25.ジョハンナ 人違いで誘拐される
レジスの家で彼が、評判の悪いパーティー『アンサモンアモン(召喚されないアモン)』と取引の件でトラブルを抱えていることを聞いた。
不法な手段を使うこともいとわないアンサモンアモンは、レジスがほしがっている花を渡すという内容で取引したが、なんと花を強盗して入手してきたため、レジスはこれ以上取引できないと突っぱねたというのがいきさつだった。
「寝ていたらすでに家が燃えていたんだ」
家が不審火で燃え、火傷を負って近くの宿で療養しているレジスか。彼からの被害報告を聞いて、私は恐ろしくなっていた。
レジスは自分の家を高い門で囲んでおり、いざとなったらそこに立てこもるつもりだったようだが相手の方がそれとは関係なくダメージを与えてきたことになる。
私は今日は久々に仕事がお休みであるため、街まで買い物に出かけることにした。
レジスの件があって明るく買い物を楽しむ気にはなれなかったため、仕事に使う本と食料品ぐらいを見て帰るルートを頭に描いていた。
憂鬱さを抱えながら歩いていると、視界の隅、曲がり角の辺りの地面にわずかに炎が揺らめくのが見えた。
「えっ、ここでも火事?」
改めてそちらに目をやると、なぜかその炎が角を曲がった辺りに引っ込んだ。
何が起きたのか不思議に思い、後を追って角を曲がる。すると炎はさらに道の先の次の角のところで揺らめいている。
明らかに不審な動きだが、目を放して本当に火事になってはまずい。あいにくなことに周囲に他の人もいないため、私が追いかけていくしかない。
炎を追いかけて2回ほど角を曲がらされたところは、袋小路だった。しかも建物に囲まれて影になっている。
「なんか、まずいところへ誘いだされたような……」
そう口に出したところで、後頭部を何かで殴られた。意識がなくなっていく。
……ああ、せめて薬とかで眠らせてくれれば痛くなかったのに。
◇ ◇ ◇
私が目を覚ましたところは、どこかの部屋の中だった。窓がなく扉が1つあるだけだ。時間がわからない。
どうも椅子に座らされ、手を後ろで縛られているようだ。
口には猿ぐつわもなく、自由に喋ることはできそう。ということは私が声を出しても、拘束者の側としては問題ない場所にいるのだろうか。
後頭部はズキズキと痛む。殴られた傷があるのか、コブになっているのか。触って確かめて、できれば癒しの力で治してしまいたいが手を動かせない。
得体の知れない相手に拘束されている状況であることを認識すると、今になって怖くなってきた。ただ、すぐに殺されなかったということは何かしらの目的があって拘束されているのだろう。
「お、この女、目を覚ましたようだ」
私を見た口ひげのある中年の男が話し出す。
この男を含めて部屋には4人。肩まである銀髪の若い男、目の周りに隈のある短髪の男、そして胸元のざっくり開いたシャツを着ている筋肉質の男だ。
口ひげの男が近づいてきて椅子に座っている私を見下ろす。
「なあ、レジスは元気か? そろそろ俺たちの話も聞いてほしいんだがな」
「えっ……」
私とレジスのつながりを知っている? そんなに彼と顔を合わせる機会は多くなかったはずだし、私を捕らえることにレジスとどういう関係があるのかしら。
まあ、やはり何らかの理由があって私はアンサモンアモンにさらわれた、ということなのかしらね。状況的に。ため息が出そうになるがこらえる。
「レジスに用があるの? 私はレジスとは何の関係もないわ」
「何だと? とぼけてんのかこのアマ」
そう言った口ひげの男が仲間の顔を見て、嘲るようにクックッと笑う。
私がアンサモンアモンのことを口に出せば、レジスからその話を聞いて知っていることになってしまう。レジスとは無関係と装うならば、これからの発言には気をつけなければならない。
「あのなあ、こっちは知ってるんだよ。レジスがこの前自分の女と2人で旅行してたって。あれがアンタだろ?」
りょ、旅行? レジスと旅行に行ったことなんかないし。それこそ男性との旅行なんて、治癒魔法学校の合宿研修ぐらいしか経験がない。この男達が言っているのは、もちろんそのことではないだろうが。
「どうしてとぼけるのだろうね。レジスが1ヶ月ほど前に、貴族のような装いをした美女とリンベルの街を旅行していたというのを、情報屋から聞いているというのにね」
今度は銀髪の若い男が話し出す。
貴族の装いの美女とリンベルの街を旅行……? これって、リナリアのことじゃないの!
レジスが女性と旅行したというのは、仕事の関係でリナリアを伴ってリンベルの街へ行っていた件なのだろう。あの街で見られる沈みゆく夕日が綺麗だということで、口説き目的でレジスは仕事とは関係のないリナリアを出張先に同伴していたのだった。
私はヤムシブさんの土地売買の件でレジスと相談したく、リンベルの街まで彼を追いかけていたが、私自身はこの男達にはノーマークだったらしい。
「貴族のような装いをしている女性は街にはそんなにいませんからね。ただ先日、あなたが高貴な服装をした男と共にレジスの家から出てくるのを目撃しました。その男のことは知らないが、1ヶ月ほど前にレジスと共にいた美女というのはあなたですよね」
私が美女に該当するかはともかくとして、リナリアと私が間違えられたのか。
リナリアは日頃レストランで働いているので、高級な服も着ていないし。
思い返せばリンベルの街の彼女は商談の場にいる可能性もあって普段着ではなかったのね。
こいつらすでに私の顔を知っていたようだけれど、それならなんで、そもそもの旅行相手についてもっと精査しないのよ!
納得したと同時に理不尽な目に遭っている怒りがこみ上げてくる。まあ、リナリアが代わりにさらわれれば良かったというわけではないんだけど。
憤りながらも、私はどうやってこの窮地を脱しようか考え、頭を回転させていた。
徹底してレジスと私は無関係だと主張しようか……? いや、それが通じたとしても用なしと見なされて私は殺されるかもしれないし、その後はおそらくリナリアがさらわれることになる。
隙を見て逃げ出すこともできない。外へ出られるドアの真横に筋肉質の男が立っているし、手を椅子にくくりつけられているから自由が利かない。
考えた末に私は、嘘を交えて話し、男達の思惑通りに事が進まないようにしてやろうと決めた。




