時間は、もう残されていない」
ーーーーー
ハッサンの知らせを受け、全員が会議室に集まった。
長いテーブルの上には地図と作戦資料が広げられているが、その場を取り巻く空気は、嵐の前の静けさのように重い。
スティーブの姿はない。
核弾頭の状態確認と次の作戦準備に没頭しており、今は研究施設にこもりきりだ。
代わりに、西野が場の視線を一身に受けて口を開いた。
「嵐の発生を疑い始めた今、奴らからここを守るのは難しくなった。
……奴らがこの場所に辿り着く前に、最後の作戦を実行しなければならない」
低く抑えた声が、会議室に響いた。
誰もが息を呑み、視線を落とす。
作戦の核心――小惑星に核をぶつける。
その操縦席に座る者の安全の保証はない。
「正確な角度で小惑星に衝突する技術も必要だが、それだけじゃない。
最後の瞬間まで――躊躇なく操縦桿を握り続けられる精神力が必要になってくる」
西野の言葉に、全員の顔が強張る。
一人ひとりが胸の奥で、自らに問いかけた。
――本当に、最後までやり遂げられるのか。
――もし失敗したら、今までの苦労が水の泡だ。それどころか、エリオスを危険にさらすことになる。
沈黙は重く、誰も簡単には口を開けなかった。
「スティーブの作業には、もう少し時間がかかる」
西野は静かに告げる。
「すぐに答えを出せるものじゃない。……夜にもう一度集まろう」
会議が終わり、誰も答えを出せず重い沈黙を抱えたまま散っていった。
ーーーーー
個室に戻った賢人はベッドに寝転び、天井を見つめていた。
瞼を閉じれば、目の前に操縦桿が浮かぶ。
「俺ならできる」そう思った瞬間、脳裏に浮かぶのは小惑星を目前にして操縦桿を倒し、衝突を回避してしまう自分の姿だった。
――いや、そんなことはしない。
だが次の瞬間には、また同じ映像が頭をよぎる。
堂々巡りの思考に胸がざわつき、答えは遠ざかるばかりだった。
ーーーーー
一方の聡太は、足が自然とトレーニングルームへ向かっていた。
そこには、黙々とランニングマシンで汗を流すジャックの姿があった。
言葉を交わすこともなく、聡太も隣のマシンに乗り込み、ただひたすら走り続けた。
電子音と靴音だけが響く空間で、二人は心の内で同じ問いを繰り返していた。
――自分に託されたなら、最後までやり遂げられるのか。
ーーーーー
タイラーは、ベットに腰かけ、古びた写真立てを手にしていた。
そこに映るのは、地球に残してきた父と母。
笑顔を浮かべる二人を見つめながら、胸の奥で温かいものと冷たいものが入り混じる。
「もし俺が行ったら……二人は誇りに思ってくれるのかな」
その問いに答える声はなく、写真の中の両親だけが静かに微笑み返していた。
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ティムは当てもなく施設の外を歩いていた。
どこへ向かうでもなく、ただ足が勝手に前へ進む。
ふと耳に届いたのは、子供たちの笑い声。
広場では、何も知らない無邪気な子供たちが追いかけっこに興じていた。
その姿を見た瞬間、ティムの胸に重くのしかかる問いが一つ。
――この未来を守るためなら……
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それぞれが自分に問い続けるが答えは出ない。
だが、夜が来れば再び集まり、決断を迫られる。
静かな午後に、決断を迫られる足音だけが響いていた。
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