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32.ロドルフ 名前を忘れる

「王都からの客人ですだ。しかも5人も」


 午後のティータイムの時間帯。私が食堂でペトロッシさんとセイロンのディンブラティーをしばいていると、いえ、私ったら一応令嬢要素があるのに、『茶をしばく』はまずいわね。

 ディンブラティーを楽しんでいると、メイドのキャンディスさんが入ってきて来訪者を告げた。


「要件は何か、お聞きしていますか?」

「はい、ダンジョンから出たモンスターの件で協力してほしいことがあり、お願いにいらしたそうです」

「モンスターですか……ジョハンナさん、一緒に話を聞いていただけますか」


 私は返事し、残っていたセイロンティーを一気に喉に流し込んだ。横目で見るとペトロッシさんも一気に飲んで熱がっているのがちょっと面白い。


 王都からやってきたという5人は会議室に通されており、ロドルフ様とペトロッシさん、そして私が応対することとなった。

 私がこの場にいてもよいのかしらとも思ったが、ペトロッシさんが来てくれと言うならばこれでいいのでしょう。前にもこんなことがあったような気がするけれど、頼りにしてくださっているならば嬉しいわ。


 ロドルフ様に続いて会議室に入ると、円卓に着席していた5人が立ち上がる。そのまま自己紹介の流れになるようだ。


「さて、来訪時にもご挨拶しましたが、私は王都の守護師団の副団長を仰せつかっております、ニクラスと申します」

「領主のロドルフです。よろしくお願いします」


 ロドルフ様がニクラスさんと握手する。


「私は守護師団に所属のガンナーです」

「領主のロドルフです。よろしくお願いします」


 ロドルフ様が続けてガンナーさんと握手。


「カステヤーノです。ダンジョン研究を専門にしております」

「領主のロドルフです。よろしくお願いします」


 ロドルフ様が握手。


「モンスター調査隊のフレッディと申します」

「領主のロドルフです。よろしくお願いします」


 ロドルフ様が握手。


「調査隊のヨルゲンです」

「領主のロドルフです。よろしくお願いします」


 ロドルフ様が握手した。


 よくわからない役職(?)の人もいたが、とにかくロドルフ様が代表して握手して回ってくれたわけだ。

 私は先ほど頼まれていた事項を思い出した。


「ロドルフ様、皆様は確か、領地近くのダンジョンから出てきたモンスターをまとめた調査表をご所望だったのではありませんか?」

「ああ、はい、そうでしたね」


 ロドルフ様はそう言い、ペトロッシさんの方を振り向く。


「ペトロッシさん、モンスターの調査表が必要だそうなのですが」

「その資料でしたら、ちょうど先日の討伐会議の第二部の後でロドルフ様にお渡ししております。取って参りましょうか」

「あ、そうでしたっけ。私の部屋にあるので私が探してきますよ」


 そして席を立とうとするので、私が割って入る。


「あの、私も一緒に探しに参りますわ」

「いえ、おそらく机の上にあるのですが、散らかっているので私しか探せないでしょう。」


 そう言って会議室を出たロドルフ様だが、思ったより早く5分ほどで会議室に戻ってきた。


「ありました。ところでジョハンナさん、こちらは誰にお渡しすればいいのでしょうか」

「あってよかったですわ。そうですね、ニクラス様が最初におっしゃっていましたので、ニクラス様でよろしいのではないでしょうか」


 私がそう言うと、なぜかロドルフ様は困ったような顔をして動きを止めてしまった。

 そして。


「あのー、ニクラス様はその、どの方でしたっけ」

「ええ……先ほど挨拶して握手までされましたのに」


 凄いことを言い始めた。


 自己紹介と握手のくだりは退屈な描写の部分であるために、名前を覚えずに次へ読み進められることを想定していたけれど、当事者であるロドルフ様がそれぞれの名前を認識していないのはなかなかひどい。


 しかもニクラスさん本人がいる会議室内でこういうことを言うのだから恐れ入る。私は小声で答える。ペトロッシさんは渋い顔をしている。


「ニクラス様はあちらの真ん中の席にお座りの方ですわ」

「はい」


 ……『はい』っていう返事もどうなのかと思いますけれど、ともかくロドルフ様はニクラスさんに調査表を渡した。


「ありがとうございます。読ませていただいてもよろしいですかな」

「あ、はい、大丈夫です」


 ニクラスさんは白髪で口周りと顎にひげを生やしたかなりのベテランらしい風貌だ。机の上に置いた腕の筋肉が太く、戦士としてもこれまでに数々の武功を立ててきたのではないかと思われる。


 ただ向こうは王家に雇われた立場であるのに対してロドルフ様は生粋の領主であるので、あまりへりくだったような態度をなさらないことを期待した。私ったら最近結構図々しくなっていますわね。


「……ふむ、この中には記載がないようだ」

「やはり最近になって……」


 手元の調査表に目を通したニクラスさんと、モンスター調査隊の肩書きのフレッディさんが小声で話す。そして調査表が机の上に置かれ、再びニクラスさんが話し始めた。


「そちらの領地近くのダンジョンからモンスターが出現し、バスクの森を浸食してきているというのは、このモンスター調査表でも明らかですな。ただ、この中に記載されていないモンスターがこのほど姿を現しており、近隣に被害が出ているのです」

「新しいモンスターの出現ですか。それはいったい?」


 ニクラスさんがいったん目を伏せてまた前を見据えたりと、妙なもったいの付け方をした後で言う。


「ドラゴンです。しかも結構でかい」


 ……ドラゴンっていうのはだいたいでかいものじゃないかしらと私はツッコみたい気分になったが、ロドルフ様もペトロッシさんもドラゴンという単語に衝撃を受けたようで、口を少し開けたまま固まっていた。

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