17. 長野での危機と学び ~迫りくる現実~(前編)
「太陽光、昨日からまともに発電できてないな……」
雅彦が、納屋の壁に設置された発電モニターを見つめながら呟いた。
山間の村。空は分厚い雲に覆われ、晴れ間は数日来、拝めていない。
ラジオから流れる天気予報など、もはやあてにならず、電波状況も不安定。
頼みの綱だったソーラーパネルが、ついに本格的に力不足になり始めた。
「やっぱ、自転車発電か水車だよなあ……」
雅彦は半分冗談、半分本気でつぶやいたが、その視線は真剣だった。
―――――
篤志は、裏山の傾斜に設置された手作りビニールハウスの中で、温度と湿度を測る温度計を見ていた。
「20度、湿度70%……うーん、ギリいける?」
中学受験のために覚えた理科の知識が、今、生きている。
水耕栽培の仕組み、光合成の必要条件、植物の成長温度……。
「日照不足のときは、LEDライトも使えるけど、電力が足りない……」
篤志は、ノートに自分なりの育成プランを書き込んだ。
【プランC】
・ジャガイモは地中に育つ→光不足でもある程度可能
・カイワレは5日程度で収穫可能→省スペース、低照度でも可
・ニンニク→防虫作用もあるので、畑の防衛役に
「ねえ篤志〜、ヤギが餌探してるんだけど〜!」
庭のほうから、従兄弟の春馬の声が響いてきた。
「今行くー!」
ちょうど、田中のじいちゃんに草むしりを頼まれていた場所があったのを思い出し、そちらへ向かう。
春馬と一緒に、五匹のヤギを引いて歩く。
いつの間にか、ヤギの扱いにもずいぶん慣れてきた。
「もうすぐ、美味しいご飯が食べられるぞ」
そう声をかけながら歩いていると、ふと横に目をやる。
村の畑では、住人たちが総出で作業に取り組んでいた。
子どもたちは雑草取りや家畜の水やり、大人たちは土壌改良やビニール張りなど、各々の得意分野で分担ができ始めていた。
頑固だが面倒見のいい田代のお爺さんが、子どもたちを指導していた。
「おーい、そこの豆は根っこ傷つけるなって何回言えば……!」
「ごめんなさーい!」
怒鳴りつつも、最後には飴玉をくれるような人で、篤志は密かに懐いていた。
―――――
夕方、村の集会所。
政府の発表した「衝突被害の最新シミュレーション」の内容が、ラジオ経由で村にも届いた。
・衝突点は変わらず南太平洋のまま
・衝撃により、地球全体に数百メートル級の津波が発生
・落下直後に水蒸気が大気圏に到達し、地球規模の気温低下と日照不足が数ヶ月~数年続く可能性
・原発は安全停止が完了しているものの、汚染物質の流出は避けられない。
・甚大なインフラ被害は避けられず、都市部は壊滅的な打撃
「これは……もう、元の世界には戻らないという前提で生きろってことだな」
雅彦の言葉に、集まった村人たちも沈黙した。
だが、黙っていても、明日は来る。
「生き残るしかねえんだよ」
田代が、重い声で言った。
「そのために、ここに残ったんだろ」
―――――
その晩。
篤志は、畑でとれたサツマイモを蒸かして、春馬と分け合った。
「……なんか、これからどうなっちゃうんだろう」
春馬がぽつりと不安を漏らした。
「この村は大丈夫。じいちゃんたち見てみろよ。
あれ、何があっても生き残るよ。
でも俺、理科好きでよかったかも。役に立ててる感じ、する」
篤志は口に含んだ芋の甘さを味わいながら、どこか誇らしげだった。
春馬は、そんな彼を見て、小さく頷いた。
「じゃあ、俺は動物係で頑張るわ。牛とヤギと鶏、担当する!」
ふたりは、蒸気の立ち上る鍋を囲みながら、未来を語っていた。
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