34.ブラン 作戦を実行するが
今回と次回は珍しくバトル中心の回となります。
登場人物の転機となりますのでよければお付き合いいただけますと幸いです。
ロドルフ様の奮戦も虚しく、ドラゴンは大きなダメージを受けていない。
逆に口から吐かれたバレーボールの球ぐらいの火球がロドルフ様を襲う。
「危ないっ!」
ロドルフ様をかばう影。
なんと執事のペトロッシさんが身を挺してロドルフ様の前に立っていた。そして向かってきた火球を剣でなぎ払う。しかしなぎ払えるようなものではなく、剣に触れた瞬間に火球が爆発した。
「うわあっ」
爆風が2人を覆う。私はすぐさま駆け寄ろうとするが、どちらを先に治癒するべきか一瞬の逡巡が生じた。そんな私にペトロッシさんが声をかける。
「ロドルフ様を……こちらの大将を先に治さないといけませんよ」
そうだ。ペトロッシさんはあくまで自分の立場と採るべき行動を理解しており、それに従って動いている。覚悟があるのだ。私情を挟んでいてはダメだ。
そう思っているところへリナリアが到着し、すぐさまロドルフ様を治し始める。は、はやい。ということで私はペトロッシさんを治癒することにする。ロドルフ様を治すように言われたばかりなのに……ちょっと気まずい沈黙が一、二秒。
ゴォッ!
何かが飛んでいく音がとどろく。ブラン君が操るホムンクルスの一体であるフレイムホムンクルスが、ドラゴンに負けじと手の部分から火球を生じさせて投げつけたのだ。
しかしその火球はドラゴンが体をひねってかわした。
ドラゴン自身も口から火球を吐いて攻撃してくるのだが、他からの火球を受けるのは嫌だということだろうか?
ホムンクルスを操るブラン君の方を見ると、彼と目が合った。
彼が私に素早く手招きをする。何か作戦があるのだろうか?
現在ストーンホムンクルスがドラゴンと格闘しており、私は地響きが鳴り響く戦場を走りブラン君の元へ急いだ。
木の陰で念じてホムンクルスを意のままに動かしているブラン君。ドラゴンに見つかって狙われたら操縦どころではないため、ややドラゴンからは距離を取っている。
私はペトロッシさんの治癒にめどが付いたところで、場所移動することを決めた。
「ジョハンナさん……無理してはいけません」
「ええ、でもブラン君に何か考えがあるのかも」
伏したままのペトロッシさんが引き留めてくれるが、動ける人間が動く必要がある。
幸いにしてドラゴンに見つからずにブラン君の元へ辿り着くことができた。
「……という作戦を考えたんだ。決まってドラゴンを倒せたら、すぐに怪我人をホムンクルスに抱えさせてここを去ろう。その前に、巻き添えを食わないようにドラゴンから皆を離れさせてほしいんです」
「承知しましたわ」
ホムンクルスを操りながら手早くブラン君が作戦を話し、その時を待つ。
ドラゴンとホムンクルスの格闘に巻き込まれそうな位置には、先ほどペトロッシさんとロドルフ様といたはずだったが、見ると全員そこから姿を消していた。場所の把握はできなかったが、動いて離れたということだろう。
そしてついに機会が訪れた。ストーンホムンクルスに首元を殴られるのに辟易したのか、ドラゴンが火球を吐こうとしている。
ブラン君の考えはこうだ。火球はドラゴンの口元で作られるのではなく体内から喉を通って口から出ているはずだ。体内を火球が通っても平気なのだろうが、ドラゴンはフレイムホムンクルスの火球を避けたことから、皮膚は火への耐性がないはず。
ドラゴンの火球が体内から口元まで至って、mいざ吐かれようとしたその時3体のホムンクルスがドラゴンにしがみついた。倒れていたフレイムホムンクルスとアイスホムンクルスをブラン君が起こし、ドラゴンの背後に忍ばせていたのだ。
1体が体を押さえ、2体がドラゴンの首を掴んで強制的に上を向かせた。そしてドラゴンはそのまま真上に向けて火球を放つ羽目になる。
先ほどロドルフ様を襲ったバレーボール大のものよりもはるかに大きい、ビル解体に使うクレーンの鉄球ばりの大きさのものが出た。
「これで作戦どおり……!」
ブラン君が呟く。真上に放たれた火球が勢いを失い、そのままドラゴンめがけて落下してくる。気づいたドラゴンが身をよじるが、3体のホムンクルスに押さえつけられて逃げられない。
そしてついに火球がドラゴンの背中を直撃した。
「グギャアアア!!」
吠えながらのたうち回るドラゴン。辺りに肉が焦げる匂いが漂う。これで大ダメージを与えたと私は考えた。しかし結果的に裏目に出てしまった。
ダメージを受けたドラゴンはより凶暴さを増して、手当たり次第に攻撃し始めたのだ。首を掴んでいたフレイムホムンクルスを前足で地面に叩きつけ、小型の火球をアイスホムンクルスに次々と命中させる。
瞬く間に2体が沈黙する。
さらに火球を周囲に連続して吐いてくる。悪いことに少し離れた位置にいたロドルフ様と、治癒の途中のリナリアの方に飛んでいった。
「くっ、仕方ないわ」
リナリアは立ち上がり、その場で前方に腕を突き出してバリアのような壁を空間に生じさせた。バリアに当たった火球が爆発し、爆風でロドルフ様もろとも彼女が吹っ飛ぶ。直撃を避けているので大事に至っていないことを祈るしかない。
残ったストーンホムンクルスはまだドラゴンを押さえようと試みるものの、全く勢いを止めることができない。
巨体がドラゴンの尻尾で跳ね飛ばされる。幸い飛ばされた先には誰もいなかったが、振動だけでもかなりのもので、私の体勢を崩した。
そのためブラン君は残ったストーンホムンクルス1体の操縦に専念しているが、ドラゴンに跳ね飛ばされた損傷を気にしたのか、ストーンホムンクルスに駆け寄ろうと、木の陰から飛び出してきた。
それを視界にとらえたドラゴンが素早くブラン君の方を向き、腕を伸ばす。
「ブラン君!」
叫んだ私の視界に、何かが凄い速さで飛び込んできたのが見えた。
「そ、そんな……」
頭をガードした形でうずくまるブラン君。だが彼自身にはドラゴンの攻撃は届いていない。
彼をかばってドラゴンの爪の一撃を受けたのは、メイドのキャンディスさんだった。
「キャンディスさん!」
ブラン君を抱えて無防備な彼女の背中が爪でえぐられ、傷からは血が流れ落ちている。その状態でも、ドラゴンの追撃を避けるために彼女はブラン君を抱きかかえたまま調薬した。
破壊されていない岩陰に隠れるも、その場にくずおれてしまう。
「キャンディスさん! なんで、そんな怪我までして僕を」
「主を守るのが……メイドの勤めですだ」
「でも僕は、ホムンクルスを壊されて、あなたに恨み節を言ったりしてたのに」
「それとこれとは、別でしょう」
私は木の陰から動けないでいるが、2人の会話が断片的に聞こえてくる。キャンディスさんの声は絶え絶えで苦しそうだ。すぐに回復に向かう必要がある。
どうすれば……まずキャンディスさんを回復して、次にブラン君のホムンクルスがまだ使えるかを確認して、いえ、それよりもここは皆で逃げることを考えるべきだわ。
「ホムンクルスの魔石を回収して、ドラゴンに食べさせたらその力が暴走したりしませんかしら!?」
凄くいい案が思いついたような気がしたが、ドラゴンにどうやって食べさせるかがわからないし、食べたことでさらに力を増されたら、私たちは全滅、さらに近隣の街に瞬く間に被害が広がってしまい誰にも止められなくなる。これも駄目そうだ。
だが、『魔石を使う』というアイデア自体には何かひっかかるものがあった。
皆で逃げるという目的を実現するために、魔石で何かできないかしら。
少しの間考えて、私はついに自分の採るべき行動が見えた。




