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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第3章 空からの告発

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05 遠征準備

Room-Zでの決定から二日後。

メンバーはそれぞれ、与えられた日常を装いながら、“その外”へ踏み出すための準備を水面下で進めていた。


〈Helios_Scan〉本名ティムは遠征リーダーとして全体の進行を管理。

標高3000m級の山越えを想定し、必要な装備と食料のリストをまとめる。

彼がまず着手したのは地図作成だった。

気球で得た写真を元に、山脈の位置や予想ルートを詳細にプロット。

AIの監視下で堂々と地図を持ち歩くのは危険なので、複数枚の“別々の絵”として分割し、組み合わせればルートが完成するという仕掛けを施した。


山岳ガイド経験がある〈CliffEdge〉本名ジャックは登山とロープワークの担当。

移住前は軍に所属していたと言うだけあって、屈強な体躯が頼もしい。

AI管理下の商業区にあるアウトドアショップで、「日常訓練用です」と言いながらクライミングロープやカラビナを手に取った。

指にかかる重さに、思わず眉を上げる。


地球で使っていた同等品の半分ほどの重量しかない。

それでいて、繊維の編み込みは緻密で、手触りはしなやかだった。

カラビナも同じく、驚くほど軽く、表面はまるで鏡のように滑らかで、手のひらに吸い付く感触がある。

「……これなら、数百メートルのロープだって担いで歩けるな」

思わず独りごちる。


性能や素材の詳細はAIも説明できず、「安全規格は保証されています」とマニュアル通りの返答しか返ってこない。

だが、この軽さと強度――明らかに地球の技術では到達できない域にあることだけは、握った瞬間にわかった。


〈SkyTracker〉本名アランは通信・位置把握担当。

AIの監視をかいくぐるため、合法のトラッキングデバイスと非合法に改造したビーコンを二重で用意。

万が一遭難しても、残ったメンバーに現在地を知らせられるよう工夫する。


〈WindVoyager〉タイラーは食料と燃料の手配役。

乾燥野菜や保存パン、トレッキング用の固形燃料を少しずつ集め、倉庫の奥に隠す。

あくまで「趣味のキャンプ用品」として入手するため、複数の店舗を回って怪しまれないようにした。


賢人と聡太は記録係。

動画撮影用の小型カメラと予備バッテリーを用意し、レンズを保護するための耐水ケースも自作する。

「これが帰れなかったときの唯一の証拠になるかもしれない」と、聡太は冗談めかして言ったが、その瞳は笑っていなかった。


拓実は予備役。

装備は整えるが、今回は居住区に残って待機することになった。

外に出られないメンバーのため、通信支援とバックアップを担う役目だ。


「外で動ける奴だけじゃなく、中でサポートする奴がいなきゃ全滅するからな」

そう言ってはいたが、本当は僕も行く、と最後まで食い下がっていた。


だが、彼はまだ小学六年生。親の同意も取れないまま連れ出すわけにはいかない。

説得の末、「お前が居てくれなきゃ、向こうで何かあっても連絡が途絶える」と、待機メンバーとしての重要な役割を担ってもらうことで納得させた。

その顔には悔しさが滲んでいたが、最後には黙って頷いた。


ーーーーー


装備の搬出は一度に行うと目立つため、それぞれが自宅に担当の備品を少しずつ集めていった。

クライミングロープ、軽量テント、浄水フィルター、非常食――。

どれも日常用途を装って購入し、鞄や収納箱の奥に隠しておく。


出発数日前の夜、メンバーは人気のない郊外の芝地――気球実験で使ったあの場所――に再び集まった。

闇の中、互いに持ち寄った装備をひとつずつ地面に並べ、声を潜めて確認し合う。

ランタンの淡い光の下、小型テントの中で物資は慎重に仕分けられ、次第に“山越え遠征”の形を整えていった。


荷造りが終わり、ひと息ついたのは深夜近くだった。

芝地の上には、遠征に必要な装備が整然と積まれている。

ランタンの光に照らされたそれらは、どれもエリオス製らしく驚くほど軽く、無駄のない形をしていた。

触れるたびに、地球で使っていた同類の品との技術差を思い知らされる。


その場で、ジャックが立ち上がった。

「いいか、登山は“景色を楽しむ散歩”じゃない。

落石、滑落、垂直に近い崖を登ることだってある。

誰か一人でも動けなくなれば、全員が危険に晒される。

だから、必ず助け合うんだ」


彼の声は低く、しかし全員の胸に響いた。


「ロープの結び方、カラビナの扱い、足場の確認……今ここで覚えたことは、山の上じゃ命綱になる」

誰も冗談を挟まず、真剣に耳を傾けていた。


賢人と聡太は、この数日、ほとんどの時間を走り込みや腕立て、腹筋に費やしてきた。

それでも、本格的な登山など二人とも経験がない。

重い荷を背負い、標高3000メートル超えの山脈を越える――その現実を考えると、不安が喉の奥に張り付く。


「……正直、怖いよな」

聡太がつぶやくと、賢人は短く笑った。

「まあな。でもさ、行かなきゃ見えないもんがあるだろ」


山の向こうに何があるのか、この目で確かめたい――それだけが、二人を前に進ませていた。


それから出発までの二日間、賢人と聡太は割り振られた備品の使い方を徹底的に覚え込んだ。

ジャックの指導で、ロープの結び方や確保の仕方を何度も繰り返し、手が自然に動くまで練習する。

支給されたリュックに荷物を詰め、芝地や周辺の坂道を何度も往復して脚を鍛えた。

背中にずっしりと食い込む荷の重みは、山越えの現実を無言で突きつけてくる。


「おい、結び目が甘いぞ。解けたら命落とすからな」

ジャックの厳しい声に

「……わかってる」

賢人と聡太は何度失敗しても、指先が覚えるまで繰り返す。


夜は部屋に戻って地図を眺め、想定ルートを頭に叩き込む。

焦りや不安が消えることはなかったが、それ以上に、胸の奥には小さな炎のような決意が灯っていた。


そして――いよいよ明日の早朝、出発の時を迎える。

部屋の窓から見上げた夜空に、星々は静かに瞬いていた。

その光が、遠征隊の行く先を照らしてくれるような気がした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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