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13.ジョハンナ ゲームの設定から考えてみる

 さて、森で倒れていたリナリアがロドルフ様たちモンスター討伐隊によってお屋敷に連れてこられたのが1週間前のこと。

 彼女はゲーム『グレイスフル・ランデブー』の主人公であり、ゲーム上では悪役令嬢の私と対立する関係になる。


 森で負っていた傷を自らの力ですぐに治したリナリア。

 自分の名前は覚えているが、身分やなぜ森を彷徨っていたのかは覚えていないという記憶喪失状態になっていた。


 ロドルフ様は彼女も私と同じく『癒し手』として雇用したいという考えもあったようで、実際に誘っていたがリナリア本人が固辞した。

 彼女はお屋敷を出て、街のレストランで働くことが決まった。近くに家も借りて1人暮らしを始めるらしい。


「必要なときに呼んでいただければ、いつでも参ります」


 と、あくまで一線を引いた格好だ。

 それでもたまにお屋敷に顔を出し、ロドルフ様と話し込んだりもしている。ロドルフ様はどうも彼女に一目惚れしたのではないかと思われる。


 そうなると屋敷に彼女が来たときに私とも顔を合わせる機会が出てくる。悪役令嬢の私としては、どう接しようかと決めかねている。

 実は今も自室で、彼女と今後どういう関係で行くのがベターか判断が付かず、悩んでいるところなのだった。


「うーん、高圧的に接してお屋敷から追い出す路線はそもそも性に合わないし、そんなことをするとゲームで主人公のリナリアがグッドエンドを迎えたときに、悪役令嬢の私に待っている結末も容赦ないものとなるに決まってるわ」


 初対面の時は先輩風を吹かせて『癒し手』の仕事のこととかお屋敷のことを教えてあげようとしたら、あっさり拒否された。先輩路線はダメだ。


 そもそもリナリアは記憶喪失の状態にあるけれど、乙女ゲーム『グレイスフル・ランデブー』をプレイしていた私は彼女の正体を知っている。


 端的に言うと、彼女はダブランド家の侯爵令嬢なのである。


 もともと令嬢としての生活が堅苦しいものだとして嫌がっていた彼女。子どもの頃から放浪癖があり、このときもお供も連れずに旅していたら、ちょうどロドルフ様のヴィンフロスト領内にあるバスクの森でモンスターに襲われて、気絶したというわけだった。そこをロドルフ様たち討伐隊に発見されている。


「ゲームのことを抜きにしても彼女に冷たく当たっていたら、いざ彼女の身分が明らかになったときに、意趣返しされますわよね」


 身分によって接し方を変えるのは自分でもどうかと思うのだが、とりあえず知っている情報は盛り込んだ上で彼女への接し方を決めようと思った。


「まあ、彼女の出方を見ることが先決。私の対応もそれに合わせていきましょう」


 ◇ ◇ ◇


 私が自室で悩んでいた翌日。

 お昼ご飯を食べようと食堂に行くと、なんとリナリアが屋敷内の食堂でご飯を食べているではないか。今後の参考にちょっと気になっていることを聞いてみよう。


「リナリア、こっちに来てから会った人で、誰か気になる人はいまして?」


 食堂で食事を終えた彼女に、いきなりこのような質問をしてしまった。


「はい?」


 何言ってんだ色ボケか、と言いたげな顔で私を見てくるリナリア。しかしここでひるんでは何にもならない。


「その、例えばロドルフ様とお会いして、どういう印象を持ったかなとか聞ければと思って」

「ロドルフ様……誰にでも優しく接する方ですね。穏やかな物腰で、困難にも冷静に対処なさっていて、あの涼やかな目がまた素敵です」


 ん? 何か口調まで変わったのも驚いたが、リナリアがロドルフ様をそれほど好意的に見ていたとは驚いた。


「そ、そうなのね。では弟のブラン君はどう?」

「ブラン君は研究熱心な方ね。とても頭がよくて、そもそも利発そうな顔をしていらっしゃるわ。一所懸命研究を続けている姿は応援したくなります」


 ブラン君にも好意的なのか。リナリアの目がキラキラしているように見えてきた。


「えーと、ではペトロッシさんは……」

「ペトロッシ? あの執事ね。ありゃダメだわ。不親切。この前、ロドルフ様とデートするからおすすめのスポットとデートコースの候補を明日までにまとめといてって言ったら、あの男断りやがるのよ」

「それは……何時ぐらいに頼んだのかしら?」

「あれは私が仕事終わりに屋敷に寄ったから、夜の8時ぐらいかな。そしたらあいつ、時間外がどうとか言って結局やってくれなかったわ」


 うーむ、いきなり辛辣に変わった。誰にでも好意的なわけじゃないのね。

 私はちょっとホッとした。

 そもそもやはりペトロッシさんは時間外の仕事は拒否なのか。20時から翌日のデートについて人に調べさせるリナリアもなかなか酷な気がするが。


「レジスについてはどうかしら? 会って間もないかもしれないけれど」

「ロドルフ様のご紹介でお会いしたことがあります。若いのに自分で商売を始めていて尊敬できますわ。腕も太くて筋肉質でたくましいし。いざというときに頼りになるのはああいう男性かと」


 レジスに対しても高評価だ。これまで聞いた内容で、私にはリナリアのある傾向が見えてきた。一応それを補完するために質問を続ける。


「えーと、ゴールディさんとかにはもう会いまして? 彼はモンスター討伐の指揮を執っていまして」

「そいつ、うちのレストランに来たわよ!」


 私が言い終わる前にリナリアが声を荒げた。


「私がたまたま胸元の開いた服を着てたら、チラチラとそっちに目をやっていたわよ。そういうの、見られてる側は気づいてるに決まってるのにね」


 思った通り( ・・・・・)、ゴールディさんには辛辣だ。

 これで1つの予測が立つ。つまりリナリアは、『ゲームの攻略対象の男性に対しての好感度が高い状態でスタートしている』し、彼らへの態度もゲームと同じように友好的なのだ。恋愛感情にも発展しやすくなっているのかもしれない。


 ロドルフ様、ブラン君、レジスは攻略対象としての位置づけであるため、恋愛で結ばれればグッドエンドになる。一方ペトロッシさんやゴールディさんはゲーム内ではあくまでサブキャラ。裏ワザで攻略対象になっているとも聞いたことがない。


「じゃ、じゃあチアゴさんは……」

「はあ? 誰よそれ、知らないわ」

「あの、討伐隊の1人でベテランっぽい人で」

「知らないってのに」


 うーん、知らないか。だけどもうちょっとサンプルがほしいわね。


「それではドナルドソンさんは……?」

「何なのよ、知らないわよその人も」

「ロドルフ様のお屋敷の庭師なんだけど」

「なんで私が屋敷の庭師の名前までいちいち覚えてなきゃいけないのよ! あんたさっきから何が聞きたいわけ!?」

「ご、ごめんなさい」


 怒りだしてしまった。このへんでもうやめておこう。

 しかしリナリアは、初対面の時の取り尽く島もないような態度とはだいぶ変わっている。しかもこんなに感情をあらわにしてくれるなんて。

 私には本音で接してくれているということなのかしら。そう考えてちょっとニコッとする私だ。


 ……あれ? それって嬉しいことかしら?

 今の私の立場って、単にブチ切れても支障がないと思われている相手か、あるいは愚痴こぼされ係じゃないの? そんなことに気づいてしまった。


「店に来る客でたまに私の胸とかあからさまに見たりするのがいて、信じられないわよねー」


 そんな私の心境には気づかずにあけすけに話すリナリア。ロドルフ様と話しているときのおしとやかさはどこへやらだ。見事な二面性……しかし、実はちょっと思い当たるところがあった。


 ゲームにおける主人公は、画面の中の男性キャラが露骨な口説き文句を言ってきたりすると、とりあえずは素直に反応してロマンチックなムードを醸成したりすることも多い。だが画面の外のプレイヤーは、「うっわ、何言い出すのこいつ」「それじゃときめかんわー」と、場合によってはダメ出しが口をついて出ることすらある。


 つまりリナリアの二面性は、恋愛ゲームの主人公としての顔と、それをプレイするプレイヤーの顔が出ているのでは。きっとそうだ。そう考えて一人うなずいてみると、彼女に怪訝な顔をされた。


 ということで、今度は特に理由はないけど彼女の職場であるレストランへ実際に行ってみることに決めた。そう決めた!

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