33.ほとんど全員で出発
王都からきた5人の要件は、ロドルフ様の領地近くにあるダンジョンからドラゴンが出てきて、バスクの森に住み着いているために退治してくれないかという内容だった。
領地内のことであるため王都が口を出す筋合いでもないような気がした。しかし近隣のブロドライン領で農村周辺で目撃されたのちにこちら側へ移動してバスクの森に今は棲み着いているようだという。
ロドルフ様のヴィンフロスト領内で被害が出る前に教えてくれたのは王都側の気遣いか、あるいはやっておけよという指示か。
ちなみに王都から軍を差し向けて退治することも提案されたが、相応の費用がかかるということで、ロドルフ様が突っぱねてしまった。
「お金もかかりますし、そもそもうちには討伐隊がありますからね」
決断が早かったので、後でロドルフ様にこのことについて聞いてみた。
「ロドルフ様は討伐隊を信頼していらっしゃるのですわね。私も数回同行させていただいていますが、やはりドラゴンにも勝てる実力があるというお見立てですの?」
「はあ、いやあ……多分大丈夫だと」
なんとも煮え切らなかった。『もちろん、ドラゴンにも勝てますよ!』とか言ってくれると思ったのだけれど。
素直に軍を出してもらった方が……とも思ったが、私も領地の財政状態を知ることができている関係上、それをすると結構な出費となるために拒否する気持ちもちょっとわかってしまうのだった。
「王都側で防護柵や壁などを作って、ドラゴンの攻撃を防げるようにしたらよいと思いました」
とロドルフ様が王都からの客人に提案していたが、すでにドラゴンが闊歩しているところへ資材を運んで工事を始めることはできないと言われて引き下がっていた。
やはり私たちがなんとかして倒さなければならないようね。
◇ ◇ ◇
なんというスピード感であろうか。
5人が帰ってから3日後の朝、ドラゴンを討伐すべく精鋭たちがロドルフ様のお屋敷の入り口に集められた。
ロドルフ様はもちろん、ゴールディさんやチアゴさんたちおなじみの討伐隊。
精神修行を経てホムンクルスの扱いに慣れたブラン君。拳法を使えて強いことが判明したメイドのキャンディスさんも同行する。
回復役として私とリナリア、そして以前に加わってもらったギルドからの回復術士の女性も加わった。総勢20人になる。
「これだけのメンバーが集まれば、きっとドラゴンも倒せます。ジョハンナさんは後方で怪我人の治癒をお願いしますね。くれぐれも危険な状況に身を置かれませんように」
そう話すのはペトロッシさんだ。
彼は最近の討伐に積極参加しており、今回も剣を携えてメンバーに加わっている。定時で家に帰っているのは相変わらずだったが、そのあとで討伐隊の人と剣の稽古をしていると聞いた。
「危なくなったら私の後ろへ来てくださいね。ジョハンナさんは前へ出たがりのようですから」
「あら、ペトロッシさんが私を守ってくださいますのね」
「いざとなったら、あなたを抱えて脱兎のごとく逃げます」
最近は軽口を交えてはいるが、私を心配していることをそれとなく示してくれる。
私は気にかけてもらえるのが毎回嬉しく、少し顔が赤くなる。怪我をしたならば彼を真っ先に治癒してあげたいと思うものの、立場上贔屓を行えるわけでもない。大事な闘いだし職務に忠実であるべきね。個人の感情は押し殺さなければならないのだけれど……
さて、特筆すべきはブラン君のホムンクルスだった。
屋敷の外にすでに3体が並んでいる。
港湾倉庫では動かしていたのは1体だったが、今日は何と3体を同時に動かしているではないか。魔石をホムンクルスの額に埋め込んで動かしているという認識であり、3体を動かすならば魔石も3つが必要なことになる。
「まさか、あんなデカいのを3体も」
「いつ増えたんだろう、知らなかったなあ」
いつの間にかホムンクルスが増えていたことに皆が驚いているが、私は魔石が増えた経緯も知っていたので、ブラン君の運用がうまくいったことの方に感心した。魔石は私の誘拐事件でアンサモンアモンの1人が落としたものが1つ、そして私の母校である治癒魔法学校の展示室にあったものを、寄付金の払い込みを条件に借り受けたものが1つ。
「このホムンクルスについてはそれぞれ、元からいたのがストーンホムンクルス、増えた2体がフレイムホムンクルスとアイスホムンクルスと呼んでいるよ」
どうも魔石に備わっている魔力の性質によって、ホムンクルスもそれぞれ大地の力、炎の力、氷の力を身につけたそうだ。私はバトル方面に疎いので、こんな感じの理解になった。
ブラン君が説明すると、すぐさまリナリアから質問があった。
「あなた3体も同時に動かせるの?」
「そこは僕も、この日のために昨日まで滝に打たれて修養してきたので、大丈夫なんだ」
ドラゴンの話が伝わったのが3日前なので、そこからずっと滝に打たれていたということなのだろうか? 精神修養の必要性を説いたのはメイドのキャンディスさんだったので、そちらの方を見るとうむうむと頷いていた。つまり大丈夫なのだろう。
「では、これから出発します。目的は、ドラゴン退治です。皆さん生きて帰ってきましょう」
ロドルフ様が皆の前で話し始める。しっかりとモチベーターとしての役割も果たせていそうな導入。
2日前に行われた討伐前の会議にも熱が入っていたみたいで、第二部でロドルフ様抜きで話すといういつもの流れにはならず、皆で集まってドラゴンの発見から攻撃方法、弱点、それぞれの隊列や退治までの流れについて議論した。
甲論乙駁の場面もありつつもまとまったので、皆の顔にどことなく自信が窺えるわ。ただドラゴンの弱点については知見を持っている人がおらず、書物の記録に従うという点だけが調査不足の懸念がある。
「では、これから出発です」
ロドルフ様がさっきも聞いたようなことを繰り返して、皆が歩き始めた。
◇ ◇ ◇
……私たちは窮地に陥っている。
「こ、こんなにドラゴンが強いなんて」
私は思わず弱気なセリフを口にしてしまう。
朝の6時に出発し、正午過ぎにバスクの森に到達した。ドラゴンをバスクの森の奥に位置する洞窟で発見し、洞窟の外に姿を現したところを総攻撃したまではよかった。
ドラゴンの大きさは全長12メートルほどと思われた。アロサウルスの大きい個体がこれぐらいだったわよねと、前世での恐竜の知識をもとにしばし考えてしまった。
見つけるやいなやゴールディさんたち討伐隊の皆が斬りかかっていったが、体が硬いのか刃がまともに通らない。そして尻尾の一撃で数人が跳ね飛ばされてしまい、私やリナリアはすぐに怪我人の治癒に当たるために走り回る。
ブラン君のホムンクルスは3体でドラゴンを取り囲んでてんでに殴っているが、これもあまり効いているとは言えないようだ。
ロドルフ様は隊列の後ろの方にいるのが見えたが、劣勢であるために焦ってか自分も助走してドラゴンに飛びかかる。
「とわあーっ!」
意外なほどに跳躍力があるロドルフ様で、走り幅跳びならば7メートルほど跳べていたのではないだろうか。そのままの勢いでドラゴンの首元に剣を刺した。
「やったか!?」
討伐隊の誰かの声がしたが、残念ながらやっていなかった。




