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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第5章 極限にさらされる心

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04 動き出した静かな歯車

翌日――。

地下通路を抜け、分厚い隔壁のゲートが開くと、背の高い男が姿を現した。

Room-Zで映像越しに見た顔――オリバーだ。

引き締まった表情と落ち着いた眼差しに、元海軍兵らしい気配が漂う。


その後ろから現れたのは二人。

インド出身のシヴァと、タンザニア出身のハッサン。

「彼らは通訳担当だ。英語や仏語だけでは拾いきれない現地言語がある。

海上での通信を解読するために来てもらった」

桜井の説明にうなずきながら、二人は礼儀正しく握手を交わした。


ーーーーー


深海への備え


合流したその日から、オリバー、ジャック、そして予備人員として選ばれたタイラーの三人が挑むのは「高圧環境順応装置」だった。

透明な円筒の内部は水で満たされており、外部から制御盤で圧力を調整できる仕組みだ。


胸や腕には生体モニターが装着され、心拍数や血中酸素濃度がリアルタイムで表示される。

「異常値が出たら即中止だ。無理は絶対にするな」

西野の言葉に、三人は黙ってうなずいた。


最初に挑戦したのはジャック。

ゆっくりと水圧が高められていく。

耳が詰まるような圧迫感。

全身を締め付けるような重圧。

「耳抜きを忘れるな! 鼻をつまんで息を送れ!」

オリバーの声がインカムを通して響いた。


装置の内部で数分、限界ぎりぎりまで耐える。

モニターに心拍数が跳ね上がる表示が出た瞬間、合図とともに装置の上部が開き、ジャックは素早く隣接する「減圧装置」へと移動させられた。

減圧装置の内部で数十分をかけ、少しずつ安全な大気圧まで戻していく。

もし一気に外へ出れば、血中の窒素が気泡となって体を破壊する――“減圧症”という死のリスクがあるからだ。


ジャックは装置から出ると、顔をしかめながら肩を回した。

「クソ……体が鉛みてぇだ」


タイラーはジャックの様子とモニターの数字を見ながら

「今ので水深150m相当の水圧か……」


その横で、オリバーだけが冷静にデータを確認していた。

「そうだ。本番はもっと長い時間、もっと深い圧力がかかる。

ここで慣れなきゃ生きて帰れん」

彼の一言に、場の空気が再び張り詰めた。


ーーーーー


情報の壁を破る


一方、アラン、シヴァ、ハッサンの三人は、交代して24時間体制で、盗聴ドローンが拾った雑音混じりの会話を解析することになった。

アランはヘッドホンから聞こえる音声に、眉間に皺を寄せていた。

「……フランス語とスワヒリ語が混ざってるな。方言だ、かなり厄介だぞ」

「でも聞き取れる。船の連中、食料不足を嘆いてる。武器の補給も滞ってるようだ」

シヴァは言葉を繋ぎ合わせながら、敵の不安や苛立ちを読み取っていった。



技術の現場


スティーブは別の部屋で黙々と設計図を描き、巨大な3Dプリンターが唸りを上げていた。

3人それぞれの体型にぴったり合わせた耐圧スーツの関節部、ソナー探査機の部品、そして水中での通信機――次々と吐き出されるパーツを、賢人と聡太が設計図と睨めっこして丁寧にチェックする。


「おい賢人、このネジ、規格が合ってないぞ」

「ったく……プリンターでも完璧じゃないんだな。チェックが命だ」


机の上には、スティーブが設計した小型機材のパーツが次々と積み上げられていく。

3Dプリンターは高精度だが、印刷時の環境や素材の癖で、ほんのわずかなズレが生じることがあった。


「そのズレが致命傷になるんだ。分かっているだろうな?」

スティーブが抑揚のない声で言い放つ。

的確だが突き刺さるような言葉に、賢人は舌打ちしそうになるのをこらえた。


「言われなくても分かってるよ……」

小さく吐き捨てるようにつぶやきながらも、目の前のパーツから視線を外さない。


聡太も黙り込んだまま、精密ゲージを当て、0.01ミリ単位で規格を確認していく。

「……合格」

「こっちは微妙だな、やり直し」

二人の声だけが、緊張に張り詰めた空気の中に響いた。


派手さはない。

ただ、細部を見逃せば――深海700mに挑む仲間の命が奪われる。

「3人が戻ってこなかったら……オレらの責任だぞ」

聡太が低くつぶやいた。


その言葉に、賢人は思わず手を止め、仲間の横顔を思い浮かべる。

「……分かってる。だからこそ、完璧に仕上げるんだ」


二人は再び黙々と作業に没頭した。

目の奥に宿ったのは苛立ちでも疲労でもない。

確かに「仲間の命」を背負った者の眼差しだった。



作戦の全体像


管理棟の一室では、ティムが桜井、西野と共に地図を広げていた。

目の前には、ホログラムに海域の気象シミュレーションが表示されている。


「潜水艦が沈む地点はここだな。常駐する船の動きは?」

「ドローンの偵察によれば、2隻は交互に補給に出ている。だが基本は停泊したままだ」

ティムは顎に手を当てながら、赤線で航路を書き込んでいく。


「嵐が突然起きると怪しまれる。」


「発生させた低気圧が、南半球の気流に沿って自然に南下することを考えると……ここだ」

西野がインド洋の赤道直下のあたりを指差す。

「ここに低気圧を発生させれば、潜水艦が沈んでいる海域は嵐に包まれる」


「気象予測データを解析すると、この海域を覆っている高気圧はおよそ10日後に弱まる。

そのタイミングで人工的な低気圧を誘発すれば、自然現象の延長に見える。」

桜井は、数字が並ぶデータを眺めながら確認するように呟く。


「――決行日は、その10日後にしよう」

そう言ったティムの目には、決意が込められていた。


スクリーンに「D-10」という赤い文字が浮かぶ。

「それまでに装備の準備、潜水訓練、そして内部侵入用の機器を仕上げる必要がある」


西野が腕を組み、静かにうなずいた。

「……一連の動きを相手に悟られずにやり遂げる。

そのためには、全員が自分の役割を完璧に果たさなければならない」



6人と新たな仲間たち――それぞれが持ち場で役割を果たし、巨大な計画の輪郭が形になり始めていた。

しかしその先に待つのは、誰一人経験したことのない深海と、未知の危険だった。

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