表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第2章 生き抜く者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/61

04 空の色が変わる朝

衝突から一週間。

雨は相変わらず村を叩き続けていたが、昨夜あたりからわずかに弱まり、今朝は空の色が少しだけ明るく見えた。


「……これ、晴れ間が来るかもしれないな」

石田がポツリと呟くと、皆が無言で空を見上げた。

鉛色の雲の切れ間に、ほんのり光が滲んでいるような気がした。


しかし、村人たちの体力は限界に近づいていた。

咳をする者が増え、顔色も青白い者が多い。


「子どもたちはどうだ?」

西野医師が額を当てて熱を測り、

「今のところ発熱はないけど、これ以上は危ないな……」と眉をひそめた。


篤志も疲れが溜まり、朝の家畜の世話を終えると、しばらく腰を下ろして動けなくなることが増えていた。


「おーい篤志、卵、割れないように頼むぞ」

悠馬の声に、


「わかってるって……」

と返事をしつつも、動きは鈍い。


その時、空にキラッと光るものが見えた気がした。


「……何だ?」

篤志は顔を上げ、雨雲を透かすように空を見た。

薄暗い空の一角に、銀色に光る小さな物体が浮かんでいる。


「エリオスの偵察機だ!」

雅彦が叫んだ。


それは、数ヶ月前に地球に突如現れて、街中を飛んでいた小型の球体型ドローンに似ていたが、今はもっと鋭い形状をしている。

音もなく滑るように低空を旋回し、村の上空で静止すると、青白い光線が地面に伸びていった。


「……まるでスキャンしてるみたいだな」

西野医師が眉をひそめた。


村人たちは手を止め、無言でその光景を見上げていた。

畑の荒れ具合や家の損傷状況、村人たちの人数を確認するかのように、偵察機はゆっくりと村の上空を巡回する。

やがて「フッ」と音を立てることもなく上昇し、雲の中へと消えていった。


「見られてたな……」

石田が唸るように呟いた。


「敵意があるわけじゃないだろうけど、なんか気持ち悪いわ」

陽子も肩をすくめる。


―――――


昼時、汁物と干し芋を口にしながら休憩を取っていると


「……ん? なんか、音がしないか?」

石田が耳を澄ませる。遠くから、低く唸るような重い音が近づいてくる。


「これ、ヘリの音じゃねえか……?」

雅彦が顔を上げ、空を探した。

曇り空を切り裂くように、黒い影が現れる。


「ヘリコプターだ!」

村人たちが一斉に声を上げた。


ヘリはゆっくりと高度を下げ、かつて村の老人たちがゲートボールを楽しんでいた広場に着陸した。

巻き上がる風と雨粒に、子どもたちは目を丸くし、帽子を押さえて見守る。


「自衛隊だ……!」

ドアが開き、迷彩服を着た隊員たちが次々と降り立った。


「皆さん遅くなって申し訳ありません。怪我や体調不良はありませんか!」

「支援物資をお届けに来ました!」

その言葉を聞いた瞬間、陽子の目に涙が溜まった。


「……人が……助けに来てくれた……」

これまで村以外の人間と会うことのなかった数ヶ月におよぶ孤立が、ふっと緩んだ。


―――――


米や缶詰、乾パン、医薬品。

隊員たちは、ヘリから降ろした物資を手際よく村人に手渡していく。


「これは消毒液とガーゼです。体調を崩している方はいませんか?」

西野医師が前に出て、村人の健康状態を簡単に報告した。


「子どもたちは多少疲労していますが、怪我や病気はありません」

「それはよかった。引き続き、こちらから物資を定期的にお届けします」

隊員はそう告げて、村人たちを一人ひとり優しく見回した。


「すげー……本物の自衛隊だ!」

篤志は興奮した声で春馬にささやく。


「兄ちゃんたち、かっけーな……」

春馬の目は憧れの輝きを宿していた。

その温かさに、張り詰めていた気持ちが一気にほどけていく。


「あの……エリオスの偵察機、ですよね? 今朝、上空に来てたの」

陽子が恐る恐る尋ねると、隊員は頷いた。


「はい。エリオスの協力を得ています。

被災状況や人数、ヘリの着陸可否なんかも、向こうが事前にスキャンして報告してくれるおかげで、こうしてピンポイントで動けてます」

「向こうの技術って……そんなにすごいんですね」

「ええ、正直、助かってます。

特に山間部みたいな場所だと、地上からだと情報が少ないので……でも、エリオスの支援でずいぶん補えています」


「全国の状況って……どうなってるんですか」

雅彦が前に出て尋ねた。


「日本全土では……やはり、平地、それも太平洋側が壊滅的な被害を受けました」

隊員は言葉を選びながら、静かに続けた。


「特に関東から東海にかけては津波による被害が甚大で、都市機能はほぼ失われています。

一方、日本海側の被害は、予想よりも抑えられました」

「じゃあ……北陸とか、山陰とかは……」

「はい、インフラ機能がまだ維持されている地域も多くあります」


「復興は……どうなんですか」

石田が問うと、隊員は小さく息を吐いた。


「今は、復興というより支援に全力を注いでいます。

ただ、通信・交通網・インフラの再整備は、すでに国の方針として動き始めています。

順次、各地の孤立地域との接続も再開していく予定です」


「それで……その、人的な被害は……?」

西野が、目を伏せながら尋ねた。


「衝突前に全国で避難が完了していたおかげで、衝突そのものによる死者は、ほぼゼロでした」

「……ほぼ?」

「ですが、その後の大雨で大規模な土砂災害が発生して、二次被害が出ています。

現時点で数百人が行方不明、確認されている死者もいます」

一瞬、場に重たい沈黙が落ちた。


「……世界の方は?」

陽子の声はかすれていた。


「世界的な被害は、甚大です」

隊員の表情がさらに引き締まる。


「特にアジアの沿岸部、オセアニア、アメリカ西海岸……。

被害規模は、私たちの想像をはるかに超えています。

津波が都市を丸ごと飲み込んだ場所もあります。

今は、国際的な支援体制の立ち上げと、被災者の救出が急がれています」


「……俺たち、運が良かったんだな」

石田が低く呟いた。


「ええ、皆さんがこうして無事でいてくれたことが、本当に奇跡に近い。

だから、どうか……これからも、力を合わせてください」

そう言って、自衛隊員は深々と頭を下げた。


―――――


「また来ます。みんな、体を大事にしてください」

隊員たちはそう言い残し、再びヘリに乗り込んだ。

プロペラが回転し、その風の中で、村人たちは自然と手を振っていた。


「……なんか、安心したな」

雅彦がしみじみと呟いた。


「ほんと。誰かが見ててくれるってだけで、全然違うんだね」

陽子の目は、涙で少し赤くなっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

気に入っていただけましたら、評価&ブックマークをお願いします。

執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ