05 問いの扉の前で
まだ話したりない博士にお礼を言って、建物を後にする6人の背後で、扉が音を立てて閉じた。
誰もすぐには口を開かず、ただ先ほどの数式がまだ耳の奥に残響しているような気がした。
賢人がぽつりと呟く。
「……すごいことは分かった。でも、正直……分かんないことばっかりだな」
聡太も苦笑いで肩をすくめる。
「俺なんか、あの数式見ただけで頭痛くなったわ。けどさ――」
彼は少し言葉を探すようにしてから続けた。
「これだけの技術力があるなら、もっと……なんていうか、できることって、あったんじゃないのかな。
地球を救うとか、そういうの」
その言葉に、賢人が頷いた。
「うん。俺も思った。悪い意味じゃなくてさ。
ただ、不思議なんだ。なんで“ここ”で止まってるんだろうって」
ティムも険しい顔をしていたが、やがてゆっくり吐き出すように言った。
「……きっと、俺たちの知らない事情があるんだろうな。だけど……気になるな」
桜井はしばらく彼らを見つめ、穏やかに微笑んだ。
「その疑問は自然なことだよ。だが、答えを急ぐ必要はない」
彼は歩を進め、手招きする。
「もし疲れていなければ、このまま次の施設に案内しよう。
そこで見えるものが、君たちの考えを少し変えるかもしれない」
6人は顔を見合わせ、深く頷いた。
胸の奥に芽生えた疑問は消えない。
だが、それを解くための道がまだ先に続いていると感じていた。
ーーーーー
建物を出て小道を進むと、街の中心部よりも落ち着いた雰囲気の一角にたどり着いた。
低層の建物が整然と並び、桜井が指さした先に、石造りのような重厚感を持つ建物があった。
「ここが管理棟だ。私の勤め先でもある」
扉を開けると、柔らかな光に包まれたラウンジのような空間が広がっていた。
木目調の壁、落ち着いたソファ、そしてかすかに流れるクラシック音楽。
殺風景なエリオスの居住区に慣れた6人には、それがひどく贅沢に思えた。
「ようこそ」
そう声をかけてきたのは、白髪交じりの穏やかな男性だった。
背筋はすっと伸び、落ち着いた笑みをたたえている。
「西野です。ここでは管理棟の責任者をしています。
――山を越えてきた勇敢な若者たちだと、桜井から聞いていますよ」
順に握手を交わすと、温かい飲み物が運ばれ、テーブルに置かれた。
湯気とともに広がる香りに、長旅の疲労がじわりとほぐれていく。
「この棟は、いわば“この街の心臓部”なんです」
西野は一呼吸置いてから言葉を選ぶように続けた。
「物資や人員の配置、住人たちの健康状態の把握、教育や娯楽に関する調整……そうした日々の営みを支える仕組みが、すべてここに集約されている。
大人たちはそれぞれ役割を持ち、子どもたちも学びの場や活動の場で育てられている。
ここに暮らす約500人は、ただ生き延びているのではない。人として“暮らす”ことを大切にしているんです」
言葉の端々から、この施設が単なる管理だけでなく“共同体の拠点”であることが伝わってきた。
だが――。
(心臓部……なら、この場所は一体、どこまでを掌握しているんだ?)
賢人の胸に新たな疑問が芽生える。聡太も同じことを考えたのか、眉を寄せて西野を見つめていた。
西野は二人の視線を感じ取ったのか、にっこりと笑った。
「核心については……そうだね。
いずれ話すつもりではいたが、せっかく君たちがここまで来たんだ。
聞きたいことが山ほどあるんだろう?」
西野は椅子に深く腰を下ろし、両手を膝に組んで6人を見渡した。
「長くなるかもしれないが、なんでも聞いてくれて構わない。
私に答えられる範囲で、できるだけ説明しよう」
その穏やかな声に、6人の胸の奥に押し込められていた疑問が、一気に頭をもたげてくる。
「なぜここにこんな施設が?」
「どうして僕たちは隠されていたのか?」
「この場所とエリオスのつながりは?」
抑えていた言葉が次々と喉元まで込み上げてくるのを感じながら、6人は互いに顔を見合わせた。
彼らの長い旅路は、ようやく「真実の扉」の前に立ったのだ――。
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