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37.ロドルフ 婚約を発表する

 私が目を覚ました日の夜、屋敷に残っていた使用人たちが玄関前の広間に集められた。すでに歩ける状態だったので、私もそこに向かった。


 すでに使用人が10人ほど集まっており、もちろんペトロッシさんの姿もその中にある。執事なのだけれど今回はこちら側にいるのね。

 こうして使用人が集められるときはロドルフ様が扉の前に立って話をなさることが多いが、まだ彼の姿はない。ただブラン君は、やや複雑そうな面持ちで扉近くに姿を現していた。


「ブラン君、お昼はお見舞いありがとう。この集まりは何が始まるんですの?」

「うーん、もうすぐ話があるだろうから、そこでわかると思うよ。僕よりも直接聞いた方がいいだろうから……」


 しばらく待っていると、意外な取り合わせの3人が現れて扉の前に立った。ロドルフ様、ゴールディさん、そしてリナリアだ。


 男性2人はドラゴン討伐に成功したことを王都に伝えに行っていたと聞いたが、どうやらそれを終えて帰ってきていたようだ。ニクラスさんと会ったのかしら。

 リナリアの方は討伐の立役者ではあるけれど、自分の家で休んでいたはずではなかったのかしら。どうしてこんな夜にお屋敷まで来ているのだろう。


「皆さんに集まっていただいたのは、発表することがあるからです」


 使用人の人数確認もなく、唐突にロドルフ様が話し始めた。誰が来ているかを確認しないのは彼の場合いつものことなので、もう慣れてきている。


「えー、こちらのリナリアさんと、私は結婚することにしました。あ、結婚というか、まだ結婚じゃないか。婚約ですね。婚約のことを伝えるために、皆さんを呼びました」


 使用人達はぽかんとしている。ペトロッシさんは驚いているようだ。ということは、ロドルフ様からこのことを聞かされていない……? なお、ブラン君は微動だにしていないあたり、聞いていたみたいね。

 当のリナリアは、平然とした顔だ。どこか勝ち誇ったような雰囲気を醸し出している。


「以上です。ではこれで集まりを終わります」

「い、いや、ロドルフ様。それではあまりにも説明が簡単すぎではありませんかな」


 さっさと締めようとするロドルフ様に対して、ゴールディさんが慌てて口を開いた。


「え……簡単でしたでしょうか?」

「はい。その、差し支えなければ私からいきさつをお話ししましょうか」

「はあ」


 ロドルフ様は全く納得がいっていないというか、何を追加で説明することがあるのかと言いたげな顔だ。私としてはいきさつがあるのならば説明してもらいたいところなので、ゴールディさんのフォローはありがたい。


「えー、本日、ロドルフ様と私はドラゴン討伐に成功したことを王都へ報告しに行ってきた。そこで闘いの顛末を大臣に話したのだ。ちなみに王への謁見の許可は得られなかった」

 

 ブラン君がくすりと笑ったのが見えた。


「そこで大臣に、リナリア……様の魔法によってドラゴンを倒したと伝えたところ、えらくその名前に反応されたのだ。リナリア様の容姿や、ストルト家の領地で暮らしていることになった経緯について詳しく尋ねられた」


 ゴールディさんのリナリアの呼び方が『リナリア様』になっていることに気づいた。


「というのも、行方不明になっていて王都に捜索依頼が来ている貴族の女性がいるそうだ。その女性の名前は、リナリア・ダブランド。討滅魔法の大家であるダブランド侯爵の1人娘だ」


 これには使用人達がざわついた。ダブランド侯爵の1人娘がリナリア・ダブランド……それがあのリナリアということならば、彼女は実は侯爵令嬢だったのかと。


 まあ、私は知ってたけどね! ゲームやってたし!


 ◇ ◇ ◇


 その晩、ロドルフ様とリナリアを囲んでの酒宴が急遽繰り広げられた。


 婚約披露パーティーを盛大にやるものと思ったけれど、今日はお屋敷の仲間だけでやるということみたいね。アットホームなのもいいかも。派手なお披露目はまたの機会なのでしょう。


 ただ私は病み上がり……じゃなくてこういうのなんていうのだったかしら? 快気祝い、じゃなくて、怪我明け? ともかく体調が絶好調とも言いがたいので、ブドウのジュースを少しいただいてそこそこに宴会を後にした。


「ジョハンナさん……」

「ごめんなさい、ちょっとまだ体調が優れませんので、もう横になろうかと」


 ペトロッシさんとブラン君が私のことを気遣ってか、しばしば横に来て話しかけてくれていた。


 宴会を抜けた理由について、表向きはこのように体調が理由だった。


 しかし実際は、癒しの力を使えなくなっていること、そしてロドルフ様とリナリアの婚約によりゲームにおけるロドルフ様ルートのグッドエンドが確定したということ、これらが頭痛の種になっていた。私これからどうなるのかしら?


 ブラン君やペトロッシさんだけでなく、多くの人が私の体調を心配してくれた。それを裏切るようで申し訳ない気持ちだわ。


 とにかく寝ましょう。おめでたい話があったというのにこのようにウジウジしていたら、ロドルフ様やリナリアにも失礼だものね。明日は暖かく祝福、できるといいなあ。

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