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28.ロドルフ 取引をぶち壊すようなことを言い出す

 港湾倉庫での取引の場。取引の対象は私で、その対価としてお金が払われるというわけだけれど……


 すでに倉庫の奥の方で待機していたのは私をさらった男達のうちの2人。銀髪で若いレオポルトと、筋肉質のマクファーソンだ。私は手を縄で縛られて、その縄の先をマクファーソンが握っているために動けない。


 この男達の方を見ると、顔を見られないためかなんと仮面を被っている! しかも道化師風の奴だ。レオポルトはともかく、マッチョなマクファーソンには絶望的に似合っていない。

 私は顔を覚えても、先に見せてもらった忘れ薬とやらで忘れることになるのだろうから、今のうちにこの似合わなさを堪能しておこうかしら。

 

 つい先ほど、ロドルフ様達が倉庫へ入ってきたのが確認できた。一緒に来たのはペトロッシさんとブラン君だ。

 あくまで入口付近から動かないロドルフ様たち。こちらを見ているから私の姿は確認できたはずだ。


「ジョハンナさんは無事のようですね。それでは、お金を持ってきましたので彼女を返してください」


 そう言ってロドルフ様が大きな布袋を取り出して掲げる。金貨が入っているのか、チャリチャリと音がした。


 私のためにお金を持ってきてくださるなんて。申し訳ない気持ちが湧いてきた。しかしそもそも、私は単にレジスの愛人と間違えられてさらわれただけだから、落ち度はないようにも思える。

 結果的にロドルフ様の愛人という嘘を信じ込ませて、こうして男達を港湾倉庫に誘導できたわけだけど……


「金貨の入った袋を、俺たちとお前らの中間地点に置け」

「……?」


 レオポルトが低めの声を作って指示する。しかし哀しいかな、ロドルフ様には意味がわかっていないようだ。


「あの、私がそちらへ移動したら、それに合わせて中間地点も移動してしまうのですが」

「……今の地点からの中間地点だ。目測でいいからな」


 素でなかなかのことを言うロドルフ様はいつもと同じだが、ペトロッシさんは鬼のような形相に変わっている。しかもその怒りはロドルフ様に向いていそうな雰囲気だ。真剣な場でおかしなことを言われたのでイライラしているのかもしれないわね。

 レオポルトがフォローしているわけだが、結構この人も真面目なのかもしれない。


「よし、要求通り300万ゴールド分の金貨があるな」


 床に置かれた布袋をレオポルトが回収し、こちら側に持ってきて金貨を数えた。要求されてたのは300万ゴールド。私の年収ぐらいの金額だわ。ロドルフ様を呼び出す手紙に、奴らの要求通りに私が金額を書いたので驚きはしないのだけれど。


「まあ、金も手に入ったことだし、このお嬢ちゃんを引き渡すか」


 私の手を縛った縄の端を持ちながら、マクファーソンが言う。


「あなたたちにはこうしてお金を渡しましたが、この先もうまく行くなどとは思わないことですね」


 唐突にロドルフ様が話し始めた。その場の皆がきょとんとする。


「そちらの正体は、悪名高いパーティーの『アンサモンアモン』でしょう。レジスの家を燃やしたのもあなたたちですね。すでに自警団にはあなたたちを捕らえるように連絡してあります。ここからは逃げられませんよ。そちらの企みももはやこれまでですね。ふはは」


 ロドルフ様が一気にいろいろな情報を開示して、勝ち誇ったような締め方をした。「ふはは」の棒読み感が凄かった。

 ……でも、このタイミングで挑発的なことを言うべきじゃなくないかしら?  私まだ、解放されていないんですけども。


「ほ、ほう、この領主様はなかなか言うじゃないか。前半で言っていたことは当たりだよ」


 レオポルトもロドルフ様の発言に戸惑っていたようだが、冷静さを取り戻したらしい。それと同時に怒りも湧いてきたようだけれど。仮面を被っているので顔はわからないが、怒りをかみ殺したような顔をしていそうだわ。

 とはいえここで、奴らがレジスの家を燃やした『アンサモンアモン』であることはわかった。となるとなぜ私に『シルバーレイク盗賊団』などと名乗ったのかしら?


「後半では俺たちが逃げられない、と言ったな? ではその身で確かめてもらおうか」


 そう言ったレオポルトは先ほど私を脅すときに見せたように、左手に魔石を握りしめて右手を前に出す。炎を出すつもりね。


「皆さん! この男は手から炎を出して攻撃してきます! 一箇所に固まらないで、ばらけてください!」


 私は大声で叫ぶ。それを合図にロドルフ様とペトロッシさん、そしてここに来てから全く出番がなかったブラン君が散らばる。ブラン君は私と目が合い、うなずいてみせた。これならこの後も大丈夫そうだ。


「あんた俺たちの素性を知っていたな。レジスから聞いたんだろうが……こうして悪い方向に名前が知られているにもかかわらず、俺たちが現役でパーティーを続けられている理由がわかるかな?」

「いいえ」

「それは俺が強すぎて、自警団も他のパーティーの奴らも俺を倒せないからさ」

「そうなのですか」


 ロドルフ様の興味のなさそうな返事もどうかと思うが、レオポルトはどうも自らの強さにかなりの自信を持っているらしい。


「そらっ!」


 魔力を溜めていたレオポルトの右手から炎の弾が飛び出すが、それはロドルフ様たちを狙ってではなく倉庫にあった鉄製の棚に命中する。熱された鉄棚が赤く変色した。

 自らの魔法の威力を見せたかったのだろうけれど、いまいち見た目が映えるやり方ではなかったような気もするわね。


「どうだ、俺の炎魔法の威力を見たか? 命中すればお前達は生きてはいられま……」

「はあっ!」


 レオポルトが口上の途中だったが、横から一気に接近してきたペトロッシさんが剣で斬りかかる。


「うおっ! 人が喋っている最中に襲うとはなかなかひどいことをやるものだな!」

「くっ、踏み込みが浅かった」


 剣をかわしてレオポルトが後ろに飛ぶ。ちょうど石のような塊が置かれている壁付近まで来た。


「もういい! ここで貴様ら全員死んでもら……」


 ドゴッ


 またもレオポルトが言い終わる前だったが、今度は石の拳がレオポルトの横腹に思い切り当たり、奴の体が3メートルは吹っ飛ばされた。


「が、がはっ、何が……」


 ブラン君がうまくやってくれたようだ。

 倉庫に残されていた石のような塊は、以前にここでブラン君が披露したホムンクルス。暴走したためにキャンディスさんに破壊され、その後自己修復したのか切断されたはずの手足がつながっていたが、額の魔石は取り外されて行動不能になっていた。


 私が炎を警戒してばらけるようロドルフ様たちに叫んだ際に、ブラン君はこっそりホムンクルスのところへ到達し、持ってきていた魔石をその額に付けていた。

 そしてペトロッシさんが斬りかかってレオポルトをホムンクルス付近へ誘導。ブラン君がテレパシーでホムンクルスを動かして拳を当てた、というのが今の流れだった。


 幸運なことに吹っ飛ばされたレオポルトは顔の仮面が吹っ飛んだばかりか、左手に持っていた魔石を手放していた。ペトロッシさんが剣の切っ先を彼の顔に突きつけて動かないよう牽制し、その隙にブラン君が転がった魔石を回収している。


 港湾倉庫を取引場所に指定したことで、ペトロッシさんが私の意図に気づいてくれることを期待していた。ブラン君をここへ連れてきてくれた時点でもう考えが伝わったようだと思って感激していたけれど、まさか打合せなしでここまでうまくやってくれるなんて、ブラン君も含めて凄いわ。

 私は背筋がゾクゾクとする興奮を覚えていた。


 残る問題は、私がマクファーソンが手に持つロープで未だ拘束されていることぐらいね……

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