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35.ジョハンナ 最後の手段

 ドラゴンとの闘いは激しさを増しており、もはや討伐隊は全滅に近い状態に追い込まれてしまった。


 精鋭で臨んだはずだったが、討伐隊の攻撃ではほとんどダメージを与えられなかった。


 持久戦も見越して私とリナリアと今回雇った回復術士で『癒し手』3人体制で臨んだものの、回復術士が早々に倒れ、リナリアはロドルフ様共々ドラゴンのブレス攻撃を浴びてしまい、息も絶え絶えだ。


 ブラン君が魔石によって3体のホムンクルスを操り、その連携によって一度は大きなダメージを与えることができたがドラゴンがそれによって凶暴化。ホムンクルスも倒れ、ブラン君をかばったキャンディスさんも大怪我を負ってしまった。


 私はまだ直撃を受けておらず動けるものの、周りは皆が満身創痍だ。もしかするとすでに亡くなってしまった人もいるかもしれない。

 残っている癒しの力で誰かを回復させるにしても、誰からなのか。治したとして、その後どうするのか。もはや考えている時間がない。


 私は先ほど考えたことを一か八かで実行するため、力を振り絞って立ち上がる。そして走り出す。


 倒れたフレイムホムンクルスの元へ行き、額にはまった魔石を回収する。外れなかったらどうしようという不安が頭をよぎったが、思いのほかすぐに取れた。炎の力を持っているはずだが、特に熱が残っているわけでもなくて安心した。


 ドラゴンに気づかれる前に、続けてアイスホムンクルスのところに辿り着いた。そして同様に魔石を外して持ったまま走る。


 最後にストーンホムンクルスのところだ。倒れているキャンディスさんと、その傍らで呆然と座りこんでいるブラン君が目に入る。流れる血が痛々しい。


「少しだけ待っていて、もう少しで……」


 倒れたストーンホムンクルスの背後を一気に進み、顔の辺りまで躍り出て、ついに前に回り込んだ。そして額に手を伸ばすが、魔石がない!?


 慌てて周囲を見ると、近くの岩の陰に何か光るものがあった。

 どうやらストーンホムンクルスがドラゴンに倒されたときに、魔石もその額から取れて転がってしまったようだ。


 ホムンクルスを離れて岩へとダッシュしようとしたところで、横腹を強烈に何かに打ち付けられた。岩から反対の方向へ体が数メートル吹っ飛び、倒れ込んでしまう。


「あぐぁっ!」


 何本か骨が折れたかもしれない。強烈な痛みで涙が出てくるが、状況を把握するために顔だけを上げて前を見る。

 ドラゴンが尻尾で私をなぎ払ったのだった。


 そしてこちらにドラゴンが顔を向けて、ゆっくりと口を開けた。


「え……」


 火球が来る──

 終わりの予感がしたところで、ドラゴンが口を閉じ、唸り始めた。


「!?」


 見ると、ドラゴンの尻尾に剣を執拗に振り下ろしまくっている姿があるではないか。


「おらあ! 尻尾をぶった切ってやるぜ! こっちを攻撃しろや!」

「ペトロッシさん……」


 先ほど少しの治療が施されただけのペトロッシさんが、戦線復帰して憤怒の形相でドラゴンの尻尾をぶった切らんとしているのだった。

 こちらがたじろぐぐらいに野卑な口調でいつもの丁寧なものとは明らかに違うが、戦闘中でアドレナリンが放出されているものと解釈した。


 こちらを見ることもなくひたすら剣を振っているのは、ドラゴンへの恨みによるものだろうか。

 それとも、私の動きを察して、ドラゴンの注意を自分に向けるために?


「ジョハンナ! これを!」


 さらに突然声がして、私の方に何かが飛んでくる。

 待ってよ、私起きられないのよと思ったが、それはナイスコントロールで私の目の前に落ちた。ストーンホムンクルスの額についていた魔石だった。

 魔石が飛んできた方向を見る。ブラン君がこちらに向けて親指を立てていた。


「ありがとう!」


 私は笑みを返す。

 少年漫画のようなみんなの協力によって、私の手元に魔石が3つそろった。


「これで、私に残っている魔力を増幅させます」


 本来、私の癒しの力では1人ずつ、しかも1箇所を集中して回復させるのが精一杯だ。だが魔石によって魔力を増幅させることで、癒しの力が届く範囲にいる人たちを一気に回復させることが可能となるのではないか。そう考えた。


 もちろんそれを試したことはないのだが、ドラゴンがさらに凶暴化しているこの状況下では、せめてみんなを回復させて1人でも多く逃げ延びてもらうしかない。


 魔石に自分の魔力を送り込み、増幅させて返してもらうイメージを頭に浮かべた。すると3つの魔石が宙に浮いて光り始め、そこから太い光線が私の体に放たれる。


 かつて体感したことのないほどに魔力が全身にみなぎっているのを感じる。

 これならば、できる。


─ エテルナ・ルクス Aeterna Lux─(永遠の光)


 かねてから使おうと思っていたネーミングを披露しつつ、癒しの光がドーム状に私の体から広がる。


 倒れている討伐隊やロドルフ様、リナリアやキャンディスさんたちにその光が届けられた。範囲内にいるドラゴンのダメージも幾分か回復したのかもしれないが、皆の回復が最優先なので、ご勘弁だ。


 体から出ていた光が消え、私の全身から力が抜けていく。そして猛烈な眠気が間髪入れずに襲ってきた。


「う……」


 意識が強制的にシャットダウンされていく。

 気を失う直前に、私の視界の隅で新たに何かがまばゆい光を放つのを捕らえた。しかしここで残念ながら私の意識は途切れる。


 あの光の正体は……

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