04 見え始めた輪郭
添付されていた写真は全部で24枚。
曇り空を突き抜け、上空からエリオスの全貌を捉えたその画像の数々に、Room-Zのメンバーは興奮を隠せなかった。
だが、その中でも特に注目を集めたのは、2枚の写真だった。
1枚目――それは比較的低高度から撮影されたものだった。
放射状に広がる居住エリアの外側。
そこには人工的な区画とは明らかに異なる、荒涼とした大地が広がっていた。
無人の乾いた土壌。
その先には、山肌をむき出しに連なる山脈が、まるでこの土地を守るように横たわっていた。
そして、山脈の向こう――その境界線の先に、小さくいくつかの建物らしき影が写っていた。
ユーザー名「Helios_Scan」が添えたコメントには、こう書かれていた。
「自然地形に見えるが、あの建物だけは浮いて見える。
しかも居住区からは見えない場所だ。
監視施設かもしれない」
2枚目――こちらは、さらに高高度からの撮影だった。
おそらく、大気圏付近で撮られたのだろう。
写真には、居住区の輪郭がくっきりと浮かび上がっている。
中央に整然と広がる円形の都市、その外周は放射状の道路や区画で縁取られ、そのさらに外側には荒涼とした土色の大地が広がっていた。
建物も植生もほとんど見えず、まるで無人の緩衝地帯のようだ。
そして、その荒地の先は急に切れ落ち、濃い青色の海が広がっている。
つまり――この居住のある土地は、広い海の中に浮かぶ“島”の上に築かれていた。
さらに視線を写真の右上へ移すと、この島には長く突き出た半島があるのがわかる。
そして、その半島の海の向こうには、先端部分だけだが別の大陸が写っていた。
その大陸の形や鋭く突き出した長い半島、その根元に広がる陸地――それは、賢人がかつて地球儀や地図で何度も目にしてきた、南極大陸の“南極半島”そのものだった。
彼の背筋を、ぞくりと冷たいものが走った。
「……これ、完全に南極半島だ。
で、こっちが……南米大陸の先端……」
部屋のモニターに表示された写真を見つめながら、賢人が静かに言った。
背後で、聡太と拓実が息を飲む。
「エリオス……これ、本当に地球じゃないのか……?」
まるで誰もが、胸の奥に隠していた疑念が、決定的な形を持って浮かび上がってきた瞬間だった。
言葉が出なかった。
誰もが、その“証拠”の前に、思考を止めてしまった。
「でも、それなら……これは、いつの地球なんだ?南極大陸を覆っていた氷はどこに……?」
聡太の小さな声が、静まり返った部屋の空気を震わせた。
次の瞬間、Room-Zのチャットルームが一斉に更新された。
User:DeepScan
「この地形、まさに南極大陸と一致する……南極に氷がなかった時代は過去に何度があった。
一番近い時代で4000万年前と言われている。
それとも、ここは“未来の地球”かもしれない」
User:ArcticEcho
「でも、それならどうして俺たちは“別の星にいる”って信じ込まされてるんだ?
どうしてAIは“地球の終わり”を警告して、ここに連れてきた?」
添付されていた地形の拡大写真を、誰かが画面上で指さした。
そこに映る山脈は、恐らく標高三千メートルを優に超える。
稜線は鋭く、まるで巨大な刃物で断ち切られたかのように切り立った崖が続き、登山ルートなど一切見当たらない。
軽い気持ちで越えられるような代物ではなかった。
「……あれを越えるのは、正直キツいぞ」
沈黙を破ったのは、登山経験のあるユーザー〈CliffEdge〉だった。
「俺も山は何度も登ったが、あの稜線は普通じゃない。
下手すれば戻ってこられなくなる」
すぐに別の声が返る。
「危険なのは分かってる。
でも、見て見ぬふりはできないだろ?
向こうに何かあるかもしれないんだ」〈SkyTracker〉
「何かって何だよ? 答えか? それともまた檻の壁か?」
「行かなきゃ分からない」
言い争いに近い熱がチャットに広がっていく。
慎重派は「準備不足で行けば、ただの無謀だ」と制止し、行動派は「時間をかければAIに察知される」と急かす。
その中で、ぽつりと〈WindVoyager〉が言った。
「……俺、行くよ。後悔はしたくない」
その一言に呼応するように、画面上のいくつかのアイコンが次々と点滅した。
「じゃあ、俺も」
「私も行く」
危険を承知で名乗りを上げる者が増えていく一方、何も言えずに沈黙する者もいた。
やがて〈Helios_Scan〉が低く告げた。
「分かった。行くなら、徹底的に準備する。
これは探検じゃない。生死をかけた“遠征”だ」
その瞬間、Room-Zの空気は、単なる好奇心から、生きるか死ぬかの覚悟へと変わっていった。
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