31.ジョハンナ スピリチュアルな本に興味を持つ
「へえ、ここがジョハンナの通っていた治癒魔法学校なんだ。割と歴史がありそうなところだね」
「創立80年を迎えて……迎えたんだったかしら。私が在籍していたときにそういうパーティーがあったような」
この会話の通り、私とブラン君は私の母校である治癒魔法学校へとやってきた。目的はブラン君に学校図書館や展示室を見せてあげること。
デートというよりも調べ物メインにはなるけれども、誘拐された私を助けるのに尽力してくれたお礼と考えている。
「あっちが講堂で、あの建物が食堂ですわ。講堂では今日も授業が行われているので入るのはやめておきましょうね」
「うん、とりあえず図書館に行きたいな」
図書館へ移動する。ここは学校関係者以外でも入ることができるため、一般の人も登録さえすれば本を借りに訪れている。
2階建てになっていて上が専門書、下が一般的な書物だ。1時間後に入口に集合する約束をして、ブラン君と分かれた。
さて、図書館に来るのは久しぶりだ。学生時代はここで勉強したり興味のある本を借りたりもしたのだけれど、今は小説を読む気分ではないわね。
そうだ、どうせ読むならスピリチュアルな本にしましょう。
タイトルだけで内容を想像してお腹いっぱいになれるのが私の特技だったが、今日は時間があるので何か読んでみようかしら。私は専用の棚へ移動した。
えーと、『1日12時間睡眠で最高の自分に』、『あなたと私の魂が巡り会いそして別れる』、『レッツ・ハイヤーセルフ』か……タイトルからしてなんか怪しい感じがするわね。12時間も寝たらそりゃ体調はよくなるかもしれないわね。魂の本は、これ巡り会って別れるって物語なの? ハイヤーセルフって動詞? タイトルの文法はこれでいいの?
……
「ジョハンナ、ジョハンナ」
「はっ」
本を読むのに熱中してしまったようだ。ブラン君が私の肩を揺すっていた。
いけないいけない。棚で見つけた『水は何でも知っているので毎日10リットル飲もう』を読みふけっていたら、時間を忘れてしまった。10リットルも飲んだらぶっ倒れるわよとツッコむ気持ちで読み始めたら、なぜか水を利用した殺人事件の話になって、夢中で半分以上読んでしまった。借りていきたいぐらいだわ。
「なかなか本も多くて楽しい図書館だね。なかなか返却しに来れないだろうから借りるのはやめておくけれど、さっき1冊、魔術に関する本を読み終えたよ」
「ブラン君は読むのが早いんですのね。それでは次に、我が母校の展示室をご案内いたしますわ」
展示室は教育棟の建物の中にある。いったん円形の屋根の建物を出て、今度はレンガ造りの建物の中へ。
ここに通う学生であれば勝手に入ることが可能だが、私は一応OGとはいえ部外者にあたる。ということで事前に手紙で、当時担任だった先生に、お邪魔する旨を伝えておいたのだ。『勝手に見て構わない』というお返事もいただいたので、その通りにすることにする。
「はあー、ここが展示室か」
「私も在学中は入った記憶がありませんわ。話に聞いていただけで」
展示室には誰もいなかった。広さとしてはロドルフ様のお屋敷の食堂ぐらいでさほど大きいわけではなく、実を言うと今日母校に来たのも図書館を訪れるのがメインで、展示室は一応回るルートに入れてみたぐらいのつもりだった。
展示されていたのは価値のありそうな絵や高僧の着ていたローブや使っていた杖、寄贈されたらしい魔術書などで、ブラン君が見ても仕方がないものばかりと思った。
私自身もそこまで興味をそそられるものでもないし。今日は長距離移動もあったので少し疲れてきたのよね。
「ブラン君、ここはさっと見て回って、そろそろ帰りましょうか」
「うん……ちょっとこれが気になるので、もうちょっと待ってもらってもいい?」
ブラン君はある展示物の前で立ち止まり、ずいぶんと熱心に見ている。何かと思うと、それは私も以前に見たことがあるような石だった。
「これは……もしかして魔石?」
ブラン君がホムンクルスを動かすときに使っていた魔石とは色が違うが、同じような形状で、なんとなく魔力を帯びていそうに見える。
「そうなんだ。そこで、ジョハンナに教えてもらいたいことがあるんだけど」
◇ ◇ ◇
母校をブラン君と共に訪れてから2週間ほどが経過した。あれからあまり会えていないが、ブラン君は再び研究に没頭しているようだ。
「ジョハンナさんにお手紙が届いてますだよ」
田舎から来たメイドのキャンディスさんが、私宛の手紙を持ってきてくれた。見ると、なんとこの前に行ったばかりの治癒魔法学校からだ。
何かしら? この前の図書館や展示室を利用した料金の請求書だったら怖いわね。
「ん? 寄付のお礼?」
中身はなぜか、私が治癒魔法学校に寄付をしてくれた支援者を見つけたということになっており、そのお礼が書かれていた。
「このタイミングで寄付をしたというのは、やはり……?」
私はブラン君の部屋へ向かった。
「うん、僕が寄付したんだ」
「どうしたんですの? そんなにあの学校の図書館や展示室がお気に召して? まさか私の母校だから……?」
「いや、まあそうでもあるような、そうでもないような」
「???」
謎めいた回答に困惑する私。
「その、あの展示室にあった魔石を借りられないかと思って」
「えっ、そのために私の母校に寄付を?」
「魔石自体は譲ってくれなかったし、借りるにしてもタダじゃ貸してくれないだろうから……僕の貯金をだいぶ使ったよ」
ブラン君が魔石を借り受ける理由はホムンクルスに使うことに間違いないと思うが、お金を出してわざわざ借りるとは、並々ならぬ決意を感じる。
「それで、いったいいくらほどの金額を寄付されましたの?」
「うん……ゴニョゴニョ」
ブラン君が私の耳元で告げたその金額は、私を3年ほど雇っておけるほどの金額だった。
私が学校関係者への交渉に入れば、もっと安くできたかもしれないと思うと歯がゆい。お金というのは、あるところにはあるものなのね。一応子爵令嬢であるのに、ちょっと卑屈な気分になる私であった。




