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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
最終章 君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる
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02 嵐の幕開け、深海への扉

台風はついに直径100キロを越え、その中心気圧は810hPaにまで勢力を強めていた。

リアルタイムの衛生画像は、凶暴な渦が勢力を落とさぬまま南東へ進み、潜水艦が眠る海域を飲み込もうとしていることを示していた。


小型船の中、モニターにかじりついていたアランが声をあげた。

「……傍受成功。

二隻のクルーズ船が慌ててる」


スピーカーから流れるのは、粗雑な英語交じりの通信だった。


――「ボス、北の空を見てください!」

――「なんだ……あれは!?」


黒い雲の壁が天を覆い、稲妻が狂ったように走る光景を見ているのだろう。


「台風の渦が見えてるんだ……」アランが呟く。


無線は続く。

――「クレーン船がもうすぐそこまで来てる!

ここで退いたら全部無駄になる!波に船首を向けるんだ!」


小型船の操縦席で聞いていた賢人たちの間に、一瞬、張り詰めた空気が走った。


「……まずいな」ジャックが低く吐き出す。

「もし奴らが無理を押し通したら?」


全員の視線が自然とアランへ集まる。

彼は受信機を握り締めたまま、小さく首を振った。


「……大丈夫だ。やつらだってわかってる。これは人間が制御できる規模じゃない」


次の瞬間、ノイズ交じりの無線から叫びが響いた。


――「無理です!このままじゃ……この船ごと吹き飛ばされる!」

――「……仕方ない!北東の安全海域まで退避する!」


「……よし!」タイラーが安堵の声を漏らした。

「奴ら、退いたな」


「これで道は開けた。いよいよ僕らの出番だ」

オリバーが、自分に言い聞かせるように呟く。


小型船は嵐の外縁で静かに待機しながら、決戦の時をじっと見据えていた。


北東の海へと針路を取った二隻のクルーズ船。

その後を追うように、水中ドローン群も進路を変え、人工的に生み出された巨大台風も、渦を巻きながら北東へと進路を取る。


傍受した無線からは、焦りに満ちた声が響いていた。

――「台風が……こっちを追ってきてる!」

――「馬鹿な……まるで生き物みたいじゃないか!」


アランが冷静にモニターを見つめながら呟く。

「……予定通りだ。奴らは完全に台風に気を取られてる」


その隙を突くように、小型船は潜水艦が眠る海域へと静かに近づいた。


「オリバー、タイラー、聡太、準備はいいか」

ジャックの低い声に、3人は無言でうなずく。

バックアップ要員として、聡太も潜水艇に乗船することになったのだ。


後部デッキでは、スティーブが設計した最新型の耐圧スーツが用意されていた。

金属の骨格と樹脂素材を組み合わせた光沢のある外装が、頼もしくもあり、同時に異様な緊張を漂わせている。


「手を貸すよ」

賢人がオリバーの肩を押さえながら、背中の固定具を締める。

「……ありがとう。お前らの整備があるから安心して潜れる」

オリバーは短くそう答えた。


タイラーと聡太も着脱を終え、3人は狭いハッチを身をかがめて通り抜け、小型船に牽引されていた潜水艇へと乗り込む。


「気をつけろよ。……任せたぞ」

ジャックが硬い声で送り出す。


「俺たちの分まで、しっかりやってこい」

賢人も真剣な表情で続ける。


「任せろ」

オリバー、タイラー、聡太は同時に親指を立て、狭い艇内に姿を消した。


やがて、小型船は潜水艦の真上へと到達した。

アランが操縦端末を操作し、潜水艇の固定を解除する。

「……よし、行くぞ」


しかし、海面は依然として台風の余波で荒れていた。

波が容赦なく艇に叩きつけ、アラン自身も大きく揺れる中での制御は容易ではない。


「おいおい、アトラクションにしてはスリルありすぎだな!」

通信越しにタイラーの軽口が聞こえる。


「黙ってろ。舌を噛み切るぞ」

オリバーが吐き捨てたが、その声の奥には緊張を和らげようとする響きも混じっていた。


大きな揺れに翻弄されながらも、潜水艇はついに海へと着水した。

しぶきを上げ、泡を巻き込みながらゆっくりと沈み始める。


「……潜行開始」

アランの声が小型船内に響く。


こうして、深海700メートルに眠る潜水艦へ向けた、決死の潜行が始まった――。

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