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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第3章 空からの告発

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07 境界の外で出会ったもの

まだ夜の冷気が残る早朝、テントの外ではティムが静かに声をかけて回っていた。

「起きろ。日の出とともに動くぞ」


テントの布をめくると、東の空が淡く白みはじめている。

息を吐くと白くなり、山の空気は鋭く冷たい。

昨夜の疲れは取りきれていないが、体の芯が目覚めていく感覚があった。


簡単な朝食を胃に押し込み、荷を背負い直す。

「ここから先は、昨日より傾斜がきつくなる」

ジャックは全員を見回しながらロープを手に取った。

「安全のため、6人で一組になってロープで繋ぐ。

落石や滑落の危険がある場所は、一人のミスが全員を危険に晒す。

声を掛け合って進もう」


カラビナを腰のハーネスに固定し、ロープを結び合う。

「緊張してきたな……」と賢人が呟くと、前を行く聡太が笑う。

「お前の手が震えてたら、ロープで全部伝わるからな。しっかり握っとけよ」


やがて、岩がむき出しになった急斜面に差し掛かる。

足場は狭く、踏み外せば真っ直ぐ下まで落ちそうだ。

ジャックが先頭でピッケルを突き立て、確実に足場を確保していく。

「はい、次! 右足、そこ!」

後ろの仲間に位置を伝え、全員が慎重に動く。


途中、頭上から小石が転がり落ちてきて、カン、と金属音を立ててカラビナに当たった。

「落石!」

短い警告の声に全員が身を縮める。数秒後、静けさが戻る。

「大丈夫か?」

「……無事」

一人ひとりの声を確認し、再び進み始める。


日が昇るにつれ、山脈の全貌が目前に迫る。

切り立った崖と氷のような岩肌が、朝日に照らされて輝いていた。

それでも、誰一人として足を止めようとはしなかった。


岩場の急斜面に足をかけた瞬間、ゴロリと拳大の石が転がり落ち、後方の賢人が反射的に身を引いた。

乾いた音を立てて、石は斜面の下へ消えていく。


「気をつけろ、ここからは落石が一番怖い」ジャックがロープのテンションを確かめながら声を張った。

6人は1本のクライミングロープで繋がれ、互いの安全を確保しながら一歩一歩進んでいく。


賢人は額から流れる汗をぬぐい、必死に足場を探す。

聡太はロープをたぐりながら、前の仲間との距離を一定に保とうと集中していた。

垂直に近い壁を登るたび、腕に溜まった乳酸が焼けつくように痛む。

それでも視線を上げれば、目指す尾根が少しずつ近づいてきていた。


途中、足場の崩れや、風にあおられる瞬間もあった。

息が上がり、心臓が耳の奥で脈打つのを感じながらも、誰ひとり諦めることはなかった。


そして、最後の岩稜を越えた瞬間、視界が一気に開けた。

背後には放射状に整然と並ぶ居住ブロックが、まるで人工の模様のように広がっていた。

白く輝く道路網が規則正しく交差し、中心部の高層区画は朝日を受けて鈍く光っている。

その外周を縁取るように広がるのは、荒涼とした隔離地帯――そしてその向こう、海岸線が細い銀色の帯となって地平線に消えていく。


「……こんなふうに見えるんだな」

タイラーが小さくつぶやいた。

その眺めは、美しくも閉ざされた“檻”の全貌を、はっきりと彼らの目に焼きつけた。


そして、前方には足元からなだらかに下る尾根の先に、浅い谷が広がり、その向こうに褐色の丘陵が幾重にも連なっている。

谷と尾根の起伏はあるものの、険しい岩壁はなく、麓までの全景が一望できた。


そして――谷の奥、荒れ地の中に、人工的な形をした構造物が確かに見えた。

四角く整った輪郭と、周囲に延びる直線的な影。

それは、写真で確認したものと寸分違わぬ位置と形をしていた。

まるでそこが目的地であると告げるかのように、陽光を受けて鈍く光っていた。


仲間たちは息を呑み、その方向を見つめ続けた。

ここからなら、あの建造物までの距離も、地形も、はっきりと読み取れる。

次の一歩が、確かに“境界の外”へ踏み出すものだと、誰もが理解していた。


——-


彼らは一息ついてから、慎重に下山を開始した。

山頂から続く尾根は、登りほどの急峻さはないが、それでも大小の岩や崩れやすい砂利が足元を不安定にする。

ジャックが先頭で進路を選び、後続に声をかけながら安全な足場を確認していく。


途中、小さな谷を横切る場所では、念のためロープを使って一人ずつ渡った。

谷底にはわずかに水が流れ、岩肌には風と砂に削られた痕が刻まれている。

風はやや強まっていたが、陽は高く、視界は良好。


やがて斜面を抜け、低木と砂礫が混じる緩やかな地形へと出る。

そこからは、例の建造物がほぼ正面に見える位置だった。

距離はまだあるが、もはや遮るものは少ない。


足を進めるごとに、その人工物の輪郭が鮮明になっていく――

その瞬間、人工物の方から近づく小さな影が現れた。

ティムが目を細めて呟く

「人にしては小さいか」

「すげえスピードで近づいてないか」テイラーが言う

その正体を知るために、6人が目を凝らす


「犬じゃねぇか」


テイラーがそう言ったのも束の間、犬の影はあっという間に距離を詰め、乾いた地面を蹴り上げながらこちらへ突進してきた。

「来るぞ!」

ティムが短く叫び、全員がピッケルやカラビナ付きロープを構える。

しかし次第に、その犬が牙を剥くどころか尻尾をぶんぶんと振っていることに気づいた。

舌を出し、全身を使って嬉しそうに駆け寄ってくる様子は、危険とは程遠い。


「……なんだよ、こいつ」

聡太が力を抜き、武器を下ろす。

犬は彼らの足元を回り、砂ぼこりだらけの鼻先を押し付けてきた。

荒涼としたこの外の世界で、人に懐いた犬が走ってくる――その異様さに、誰もが言葉を失う。


「……どういうことだ?」

賢人の呟きは、全員の胸の内を代弁していた。

建造物へと続く道筋の手前で、彼らはただ困惑し、互いの顔を見合わせた。

これが偶然なのか、それとも何かの兆しなのか――答えはまだ見えない。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回で3章が完結となります。続く4章も同時間で連載していきますので、引き続きご愛顧ください。

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