05 迫られる覚悟と刻限
水圧負荷訓練が始まって三日目。
密閉された高圧装置の中で、オリバーとタイラーは着実に数値を伸ばしていた。
モニターに映し出されるメーターは、すでに深度700メートル相当。
呼吸も脈拍も安定し、二人の体は極限の環境に慣れつつあった。
だが、ジャックは違った。
400メートル相当を超えたあたりで、いつも決まって額に汗をにじませ、頭を抱えてうずくまる。
「チッ……くそ、まただ」
装置から出るなり、乱れた息を吐き、壁を拳で叩く。
訓練開始から続く頭痛と疲労感。焦りと苛立ちが露骨に表に出始めていた。
西野が心配そうに眉をひそめる。
「このままでは、精神的にも身体的にも危険だな……」
そして、訓練室の外で見守っていた賢人と聡太の方を振り返った。
「一度、君たちも試してみてはどうだろう。適性があるかもしれない」
賢人は一瞬固まった。
「え……俺たち、ですか?」
賢人は、閉ざされた装置の入り口を見ただけで胸がざわついた。
それでも観念して入り、扉が閉じられると、重苦しい圧迫感にすぐさま冷や汗が噴き出す。
わずか数十メートル相当で「無理だ!」と叫び、扉を叩いた。
外に出ると、顔色は青ざめ、足も震えていた。
「やっぱ俺は……閉じ込められるのはダメだ」
悔しさを隠しきれずに言い残す。
一方の聡太は違った。
装置の中に入ると、負荷が増しても肩の力を抜き、淡々と呼吸を続けている。
「おい、平気か?」外の西野がマイクで声をかける。
「全然。まだイケるっすよ」
モニターに表示された心拍数は驚くほど安定していた。
後で聞けば、幼い頃から水泳をやっていて、肺活量や心臓が人より強いらしい。
何より、その天性の“おおらかさ”が極限状態でも動じさせなかった。
「……やはり適性があるな」
西野は静かに頷く。
こうして、オリバー、タイラー、ジャックに加えて、聡太の4人で訓練を進めることになった。
ジャックは悔しさを胸に押し殺しながらも、他の3人に食らいつこうと歯を食いしばった。
訓練室の外では、賢人か手を握りしめていた。
「俺にできるのは、チェックや記録だけか……でも、絶対に支える」
極限の水圧に挑む彼らの姿に、仲間としての誇りと、どうしようもない焦燥感が交錯していた。
ーーーーー
一方その頃、解析班――アラン、ハッサンは、2隻の船に忍ばせた盗聴装置のデータを分析していた。
無線に混じって、気になる会話が聞こえてくる。
「……洋上大型クレーンを手に入れた」
「今、タンカーに積んでこの海域に向けて運んでいる」
その言葉に、室内の空気が凍りついた。
アランが険しい表情で腕を組む。
「クレーン……潜水艦を引き上げるつもりか」
すぐに全員が集められ、緊急の会議が開かれた。
スクリーンには、解析した音声と位置データが映し出されている。
もし彼らが先に核を回収すれば、この計画は一瞬で水泡に帰す。
「作戦を遅らせる余裕はない」
ティムがきっぱりと断言した。
「むしろ時間との勝負だ。当初の予定通り、7日後に決行する」
西野も頷く。
「高気圧の動きも計算済みだ。今を逃せば次は一月以上先になる。
敵が核を手にしたら取り返しがつかん」
静まり返る室内で、その方針は共有された。
――だが、訓練中の4人にとっては重すぎる現実だった。
オリバーとタイラーは着実に深度を伸ばしていたが、ジャックはいまだ壁を越えられず、苛立ちを隠せない。
一方で、急きょ加わった聡太は、予想外の適性を見せ、淡々と負荷をクリアしていく。
「あと7日……」
ジャックは拳を握り締め、モニターに映る数値を睨みつけた。
焦燥は仲間たちの胸にも伝播し、訓練室には緊迫した空気が漂い始めていた。
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