01 揺れる大地、雨の大地
地鳴りが止むことはなかった。
あの衝突の瞬間から、昼も夜も関係なく、地面は不規則に揺れ続けていた。
暴風が断続的に吹き荒れ、防空壕の入り口を叩く音は、まるで外の世界が軋んでいるようだった。
「……また来た」
誰かがつぶやいた直後、壕内の天井がごくわずかに震え、ランタンがカタカタと音を立てた。
恐怖は波のように人々の心をさらっていく。
眠ろうにも、体の奥底まで緊張が張りつき、誰もが目を閉じては開き、開いてはまた閉じるを繰り返していた。
保存食を口に運んでも、味を感じる余裕などない。
固い乾パンや干し芋を噛み砕くたび、口の中の音だけがやけに大きく響く。
「少しでも食べておかないと体がもたない」
――そう言いながら、雅彦は疲れた顔で子どもたちに水を配って回った。
一日半が過ぎたころ、ようやく地鳴りは弱まり、暴風の音も遠ざかっていった。
壕の中には、わずかに安堵の息が漂い始める。
だが、緊張が解けると同時に、これまで張り詰めていた心身の疲労が一気に押し寄せ、皆は泥のように眠り込んだ。
―――――
しかし二日目の夜明けと同時に、今度は別の脅威が襲ってきた。
それは、まるでバケツをひっくり返したような豪雨だった。
「これ……まさか、衝突の影響か?」
土間に置かれた鉄鍋に打ち付ける雨音が、雷鳴のように響く。
「隕石の衝突で、海の水が大量に蒸発して……それが雲になって一気に戻ってきてるんだと思う」
西野医師が低い声で説明する。
みなの頭の中に、燃え上がる海と、空一面を覆う水蒸気の光景が浮かび、ぞっとするほどの静けさが場を支配した。
排水設備は壕の建設時に入念に整えたはずだった。
だが、想定を上回る雨水が勢いよく流れ込み、外に繋がる排水口はごうごうと音を立てている。
「……土砂崩れの危険もあるな」
と、石田大工が眉をひそめた。
―――――
三日目の朝。
雅彦は早くから起き上がり、壕の片隅に置いていたガイガーカウンターを手に取った。
「まずはこれで外の空気を確認しないと……」
衝突の衝撃で、原子力発電所や化学プラントが破壊され、有害な放射線が漏れている可能性がある――それが一番の心配だった。
しばらく慎重に計測を続け、雅彦は息を吐く。
「……大丈夫だ。数値は問題ない。外に出ても平気だ」
その一言で、壕の中は一気にざわめいた。
不安と緊張で張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。
―――――
重い閂が外され壕の扉を開けた瞬間、篤志は思わず息をのんだ。
「……昼なのに、夜みたいだ」
空は濃い灰色の雲で覆われ、激しい雨が地面に打ちつけている。
太陽の輪郭さえ見えない。
世界全体が鉛色の幕に包まれているようで、不気味な雰囲気が漂っていた。
激しい雨の中、外に出た村人たちは目を疑った。
長年暮らしてきた家々が、無残に壊れていたのだ。
屋根が吹き飛び、壁は土砂に押し潰され、柱だけがむき出しになった家もある。
「……俺が補強したはずなのに……」
大工の石田が、拳をぎゅっと握りしめ、言葉を失っていた。
何日もかけて一軒ずつ家を回り、応急の補強をしてきたのだ。
それでも、暴風と豪雨の前にはなすすべがなかった。
「けど……全部じゃないな」
雅彦が指差した先には、辛うじて形を保っている家が数軒あった。
割れたガラスや外れかけの戸が目立つが、人が住める状態を留めているのは救いだった。
「……ここから、また立て直そう」
石田は深く息をつき、雨がしたたる額を拭った。
悔しさと安堵が入り混じる表情を見て、篤志は胸の奥がじんわり熱くなった。
「動物たちは……!」
篤志は、心臓が早鐘を打つのを感じながら、家畜用の貯蔵庫へ駆けた。
「生きててくれ……!」
泥に足を取られながら扉を押し開けると、中から牛とヤギの鳴き声と鶏の羽ばたきが聞こえた。
「……無事だ!」
暗がりの中で、元気に首を振るヤギの姿が見える。
鶏たちも羽毛を膨らませてじっとしていた。
篤志は、思わずその一頭の首を抱きしめた。
「大丈夫だぞ。よく頑張ったな」
その言葉は、動物たちだけでなく、自分自身に言い聞かせるものでもあった。
「おーい、動物は生きてるぞ!」
篤志の声に、村人たちの表情がぱっと明るくなった。
「これで食料の心配は少し減るな……」
と雅彦が小さくつぶやき、陽子もほっと息をついた。
しかし、まだ安心できる状況ではない。
「土砂崩れの危険がないか、見回っておこう」
石田大工が声を張った。
「壕の周りや川沿いを見て、危なそうならすぐ補強だ」
「それと、壊れてない家を使えるように掃除しよう。寝泊まりはそこでまとめた方がいい」
雅彦が続け、村人たちはすぐに動き始めた。
篤志は泥だらけの長靴を見下ろしながら、心の中で小さくつぶやく。
――まだ、ここで生きていける。
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