01 沈黙と賛同の狭間で
画面がつながった瞬間、Room-Zのスレッドは一気に熱を帯びた。
「やっとだ!」
「何があったんだよ、教えてくれ!」
矢継ぎ早の書き込みに、長く押し殺されていた焦燥がにじみ出ていた。
皆、6人からの連絡を首を長くして待っていたのだ。
賢人は深呼吸してから、Room-Zの画面に向かって言った。
「――まず、安心してくれ。俺たちは無事だ。
それから……いろんなことが分かった」
一瞬、チャットは固まったように静まり返った。
画面の向こうでは、皆が食い入るようにこちらを見ている。
やがて、疑問符が並ぶメッセージが次々と流れ始めた。
「どういうことだ?」
「“分かった”って、何が――?」
ざわつきが広がる中、西野が画面に姿を現した。
白髪混じりの髪を撫でつけ、落ち着いた声で告げる。
「初めまして。私は西野と言います。
長年ここで医療と生活支援を担当しています。
――まず、私たちは生き延びてきた者たちで、南極にこの施設を築いたんだ。
詳しい経緯をお話ししよう」
その言葉に、スレッドは再び息を呑んだように静まった。
一通り西野の説明が終わると、続けてスティーブが映り込み、分厚い資料を手に早口で補足する。
「ーーと言うことで、君たちが暮らしている“エリオス”は、ただの閉ざされた実験都市じゃない。
技術的基盤も、管理システムも、私たちが長年開発してきたものだ」
彼の背後に並ぶホワイトボードには、数式や見慣れぬ図が散乱している。
Room-Zのメンバーは沈黙したまま画面に釘付けになっていた。
時間移動の仕組みを知ったメンバーは、やがて書き込みを始める。
「……本当なのか」
「じゃあ俺たちは……やっぱり地球にいるってことか?」
「それも未来の……」
誰も軽口を叩かない。
画面の向こうでRoom-Zの仲間たちは言葉を失ったように沈黙していた。
空気は重く、しかし確実に、これまでの“常識”が覆されていく感覚が広がっていった。
ーーーーー
賢人が深く息を吸い、決意を込めて言葉を放った。
「――これらの事実を踏まえた上で、俺たちは、“過去”に戻って小惑星を破壊しようと考えている。
それには……潜水艦に眠る核が必要なんだ」
その一言に、チャットが一気にざわめいた。
「潜水艦? 海の底にあるやつか?」
「どうやって回収するんだ……?」
「そんなの無理ゲーじゃないか」
「展開が早すぎて付いてけねー」
さらに西野が続けた。
「インド洋の沖に原子力潜水艦が沈んでいることは確認できている。
深度は約700メートル。……容易ではないが、技術的には不可能ではない」
Room-Zのチャットが、再びさわめく。
「その核を積んで、小惑星に突っ込むってことか?」
「そんなの自殺行為じゃないか!」
聡太が口を挟む。
「無謀だと思うのは分かる。でも、それしかないんだ。
軌道が不安定な小惑星を破壊するには、自動操縦じゃ無理なんだ。
誰かが核を積んだ船を操縦して突入するしかない」
「小惑星の衝突が阻止できれば、すべて無かったことになる。
津波も、核戦争も、このエリオスも……」
賢人が続ける。
「あくまでも、楽観的に考えた理論上の話であって、結果がどうなるか、誰にもわからない。
もちろん、考え得る可能性はすべて考慮して計画を立てるつもりだ」
スティーブが付け加える。
最後に賢人が画面を見据え、短く言った。
「――これが、俺たちの選んだ道だ」
Room-Zのスレッドはしばし騒然としたが、やがてそれぞれが自分の立場を思い出すように、少しずつ声を上げ始めた。
「……俺、元はITエンジニアだったから、何かの役に立てるかもしれない」
「私は海軍にいた。
潜水艦で勤務した経験もある。きっと活かせるはずだ」
そんな力強い言葉が並ぶ一方で、画面の端には沈黙を続けるユーザー名も多かった。
賛同も反対も書かず、ただ文字が流れるのを見守る者たち。
その沈黙が意味するものが何なのかは、誰にも分からなかった。
やがて、スレッドに短い書き込みがひとつ落ちた。
「――やるしかないんだな」
その言葉を最後に、スレッドは再び静まり返った。
だが、沈黙の奥底には、確かに何かが動き始めている――そんな予感が、6人の胸にじんわりと広がっていた。
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