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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第4章 隠された大陸、語られた真実

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04 理論の彼方に見えた答え

「もし疲れていなかったら……そこら辺を少し案内しようか」

桜井の提案に、6人は頷いた。険しい山越えの後にも関わらず、温かい食事のおかげか不思議と足は軽く感じられる。


建物を出て通りに出ると、どこか懐かしい匂いに包まれた。

道の脇には草花が植えられ、季節を告げるように風に揺れている。

家々からは煮込み料理の香りが漂い、子どもたちの笑い声がどこからともなく響いていた。

エリオスの整然とした無機質な居住区とは違い、そこには確かに「生活」が息づいていた。


「……ここ、本当にエリオスと同じ世界なのか?」

聡太が小声で漏らすと、賢人も深く頷いた。


やがて、通りの角を曲がったところで、賢人がふと桜井に尋ねた。

「桜井さん、今って……何年なんですか?」


桜井は歩みを止め、振り返って静かに答えた。

「――2114年だよ。衝突から、もう88年が経っている」


その言葉に、6人は言葉を失った。自分たちが知っている時代の感覚が遠のき、足元の石畳までぐらりと揺れたように思えた。


だが、道ゆく人々はそんな彼らの戸惑いを和らげるように声をかけてきた。

「よく来たな!」

「山越えは大変だったろう」

「ここまで辿り着けたなら、もう仲間だ」


誰もが笑顔で、まるで昔からの知り合いに接するような温かさだった。

見知らぬ土地でありながら、どこか懐かしい――そんな不思議な安心感が、6人の胸に広がっていった。


賢人はしばらく黙っていたが、ついに我慢できずに桜井へ問いかけた。

「……2114年って、どういうことなんですか? 俺たちがいたのは2026年だったはずだ。

ってことは……時間移動ができるってことですか? どうやって……?」


唐突な問いに、聡太や他の仲間も一斉に桜井の顔を見つめた。

やっぱり、そこが一番気になる。


桜井は歩みを止め、ふっと目を細めた。

「――正直に言うと、それは僕の専門じゃないんだ。

君たちの疑問も当然だと思う。だが、ここにいる誰もが答えられるわけじゃない」


賢人は食い下がるように一歩踏み出した。

「でも、88年の差って……ただの“移住”じゃ説明できないですよね」


桜井は静かに頷き、そして微笑んだ。

「残念ながら、僕が知っているのは結果だけだ。

どうしてそうなったのか、正確に説明できる人間は別にいる。

――この先にある施設へ行こう。そこで専門家が話してくれるはずだ」


そう言って、桜井は道を指差した。

遠くに、他の建物より一回り大きく、重厚な造りの施設が見えていた。


桜井に導かれ、賢人たちは集落の外れにある大きな建物へ向かった。

周囲の家屋よりも一段と頑丈そうな外観で、窓も少なく、無骨な研究施設を思わせた。


中に入ると、白い壁に囲まれた廊下が続き、機械の低い駆動音が微かに響いていた。

生活感に満ちた集落とは一転、ここは冷たい機能美に支配された空間だった。


「ここが研究棟だ」桜井が説明する。

「僕らの生活を支えている技術の多くは、ここから生まれている」


やがて辿り着いた扉の前で、桜井は軽くノックした。

「博士、来客だ」


中から「どうぞ」という硬い声が返る。


扉が開くと、そこには白衣を着た若い男性が立っていた。

背筋は伸び、眼鏡の奥から冷静な視線が注がれる。

机の上には山積みの資料と、解析中らしいホログラムパネル。


「彼がこの施設の責任者、スティーブ博士だ」桜井が紹介した。


博士は一人ひとりの顔を、落ち着きなく順番に見ては、すぐに視線を逸らす。

指先で何度もメガネの位置を直し、時折ホログラムの数値に目をやっては小さく頷いたり、眉をしかめたりしている。

「――君たちが……その、山を……越えて……来た若者か?」

途中で言葉が詰まり、メガネの位置を直す仕草を繰り返す。


「……まずは、座るといい。話すことは……多いから」


声の調子は淡々としているのに、どこか所在なさげだ。

まるで人と向き合うのが苦手で、数字や理論の中に逃げ込みたい気持ちが透けて見える。


賢人は緊張で喉を鳴らした。

やっと辿り着いた答えに近づく場所――だが、その入口に立っていたのは「研究に没頭しすぎて、他人との会話がぎこちない科学オタク」そのものだった。

決して悪意はない。

だが今も視線の端で数式のグラフが更新されるのを確認して、無意識にペンを動かしている。


桜井は、6人の戸惑った顔を一人ひとり確かめてから、隣に立つスティーブへと目をやった。

「博士、できるだけ簡単にでいい。彼らにもわかるように、時間移動の仕組みを説明してやってくれないか」


「……簡単に、ね」

スティーブは落ち着きなく眼鏡を押し上げると、壁際のホワイトボードに向かった。

手に取ったマーカーをカチリと鳴らし、深呼吸一つ。


「――時間移動の核心は、宇宙空間に存在していた“ごく小さなワームホール”だ」

そう言うと、スティーブは素早く円と矢印を描いた。


「通常なら、こんな微小なワームホールは一瞬で潰れてしまう。

だが、我々は“反物質”を使った。

反物質は負のエネルギーを持っている。これを注入することで、ワームホールを“押し広げ”、かつ安定させることができたんだ」


彼の筆は止まらない。数式と記号が次々とホワイトボードを埋めていく。

「つまり――入口と出口を固定できるようになった。

これが“時間の通路”になる。反物質の量産と保存、その技術こそが最大の要だったんだ。

極低温での封じ込め、真空制御、磁場安定……これがなければ、ここに君たちは存在しない」


スティーブの声は次第に熱を帯び、完全に独り言に近づいていった。

「ほら、この補正項を見てくれ、臨界値を超えると――」


賢人は眉間に皺を寄せ、聡太に小声で囁いた。

「……なあ、分かる?」

「無理。もう公式が呪文にしか見えない」


聡太も同じように目を丸くして肩をすくめる。

ほかの仲間も視線を交わしながら、「置いていかれた感」に苦笑するしかなかった。


一方でスティーブはそんな彼らに気づかず、ホワイトボードの数式を眺めて「……美しい」とつぶやき、ひとりうっとりと頷いていた。


スティーブのホワイトボードは、すでに黒板のように数式と図で埋め尽くされていた。

「――つまり、この補正項をこう適用すれば、ワームホールは理論的に安定し続け……」

まだ説明が続いていたが、6人の頭にはもう一滴も入らなかった。


桜井は苦笑し、スティーブの肩にそっと手を置いた。

「博士、そのくらいにしておこう。ありがとう」


そして、賢人たちの方を向き直り、ゆっくりと言葉を選んだ。

「要するに――宇宙にあったごく小さな“穴”、ワームホールを見つけた。

普通なら高重力のためにすぐ潰れてしまうものを、反物質のエネルギーで広げて、安定させた。

だからこそ“時間の壁”を超えて移動できた。……博士、これで間違ってないかい?」


「まぁ……補足すると……」

と話し出そうとするスティーブを、桜井が手で制する


「……それなら、なんとか分かる」

聡太が胸を撫でおろすと、他の仲間たちも頷き合った。


スティーブは背を向けたまま、ホワイトボードの数式を名残惜しそうに見つめていた。

「……この美しさを共有できないのは残念だ」


そのつぶやきに、部屋の空気が少し和んだ。

賢人は仲間の顔を見回しながら、胸の奥で「ここまで来てようやく本当の答えに触れ始めている」と実感していた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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