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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
最終章 君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる

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01 始動する沈黙の航路

「……全員そろったな」

ティムが周囲を見回し、短く告げる。

夜明け前の薄暗さに包まれた港。

水空両用の小型船が静かに浮かび、搭載機器の点検が進められていた。


小型船に搭乗するのは6人。


「潜水担当は俺とタイラーだな」

オリバーが低く呟き、腕を回して準備運動をする。


「任せとけよ。700メートルの深海でも、俺の肺はまだ笑ってるぜ」

タイラーは、いつもの明るさで場を和ませる。


「バックアップは俺と聡太。何かあったら即座に引き上げる」

ジャックが言うと、隣の聡太が肩をすくめた。


「プレッシャーかけんなよ。俺、まだ訓練疲れ残ってるんだから」

「だから言ってじゃないか。お前が無茶するの、俺が一番知ってる」

小声で返すジャックの口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。


アランはタブレットを抱え、モニターを確認しながら眉を寄せる。

「通信と機器の同期は僕が見る。

賢人、お前は整備だな」

「了解。ネジ一本だって緩んでたら命に関わるからな」


賢人は、昨日まで続けてきた地道な整備作業を思い返しながら、胸に手を当てた。

ネジ一本の緩みも、数値ひとつの狂いも許されない――そんな張り詰めた日々の積み重ねが、今この瞬間に繋がっている。


最終点検を終えた小型船の前で、エリオスで遠隔指示を出すティムが6人に向き合い、力強く言った。

「無理はするな。訓練でやってきたことを思い出せば大丈夫だ。

落ち着いてやってくれ」


続いて西野が、ゆっくりと言葉を重ねる。

「計画は万全だ。

だが、海は予想外の顔を見せることがある。

何かあればためらわず計画を中止にするんだ。

――君たちの安全が第一だからな」


スティーブは腕を組み、短く付け加える。

「装備は完璧に仕上げた。信じろ。それだけだ」


桜井は6人と握手を交わし、静かに言った。

「ここからは、一歩ずつ確実に進めばいい。

君たちの背中は、俺たちが支えている」


その言葉を胸に刻みながら、6人は船内に乗り込む。

やがてハッチが閉じられ、密閉音が静かに響く。

小型船は水面すれすれを滑るように動き出し、無音のまま嵐の海域へ向けて進んでいった。


ーーーーー


やがて、エリオス本部の遠隔班からの通信が入る。

「水中ドローン、投入開始」

小型船の小さな窓から海面を覗くと、数百機の小型ドローンが一斉に海中を進んでいくのが見えた。

ソナー画面上には、まるで魚群のようなパターンが映し出されるはずだ。


「これなら、不自然には見えないな」

アランが息を吐く。


同時に、空域では別の作戦が動いていた。

「大型ファン、上昇開始。

高度一万二千メートル――カモフラージュ色、良好」

空高く上昇した大型ドローンは、空の色と同化するように姿を隠しながら、ゆっくりと大気圏付近へと昇っていった。


「信じられないな……。空と海を同時に操作して嵐を作るなんて」

聡太がぽつりと呟く。

「それでも、まだ作戦の入り口だ」

オリバーが静かに言い、視線を荒れ始めた水平線へと向けた。



小型船は、安全な海域で嵐の発生を待つことになっていた。

波間に漂いながら、緊張と静寂が交互に胸を締めつけていく。


「予定海域にドローン群が到着」

アランの声が緊張でわずかに震えていた。

モニターに映し出された数百の光点は、規則正しく配置され、命令を待っていた。


「発熱開始」

アランが指をタップすると、光点がじわりと赤に変わり、データ表示の温度がぐんぐん上がっていく。

「32度……33度……34度……海水温度が35度に到達した!」


「よし、上空ドローン、稼働開始」

スティーブの声がエリオス本部から響いた。

映像が切り替わり、成層圏近くに浮かぶ大型ドローンが巨大ファンを回転させ始める。

吸い込まれた空気が轟音を立て、下層に猛烈な上昇気流を送り込んでいた。


「気圧……950hPaを割りました」

「さらに下降中。940……920……900を突破」アランが読み上げる。


「……ここまでは計画通りだ」ジャックが低く呟く。

だが、その横顔は強張っていた。


ーーーーー


やがて、水中ドローンが時計回りに回転を開始。

「回転速度、規定値に到達。

海流のシミュレーション通りです」

「よし」

アランの報告に、スティーブが短く答える。


大型ドローンのカメラ映像がリアルタイムで送られてくる。

画面の端に、淡い雲がうっすらと現れ始めていた。


「……見えてきたぞ」桜井が息を呑む。

雲はやがて円を描き、渦を巻くように回転を始めた。

最初は曖昧だった形が、数分もしないうちに明確なスパイラルを描き、中央に暗い穴が口を開ける。


「台風の目が形成された」

アランの声がかすかに震える。

「気圧、850……840……現在、830hPa」


「理論通り、いや、それ以上だ」

スティーブが珍しく感情を露わにし、早口で続けた。

「この嵐なら、船は耐えられない。

必ず退避するはずだ」


小型船の上部ハッチを開けて空の様子を見ていた賢人は、ヘッドセット越しにやり取りを聞きながら、ごくりと唾を飲み込んだ。

「……本当に、嵐を“作っちまった”んだな」


水平線の向こうには、今まさに生まれつつある怪物――人工の台風が、世界を呑み込むように広がっていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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