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15.過去に首にされた使用人が屋敷に現れる

 最近私が手伝い始めたとはいえ、それでもロドルフ様の仕事量が多いのか、毎日夜遅くまで執務室の明かりが灯っている。それこそ私が入浴して就寝しようかとする時間帯までも。


 仕事熱心なのは素晴らしいと思うが、領主に体調を崩されでもしたら困る。ロドルフ様が大量に抱えている仕事というのはどういうものなのか、密かにペトロッシさんに聞いてみた。


「ロドルフ様の仕事ですか。それはもう、多岐にわたります」


 前に私に軽い口調で話していた彼だったがまた丁寧語に戻っている。あのときはキャラを崩してしまったとでも考えているのだろうか。もっと気安く喋ってくれてもいいのに。


 とは言えロドルフ様の仕事を自分はやらなくてよくなったと判断したのか、いろいろと饒舌に話してくれる。仕事内容を知っているのならばロドルフ様を手伝ってあげても良さそうなものだが、給料以上の仕事はしないというのがペトロッシさんの心情らしい。私が口出しするところでもないか。


「ロドルフ様は何でも自分でやりたがるお方です。いくらかの仕事はジョハンナさんに任されたそうですが、今でも取引相手との契約書の取り交わしや、使用人の雇用関係、そしてモンスター討伐の計画やその会議などは前と変わらずなさっていますね。また収入が減っていないかについては特に毎月目を配っていらっしゃいます」


 お金がなければ立ちゆかないし、私のお給料も出ないから、ロドルフ様がそうして注意深く見てくれるのはありがたいことだと感じた。ただ、話の中で出てきた収入のことが気になった。


「あら、でもそもそもロドルフ様はどういった収入を得ているのかしら。外へ働きにいってるわけではないでしょうし」

「ここの領主としての収入は二本柱です。1つめは領地に住んでいる人たちからの徴税。その代わりに領民の安全を守ったり保証したりしているわけですね。もう1つは領地内でできた作物を売っています。こちらは人を雇って実務は任せていますがね。まあ、そもそもストルト家は裕福だったのもありまして、あまり生活に困るようなことにはなっていませんね」

「なるほど、資産が潤沢にあるというのは羨ましい限りですわね」


 前世でも感じていたような私の本音が出る。


「もともとロドルフ様のお父上、つまり先代の領主様の頃ですが、財務の関係はヤムシブという出納担当に一手に任せていました。しかし先代が亡くなりロドルフ様が跡を継いでから、過去の財務記録に疑問を持ちだしたのです」


 ロドルフ様の仕事の話のはずが、なんか社会派小説みたいな展開だわね。でもこうしたゴシップっぽい話も、私は嫌いではないのだった。


「お父上が健在のときに遡り、謎の支出があったことをロドルフ様が突き止めたのです。かなりの額が使途不明に屋敷から消えていたのですね。2年前にこの責任を取らせる形でヤムシブを首にしたのですが、ヤムシブが横領をしていたという確固たる証拠まではありませんでした。ロドルフ様は疑わしきを罰したということになりますね」


 あの、誰にでも敬語で接する穏やかそうなロドルフ様が過去に使用人を追放していたなんて……物腰からは想像もできない処置が行われていたことを知り、少し背筋がぞくりとした。


「それで、その首になった財務担当の方はどうなりましたの?」

「さあ……噂が広まったために領土内で働き続けるのは難しかったとみえて、別の土地に流れていったみたいですよ。少なくとも近辺で目撃したという話は聞いていません」

「横領疑惑のお金は返されたのかしら?」

「それについてはロドルフ様とヤムシブとの間で話し合いがなされましたが、結局帰っては来なかったみたいですね」


 いろいろ事情を知っている割に、この件についてのペトロッシさん自身の関わりが見えてこない。私はそこも気になったので尋ねてみた。


「ペトロッシさんはその話し合いは聞いていなかった、ということ?」

「ええ。その話し合いは19時からでした。時間外でしたので」


 以前から、やらなくていい仕事は徹底してやらない方針だったらしい。


「あと気になるのは……」


 私が言いかけたとき、部屋のドアが開いたことにより会話が中断された。


「あ、あの、ロドルフ様にお客様なのですだが」


 部屋に入ってきたのはこのお屋敷唯一のメイドであるキャンディスさんだった。

 年は私より少し上だろうか。丸めの顔に愛嬌があって私もたまに話をする。彼女は田舎からやってきたばかりでまだなまりが抜けていないものの、家事や客応対に関しては無難にこなしているとペトロッシさんから聞いた。


「うん? ロドルフ様のお客様であれば、お通ししてロドルフ様に会っていただけばよいのではないでしょうか?」

「そ、それが、お客様というのがヤムシブさんなんです」


 一瞬、ペトロッシさんも私も固まる。うーん、噂をすれば影とはよく言ったものだけれど、タイミングよく話題の人物が登場したわけだ。


「ヤムシブ……姿を見るのは首になった時以来です。キャンディスさん、彼を応接室へ案内して、それをロドルフ様にお伝えしてください。私も同席するので」


 指示を出してすぐさま自分も移動しようとするペトロッシさんだったが、私の方を振り向いてこう言った。


「ジョハンナさん、あなたの先ほどの疑問にもあった、ヤムシブが首になってからどうしていたのか、それがわかる機会が訪れましたね。同席されますか?」


 これはまた、難しいことを聞くものだ。ただ、いくら私でも、本人に「ここを首にされてからどうしてましたか」なんてデリカシーのないことは聞きやしませんわよ。でも……


「ええ、財務に関しては私も担当しますし、そのヤムシブさんが財務関係の件でいらしたのであれば私も同席いたしますわ」


 ペトロッシさんが頷く。


「ペトロッシさん、最後に1つだけ教えていただけますこと?」

「ええ、手短でよければ」

「ヤムシブさんは本当にお金を横領していたと思いますか?」

「そりゃあ、もちろんやっていたと思います。彼はそういう男です」


 確信を持った表情で、彼はそう言った。

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