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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第1章 分かたれた選択

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18. 長野での危機と学び ~迫りくる現実~(後編)

「これが……完成型か」


雅彦は、裏山の小川に設置した簡易水車の回転を見つめていた。


金属パイプと古い自転車の車輪を組み合わせ、発電用のシャフトと直結。

出力は微々たるものだが、USBライト程度なら十分に点灯できた。


「これなら、LED照明の電源にはなるな……あとは蓄電か」


試行錯誤の成果だった。

村には機械系エンジニアの雅彦、電気系エンジニアの小山内(おさない)がおり、忙しい大工の石田も加わって、廃材を再利用したDIY発電プロジェクトが静かに広がり始めていた。


「蓄電は私に考えがあります。

あとは、この水車をいくつか組み合わせれば、太陽光に頼らなくても、非常用電力ぐらいは賄えるんじゃないでしょうか」


額に汗しながらも、ポロシャツを第一ボタンまでとめる律儀な小山内が進言する。


―――――


一方、篤志は村の空き家の縁側に並べられたプランターを見ながら、考え込んでいた。


「光が少ない環境でも育つ野菜……日陰に強くて、成長が早い……」


塾の教材で覚えた知識を頭から引っ張り出す。


「……モヤシとかカイワレって、どうだったっけ」


彼は祖母に頼んで、台所から古いザルと豆をもらった。

暗所で発芽する豆類――わずかな水と温度があれば、3日ほどで成長する。


「うまくいけば、室内栽培もいけるかも……!」


彼のノートには、既にいくつもの“作戦名”が書かれていた。

•【作戦A】モヤシ畑を育てろ

•【作戦B】ジャガイモ戦線拡大

•【作戦C】ヤギの餌サイクル確立


遊び心混じりの名前に、春馬やほかの子どもたちも協力を申し出てくれた。


「リーダー! モヤシ水替え完了!」


「オッケー、発芽まで観察な!」


“リーダー”――

村の子どもたちの間で、篤志は自然とそのように呼ばれるようになっていた。


―――――


夕方、村の仮設集会所に全住民が集められた。

ラジオ放送によって、政府からの緊急通達が流れるというのだ。


ピー……という電子音に続いて、落ち着いた男性の声が響く。


『本日は、各避難地域における安全レベルの最終通知を行います。

今回の被害シミュレーションに基づき、津波の到達予想標高は最大で520メートルと推定されます。

一部の避難所は、標高不足により再避難を勧告中です。』


住人たちがざわめいた。雅彦はすぐに手持ちの地図を広げる。


「……ここは海抜720メートル。地形的にも入り組んでるから、直接の津波は来ないはずだ。」


安心と不安が交差する中、ラジオは続けた。


『政府機関は富士山五合目へ完全移転を完了。

今後の広報はラジオ通信を基本とし、地上波放送は順次終了いたします。』


「つまり、あとは自分たちでやれってことか……」


田代の低い声が集会所に響いた。


―――――


その夜。


家の外に出た篤志は、満天の星空を見上げた。


雲が一時的に晴れ、今にも降ってきそうなほど、星が煌めいていた。


「……こんな綺麗な星空が見られるのもあと少しか……。」


隣にいた雅彦が言った。


「もしかしたら、あのどれかが……エリオスかもしれないよね。

てことは、拓実も向こうからコッチを見てるかもね。」


遠く離れていても、空はつながっている。

篤志は、いつも世話をしているヤギの乳を飲みながら、静かに思った。


この村には、まだ“夜”がある。

だからこそ、明日へ向かって準備を進めなければならない。

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