05 嵐を超えた者たちの安息
港の灯が見え始めたころ、小型船は静かに水面を滑り、西野や桜井、スティーブが待つ埠頭へと近づいた。
賢人の操縦は乱れひとつなく、船体はわずかな音を立てて接岸する。
「よく戻ったな!」
駆け寄った桜井が声を張り上げ、安堵の色を浮かべた。
一方、アランが操縦する潜水艇は、海底からゆっくりと上昇を続けていた。
モニターに映る3人の生体データは安定している。
しかし、上昇時間の長さが焦りを呼ぶ。
盗聴を続けていたシヴァとハッサンの耳に、嫌な会話が飛び込んできた。
――「ボス、海が静かになりました」
――「……潜水艦、まだそこにあるか?」
――「はい。変わりありません」
――「見張りを続けろ。何か異変があったらすぐ報告しろ」
2隻のクルーズ船は、すでに潜水艦の海域に戻り、監視を強めている。
もし潜水艇の存在が露見すれば、すべてが水泡に帰す。
「……頼む、気づかれるな」
賢人は岸壁に立ち、遠くの水平線を見つめながら、無意識に拳を握りしめた。
やがて、エリオスの港からも、海面に小さな影が浮かび上がるのが確認できた。
潜水艇だ――。
着岸した潜水艇のハッチを賢人がゆっくりと開く。
中を覗き込むと、減圧装置に横たわる3人の姿が見える。
オリバー、タイラー、そして聡太。
賢人を見た聡太は、安心した様子で、ニヤリと笑って親指を立てた。
「よく帰ってきてくれた……!」
西野が小さく呟き、その声には緊張が解けた安堵がにじんでいた。
潜水艇が港のクレーンで慎重に吊り上げられ、陸に揚げられる。
しばらくして、減圧装置のランプが緑に変わり、扉が開いた。
オリバー、タイラー、そして聡太が一人ずつ姿を現すと、待ち構えていた仲間たちから大きな拍手が沸き起こった。
「よくやった!」
ティムが力強く肩を叩く。
ジャックも頷きながら言葉をかける。
「無事でよかった。……本当に」
すぐにティムとジャックが潜水艇の中に入り、核弾頭を抱え出す。
まるで爆弾処理班のような緊張感の中、それは厳重にケースに収められ、スティーブが用意した隔離施設へと運び込まれた。
彼の手で一つひとつ動作確認が行われる予定だ。
⸻
その夜。
エリオス本部の食堂には、今回の作戦に関わったメンバーが一堂に会した。
照明は柔らかく、温かい湯気の立つ料理が並び、久しぶりに緊張を解いた空気が漂う。
「潜水メンバーは酒はダメだぞ。体の回復が優先だ」
ティムが小さく咳払いしながら釘を刺すと、場がどっと笑いに包まれた。
「しかし、あの台風発生のメカニズム――私が想定した通りの規模と勢力だった。
まさに完璧に働いたんだ!」
お酒が入ったスティーブは、いつも以上に饒舌に語り出し、手振りを交えてドローンの配置や上昇気流のシミュレーション精度を嬉々として説明する。
いつもは無口で無表情な研究者たちも、彼の成功談に笑顔で相槌を打っていた。
聡太はコーラの入ったグラスを手にしながら、少し照れくさそうに口を開く。
「さすがに、一人で深海に入ったときは……正直、緊張したよ。
下っ腹のあたりが、こうキューってなる感じ」
それに対してオリバーが「だがよくやった」と短く言い
タイラーは「聡太が来てくれなかったら……
俺たちはまだ隔壁の中で、海の藻屑になっているところだったよ」と笑顔を見せる。
賢人も肩をすくめて笑った。
「俺も、小型船の操縦を練習しておいて正解だった。
あんな波の中、ぶっつけ本番だったら絶対沈んでた」
ジャックは苦笑いしながら「珍しくお前に同意だ」と返す。
賑やかな笑い声、食器の音、皿の上で踊る料理の香り。
そこにあったのは、死と隣り合わせの緊張からようやく解放された、束の間の温もりだった。
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