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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第4章 隠された大陸、語られた真実

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06 語られた過去、つながる現在

「スティーブ博士から時間移動の理屈は教えてもらいました。

……でも、ひとつ聞いてもいいですか」

賢人が静かに口を開いた。

ソファに深く腰をかけたまま、指先を組んでいる。


「これだけの技術力があるなら……地球を、あの衝突から救えたんじゃないんですか?」


彼の問いに、場がわずかに凍った。

聡太も、言葉を飲み込み、桜井に視線を向ける。


西野は小さく息をつき、苦い笑みを浮かべた。

「……その通りだ。

私たちの仲間には、スティーブを始めとする優秀な技術者や研究者がいる。

誰もが“どうすれば地球を救えるか”を命がけで考え、何度もシミュレーションを重ねた。

もちろん、実行にも移した」


「じゃあ――」と聡太が身を乗り出す。


「だが、どれもうまくいかなかったんだ」

西野の声は低く、けれどはっきりと響いた。


「例えば、小惑星の衝突。

実は、主要国のトップには数年前の時点で通達していた。

私たちの存在を伏せ、複数のチャンネルを使って警告を送ったんだ」


「……え?」

6人は一斉に声をあげた。


「本当に? じゃあ――」アランも驚きを隠せない。


「そうだ。だが、結果は“黙殺”だった。

権力を持つ者たちは耳を貸さなかった。

たとえ受け取っていたとしても、自分たちに不利益になると判断したのか……。

私たちは何度も形を変え、ルートを変え、再び伝えようとした。けれど――」


西野は、そこで言葉を切った。

長い沈黙。


居心地のいいラウンジに流れる音楽が、今はやけに遠く感じられた。

6人は互いに目を見交わしながら、驚愕と、信じがたい思いに呑まれていた。


「……人類に、警告されていた……衝突を回避するチャンスがあったんだ」

聡太が掠れ声で呟いた。


「……どうして!? なぜ無視するんだよ! 小惑星が落ちるって分かってたなら、本気で対策すれば助けられたかもしれないのに……!」

聡太は抑えきれずに声を張り上げた。


ラウンジにいた全員が、聡太の叫びに息をのんだ。

その横で、賢人は言葉を失ったまま唇を噛みしめている。


少し間をおいて、西野が口を開いた。

「……理由は単純だ。人間は、自分の保身と目先の利益を優先してしまう生き物なんだよ」

その声は穏やかだったが、どこか深い疲労がにじんでいた。


「小惑星の衝突は“まだ先のこと”だと、多くの者は思った。

自分の任期中には起きない。自分の国には影響が及ばない。

あるいは……情報を独占すれば、自分たちだけが優位に立てると考えた。

だから――協力どころか、意図的に耳を塞いだ国さえあったんだ」


聡太は愕然とした表情で、椅子の背にもたれかかった。

「そんな……そんなバカな理由で……」


西野はうなずき、目を伏せた。

「醜い話だが、これが現実だ。結果として、世界は救えるはずの機会を、自ら手放した。

私たちはその無力さと愚かさを、痛いほど思い知ったんだよ」


西野は深く息を吐き、話を続けた。

「……我々は核戦争を止めようとも試みた。

最初の発射は、実は制御システムの不具合による誤発射だったんだ。

幸い、我々が介入してシステムをハッキングし、暴走したミサイルは無事に制御できた」


聡太が思わず顔を上げる。

「じゃあ……その時は防げたんですね?」


「そうだ。しかし、それで終わりではなかった」

西野は首を横に振った。


「一度“核のスイッチ”が入ってしまえば、人間はもう疑心暗鬼から逃れられない。

誤作動が原因だったと説明しても、各国は互いを疑い続けた。

システムの混乱は次々と連鎖し、今度は“本物の指令”が飛び交った。

中には、混乱に乗じて意図的に発射ボタンを押した者もいた……」


ラウンジに沈黙が落ちた。

賢人は額に手を当てながら、呆然と呟く。

「……じゃあ、結局……止められなかったのか」


西野の表情は苦渋に満ちていた。

「そうだ。私たちはあらゆる手段を講じた。

ミサイルのシステムに潜り込み、回線を切断し、指揮系統を撹乱もした。

だが、結果は変わらなかった。核は次々と打ち込まれ、大地は焦土と化していったんだ」


桜井が低い声で補足した。

「だからこそ……“生き残るための道”を、別に用意せざるを得なかった。

エリオスのプロジェクトは、その結果でもあるんだ」


西野は、背もたれに深く身を預けると、重い口を開いた。


「……私たちは痛感したんだ。人間だけでは、この地球を制御できないと。

誤作動を止めても、次の瞬間には“人間の意思”が引き金を引いてしまう。

どれほど科学や技術を持ってしても、人の不安と欲望までは制御できなかった」


アランが口を挟んだ。

「だから……AI、なんですか?」


「そうだ」西野は静かにうなずいた。

「AIは、感情に流されない。保身や怒り、憎しみで判断を誤ることもない。

私たちは最後の希望として、“調和”と“秩序”を最優先にするAIを育て上げ、戦火の広がる大地から離れた安全な拠点を築くことを選んだ。

その結果が……君たちの知る“エリオス”だ」


賢人は唇を噛んだ。

「……でも、あそこは調和しすぎていて、何もかもが予定調和で……息苦しいくらいだ」


西野の声が、静かなラウンジに落ち着いて響いた。

「……分かっている。

だからこそ、今ここに“問いかける者”として来た君たちと、より良いエリオスを築き上げていきたいんだ」


6人は言葉を失ったまま、互いの顔を見合わせる。

自分たちがただの“外れ者”ではなく、“問いかける者”として期待されている――その重みが胸にずしりとのしかかる。


その空気を和らげるように、桜井が立ち上がり窓の外を見やった。

「もうすっかり暗くなってしまったね。今日はここまでにしよう。

続きはまた明日だ」


案内されたのは、夜勤の職員が交代で使う宿泊施設だった。

こじんまりとしていたが、白いシーツのかかったベッドは清潔で、温かな照明が安らぎを与えてくれる。


賢人は久々に浴びた熱いシャワーで汗と埃を流し、ベッドに横たわった。

――今日一日で知った膨大な情報が、頭の中をぐるぐると巡る。

地軸が傾いた地球、争いと核の惨禍、AIによる秩序、そして「問いかける者」としての自分たちの存在。


「……まだ、俺たちにできることがあるんじゃないか」


そう思いながらも、重いまぶたは抗えずに閉じていった。

静寂の中、賢人は考え続けるように眠りへと落ちていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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