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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第2章 生き抜く者たち

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03 雨の村に灯る小さな火

衝突から五日目。

それでも雨は弱まることなく、村を覆い尽くしていた。

空は相変わらず鉛色の雲に閉ざされ、昼間だというのに辺りは薄暗い。

川の水は濁流となって唸りをあげ、再び流木が折り重なって水の流れをせき止めていた。


「またかよ……!」

雅彦が悔しそうに歯を食いしばる。


「悠馬、篤志! ロープを回して流木を固定しろ! 抜くぞ!」

石田の指示が飛ぶ。


「ちょっと待って! こっち側の枝がすごい食い込んでる!」

悠馬が叫ぶ。


「下流が溢れたら家がまたやられる! 迷ってる暇はない!」

石田は腰まで濁流に入り込み、流木の隙間に手を突っ込んだ。


「お父さん、危ないよ!」

篤志が叫ぶが、雅彦は首を横に振る。


「誰かがやらなきゃいけないんだ。篤志はそのロープ、絶対離すな!」


冷たい水が腰を打ち、手足はしびれて感覚を失いかけていた。

ふやけた手のひらにロープが食い込む痛みを感じながら、篤志は必死で体を踏ん張った。


「せーのっ! 引けーーっ!」

掛け声と同時に、巨大な枝がごろりと音を立てて外れ、濁流が一気に流れ出した。


「よし! 流れたぞ!」


安堵の声が上がったが、皆の顔は疲れ切っていた。

これが一度きりではなく、日に何度も繰り返されているのだ。


―――――


女性たちは、何とか居住環境を整えようと奔走していた。


「洗濯物が乾かないわ……」

陽子が洗い終えた子どもたちの衣類を手に、ため息をつく。


「干しても干しても、また湿気るね……」

と、隣の大工の妻 美奈子が首を振る。


雨のせいで湿度が高く、布団までも湿って冷たい。

これでは体を休めるどころではなかった。


「火を焚ければいいんだけど、家の中じゃ危ないしね」


「外は雨だし……どうすりゃいいのよ……」

その時、石田がやって来た。


「被害の少なかった納屋を乾燥室にしよう。

修繕すれば火を起こせるぞ。」


「納屋を乾燥室に?」


「そうだ。天井を補強して、床を上げて板を張れば使える。

火の回りを土壁で囲めば安全だ。」


すぐに男性陣が動き、女性たちは洗った衣類や布団を抱えて納屋へと運んだ。

やがて火が焚かれると、じわりと温かい空気が満ち、蒸気がもうもうと立ち上る。


「ここなら……ちゃんと乾くかもね」

陽子はホッと笑顔を見せた。


―――――


「体もこのままじゃ不潔で感染症の心配がある」

西野医師が言うと、陽子たちは鍋で湯を沸かし、温かいお湯でタオルを湿らせて体を拭いた。


「おお、これだけでも全然違うな」


「ほんと、気持ちいいね……」

疲れた顔の女性たちも、少しだけ表情が和らいだ。


さらに、米と味噌で温かい汁物を作ると、湯気の香りが狭い部屋に広がった。


「これで少しは元気が出るわよ」

湯気に包まれた納屋の中で、誰もが束の間の安らぎを感じていた。


「うわ、あったけぇ……」

篤志は、湯気を立てるタオルをそっと腕に当て、思わずため息を漏らした。


「おー、これ天国かよ……」

春馬も同じように、顔や首筋をゴシゴシ拭いている。

雨と泥で冷え切っていた体が、じんわりと温まっていくのがわかる。


「背中も拭けって。ほら、こっち向けよ」

悠馬が春馬の背中をタオルで擦ると、


「いたっ! もうちょい優しくしてくれよ!」


「じゃあ自分でやれよ!」

乾燥室の中には、子供たちの笑い声が久しぶりに響いた。


火のそばで乾かしていた服も、少しずつぬくもりを取り戻している。


「お母さん、これもう乾いてる?」

「うん、着てごらん。あったかいよ」

陽子に促され、篤志は乾いたシャツを着た。


「うわ、ホカホカだ! これだけでなんか生き返る……」


―――――


「さあ、温かいの食べなさい」

陽子が丼を手渡すと、湯気と一緒に味噌の香りが広がった。

米を少し煮て伸ばした雑炊に、刻んだ野菜と卵を落としたものだ。


「……うまっ!」

篤志はひと口すすった瞬間、目を丸くした。


「ほんとだ、あったかい……」

春馬も夢中でかき込む。


「なんだよこれ、ただの雑炊なのにめちゃくちゃ美味い!」

「寒い中で食うからだよ」


悠馬が笑いながら、黙々と箸を進める。


「おかわりある?」

「もう、あんたたちどんだけ食べるの!」


陽子は苦笑しながら、鍋をかき回した。

冷え切った体に温かい食事が染み渡り、子供たちはようやく満たされた顔を見せた。


「明日は……少し晴れてくれるといいな」


篤志は、火のそばでほかほかの布団にくるまりながらつぶやいた。


「晴れたら、川遊びでもしたいよなー」

春馬の無邪気な言葉に、悠馬は小さく笑い、


「遊ぶ前に仕事な。家畜の世話だって待ってるぞ」

と釘を刺した。


それでも、乾燥室に広がる温もりの中、みんなの顔には久しぶりに安堵の笑みが浮かんでいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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